MELニュース2025年12月 第93号

「自然に勝る強者はいない」を実感する師走となりました。
先月末から、国連気候変動条約締結国会議(COP30)に続きワシントン条約締約国会議と重たい国際会議が続きました。
地球温暖化の影響が拡がる中、秋サケの深刻な不漁や瀬戸内海のカキ大量死に「臨界点」を越えたのではないかとの指摘があります。一方、ワシントン条約締約国会議におけるウナギ属全種を付属書Ⅱ(商取引は可能であるが、輸出国政府発行の輸出許可証が必要)に掲載すると言うEUの提案は否決されましたが、ウナギ消費大国日本にとり、これで安心と言うわけには行かない厳しい課題を抱えることになりました。MELの立場からは、天然資源の回復への努力継続と、人工種苗実用化の一日も早い実現を願っています。

1.国際標準化関連

先月号でMELの承認継続審査(MOCA)の承認が来年になる見込みと報告しましたが、GSSIはクリスマス休暇の前に何とか承認にこぎつけてくれ11月26日付でMELのMOCA承認を公表しました。

CEOの退任問題で事務局混乱の中、各位のご尽力にお礼申し上げます。

2.認証発効関連

今月の認証発効は残念ながら0件でした。手続き中が何件かありますので、新年から心機一転頑張ります。

3.認証取得者からのご報告

今年の秋サケ漁が記録的不漁で終漁した中で誠に悪いタイミングではありましたが、漁業、加工、販売を一貫して手掛けられる藤本 信治様に、北オホーツク海の水産への想いを披露いただきました。

「定置網漁業は日本が世界に誇れる漁業」

藤本漁業部代表
株式会社オホーツク活魚代表取締役
藤本 信治

表題にこの表現をしたいと思い、世界に定置網の様なサステナブルな漁法がどれだけ存在するだろうと調べてみました。すると世界的にも定置網的漁法は存在しますが、日本の定置網漁業は漁法と資源管理と地域共同体が一体化した生産システムとしている点で世界において体系化・高度化された完成度の高い漁業の一つであることがわかりました。まさに北海道知事許可の秋鮭定置網漁業は100年の歴史があり北海道の漁業者・民間増殖団体・研究機関・行政が一体となってふ化放流事業でサケ資源の維持安定に取り組み、加工流通と結びついた産業です。近年の温暖化の影響で冷水系の魚である鮭の資源が厳しい局面に立たされています。こんな状況な時こそエコラベルを通じて秋鮭定置網漁業が資源を持続的に利用するために様々な取り組みしていること、漁法自体が地球にやさしいことを生活者の皆様に発信し、応援してもらうことが大事であると思います。

当社が事業を展開している北海道北オホーツク地域は流氷に育まれた肥沃な海において輪採制種苗放流の帆立漁業、資源保護のために許容漁獲量制度を実施している毛蟹篭漁業、そして人工ふ化放流事業と共に持続してきた秋鮭定置網漁業が主力漁業として資源管理型漁業が実践されています。これらの漁業にもMEL認証が広がればより加工流通業者の関心を高め、この地域のブランド作りに貢献するのではと思っています。

当社のMELへの取り組みは2012年に親会社である藤本漁業部が小型定置網漁業と秋鮭定置網漁業で生産者段階認証を、オホーツク活魚が流通加工段階認証を取得しました。さらに2014年には、北海道定置漁業協会宗谷支部の秋鮭定置網漁業が生産者段階認証を、枝幸水産加工業協同組合が流通加工段階認証を取得してくれました。
私たちが認証を受けた目的は、季節ごとに回遊してくる様々な魚種が生きたまま漁獲され、鮮度保持がし易く、漁場が港から近く回遊してきた魚を待ち受けて獲る環境に負荷をかけず海と資源にやさしい定置網漁業の素晴らしさを生活者の皆様に知ってもらい、資源管理への取り組み、資源の有効活用への取り組みを応援してもらいたいと思ったからです。

また、MELは生産者と加工流通業者が連携して取り組むことが重要であり、一体となってこの地域の水産ブランドを発信する契機にもなり得ると考えたからです。その想いは今も変わりません。
『多様性豊かな日本の海の恵みを世界へ』を掲げるMELの活動に各地の定置網漁業で漁獲されるローカルな魚種はまだまだ貢献できると感じています。北海道北部で漁獲される寒冷系のエイの仲間カスベも資源が安定していて産業有用種と思われる魚種です。各地のローカルな魚種にも資源評価の調査研究がなされ、新しいMELを通じて地域の魚達も世界に向けて適正に活用され、水産業に携わる皆様に恩恵がもたらされることに期待しています。

藤本社長有難うございました。漁業だけでなく、加工・販売を通した付加価値化への想いがひしと伝わってきました。北海道の水産物は日本だけでなく、世界の人々にとり宝物です。関係される皆様が力を合わせ大切に守り育てて行かれることを願っています。勿論、MELもご一緒に頑張りますので何なりと申し付け下さい。

4.関係者のコラム

先月に引続き、東京海洋大学副学長 舞田正志先生による養殖関連の論考です。いよいよ核心に入ってきました。

「養殖生産とエコラベル認証-2」

東京海洋大学 副学長 舞田正志

エコラベル認証の目的は、「天然資源の保護、環境の保全ならびに消費者の信頼に配慮された責任ある持続的な養殖生産の重要性を認識し、それを実現するための取組を評価して適正な養殖生産の普及促進」に資することです。この目的の実現のために、生産者の皆さんに取り組んでいただきたい具体的な取組内容を提示したものが養殖認証規格ということになります。
持続的養殖生産体制を確立するために必要な要件として、まず、「種苗」について考えてみましょう。MEL養殖規格では、原則として人工種苗の使用を求めています。現時点で天然種苗の使用を認めているのは、資源評価が行われ、資源量が高水準にあるとされているブリ類のみです。ブリ類で人工種苗の導入に踏み切れない理由として、過去に人工種苗を使用して奇形や成長に問題があったことを挙げられています。人工種苗の奇形や成長に関する問題は種苗生産技術に関する研究の進展により解決されることを期待していますが、過去の経験により導入に二の足を踏むのではなく、人工種苗を使用することのメリットに目を向けて積極的に導入に向けた取組を検討することをお願いしたいと思います。天然種苗は採捕時期が決められていますので、全国の養殖場で種苗を導入する時期はほぼ同じ時期になります。親魚の成熟誘導技術により、種苗の生産時期を調整することで天然種苗と異なる時期に養殖場に導入することで従来にない新たな生産計画の下で、利益を得られる生産体制が構築できる可能性があるのではないかと思います。近年は海水温の上昇が問題となってきています。高水温に耐性を持つ種苗を育種によって生産する技術の開発も人工種苗を使用することのメリットになることでしょう。また、高水温性の魚種と成長が早く、肉質の良い魚種の交配(交雑種)や3倍体の種苗生産も新たな養殖経営の戦略をもたらす手段となるのではないでしょうか。ちなみに、交雑種や3倍体など染色体操作による種苗は、認証基準4.3.3「適正な環境リスク評価が実施されていない遺伝子組み換え生物を養殖用種苗として使用していないこと。」には適合しています。このほか、人工種苗の使用は天然種苗に由来する寄生虫のリスクを回避することができるので、餌の管理と合わせて、EU向け生食用の輸出を可能にします。このように、人工種苗生産技術を駆使して、今後の養殖環境の変化に対応しながら養殖生産を継続していくことにつながる従来にない生産体制を考案できる可能性に着目することも必要なのかもしれません。
「餌」については、MEL養殖規格Ver.2.0からモイストペレットの使用に制限が設けられました。持続的に使用可能な養殖用餌料として固形配合飼料への転換を求めています。天然の多獲性魚類資源を守るためには、多くの養殖対象種において餌のたんぱく源として使用される魚粉や生餌の削減が必要ですが、モイストペレットでは限界があります。もちろん、代替たんぱく源として使用されている大豆たんぱくなど植物たんぱく質にも長期に安定したたんぱく質源といえないかもしれません。将来には、植物プランクトン、動物プランクトン、プランクトン食の魚類など食物連鎖を人工的に再現した養殖用餌料の生産体制が必要になるかもしれませんが、その技術が開発されるまでの期間、現実的な対応としては加工残渣や食品廃棄物を含む都市残渣など未利用資源の飼料化(魚粉代替資源)が重要になると思います。その際、ネックとなるのは認証基準4.2.3「飼餌料に含まれているタンパク源が、飼育されている水産動植物と同種同属のものでないこと。」です。養殖魚において、同種同属のたんぱく源を使用することのリスクについては現在のところ使用を禁止する科学的根拠はないとすることが多くの意見です。GSSIのベンチマークツールがこの要件を削除すれば、加工残渣や食品廃棄物を含む都市残渣など未利用資源の利用が進み安定的な飼料に寄与するものと考えています。このような見直しがなされれば、より、取り組みやすい規格になるものと期待しています。

舞田先生有難うございました。先生からの示唆を事業者の皆様と共有出来る様頑張ります。引続きよろしくお願いします。

5.イベント関連

11月18日イタリア ローマで開催されましたICFA(国際水産団体連合)の年次総会に、大日本水産会枝元会長の一行のメンバーとしてMEL協議会から秋本課長が出席しました。MELの活動として、CSIと連携して産業支援型のエコラベル活動の推進を報告しました。
また、翌19日にICFA/FAO情報交換会に於いて、FAOのテクニカルガイドラインの養魚飼料における同種同属由来原料の使用不可規定が水産加工や消費から発生する残渣の活用を妨げていることを指摘しました。FAOからは、ガイドライン見直しの際に検討する意向が表明されました。

12月20日、豊洲市場魚がし横丁のコミュニケーションスペースでMEL親子教室を開催しました。東日本大震災および能登半島地震復興支援事業である「夢市楽座」とのコラボイベントで、お子様にはクリスマスカード作りの工作を、この間保護者にはMELアンバサダーを務める「さかひこ」氏のMEL紹介動画を使って水産エコラベルの学習をしていただきました。MELの担当者による、ささやかな手作りの催事ですが、参加者には好意的に受け止めていただけました。

6.書面による臨時総会および第44回理事会(書面)を行いました

11月25日に開催しましたMEL協議会理事会の承認を得て、故長岡英典理事の後任の理事選任のための総会(書面)を行いました。全会員から平井克則大日本水産会常務理事のMEL協議会理事就任を承認いただきました。平井理事は、続いて開催しました理事会(書面)でMEL協議会専務理事に選任され、22日付で就任しました。これで、MEL協議会が業務執行理事および規格委員会委員長不在の状況は解消され、正常に戻りました。会員および認証取得者の皆様どうかよろしくお願い申し上げます。

7.鹿屋市漁協様のMEL認証付きカンパチがオーストラリアに初輸出されました

鹿屋市漁協様はカンパチでMEL養殖認証Ver.2.1を取得しておられますが、この度MEL認証をテコにオーストラリアへの輸出が決まったとの連絡をいただきました。冷凍フィーレ5トンとのことで、12月6日付の南日本新聞にも掲載されました。

鹿屋市漁協様は、カンパチへの給餌をモイストペレットから固形配合飼料への切り替えを3年計画で取組み中であり、輸出が軌道に乗ることを期待します。

西高東低の冬型気象が続いています。インフルエンザの流行と共に、公共交通機関の車内はマスクのオンパレードになりつつあります。
多難であった乙巳年も余すところ1週間となりました。やって来る丙午年も一段と厳しい予感がしますが、圧力に負けない様ご一緒に頑張りたいと願っています。
健康に留意され、良い年末年始を過ごされますことをお祈り申し上げます。

以上