
日本も世界も、政治・経済・社会とも不安定なまま秋が深まりつつあります。
「分断」という言葉が、様々な枠組みの提案者や担い手が誰であろうと、今の激流を落ち着かせるのは容易でないことを示唆しています。
因みに、スウェーデンのV-Dem研究所の「民主主義レポート2025」によると、2024年末時点の民主主義国家は88ヶ国に対し、独裁国家は91ヶ国 人口比で72%と政治的な二極化の進行を報告しています。
1.国際標準化関連
今月は、前半に大阪・関西万博と連動したTSSS 2025と第4週にはCSIのフォーラム、ASMIレセプション、IFFO年次会議、GFF年次総会等多くの業界人が東京に集まりました。
この様な過密とも言えるスケジュール中で、GSSIから事務局長(CEO)のØyvind Ihle氏の辞任含みのstep downが発表になりました。体調不良が理由と報道されていますが、この混乱で先月中に承認されるはずのMELのMOCAは残念ながら決着が先送りになりました。業務の中枢である事務局長(CEO)の機能が不全となることに危惧を覚えています。
MEL協議会は、マリントラストと現在MELが進めている配合飼料、魚粉・魚油認証制度導入について協働の可能性についての意見交換を、また4月に発足したCSIとはMELがCSCと交わしたCoC認証の相互承認のCSIへの移行について詰めました。いずれも双方が考える方向は大きくずれていないものの、具体的な点については更なる議論が必要という段階で、継続して検討することとしました。
MEL協議会として多くの課題を抱えることになりますが、筋を間違えない様に取り進めます。
2.認証発効関連
今月の認証発効は、養殖認証2件、CoC認証1件でした。累計は漁業認証25件、養殖認証75件、CoC認証185件、計285件となりました。
3.認証取得者からのご報告
今月は、高知県でマダイの養殖に取り組まれる大東冷蔵(株)様の宮田洸輔様が思いを語って下さいました。
「“認証”という“安心感”」
大東冷蔵株式会社 宮田 洸輔
弊社は冷蔵倉庫業が生業ですが、昔は近海で水揚げされる雑魚を冷凍し「生餌」として養殖漁業者様へ販売を行っておりました。 時代の流れから、現在は「配合飼料」が主になっていますが、変わらず養殖飼料販売に携わっています。
しかし、近年、高齢化や後継者不足等を事由として、お客様である養殖業者様の廃業を目にし、このままではいけないと思い、高知県様のご協力も得ながら須崎市浦ノ内湾、野見湾にて自社での真鯛養殖を創業し、今日に至っております。

MEL養殖認証を取得する事となりましたのは、お取引先様からのご依頼がきっかけでした。 国内にてMEL養殖認証魚を販売するという事でお話を頂き、そこから様々な道のりがありましたが、2024年12月付けで無事認証を取得できました。その折には現場の皆様、養殖漁業者様に、大変なご協力を頂き、感謝の気持ちしかありません。
現在、弊社のMEL養殖認証魚は近畿圏を中心とした活魚出荷が主となっております。 2014年10月より水産加工場を立ち上げており、真鯛を中心にフィレやロイン、ポーションカットやスライスまで幅広く加工させて頂いております。その加工品もMEL認証水産物として皆様にご提供できればと思い、近日中にCoC認証も取得するべく動いているところです。
現在、認証水産物というものは海外の市場において重要視されている項目の一つです。中には「認証等の付加価値が付いたものでないとお客様にご納得頂けない」というバイヤー様もいらっしゃいます。 その理由として、認証がついている事への“安心感”というものがあります。「どうせ日本の物を買うなら良い物を買いたい」という気持ちが海外のバイヤーはありますが、その“良い物”をどう担保するか。営業マンがいくら安心安全を謳った所で「ではそれをどう証明するのか」となると、なかなか難しいのではないでしょうか。
そんな中で、第三者の目線で評価される認証が活きてくると思っています。
まだ弊社の方ではMEL認証を活かした輸出等には着手できておりませんが、今後そういった取り組みにも励んでいきたい所です。そして、MEL認証が海外でも広く認知されるお手伝いもできればと思っております。
宮田様有難うございました。きっと近々取り組まれるであろう海外市場での販売にMEL認証を大いに活用していただくことを期待しています。
4.関係者のコラム
乾様シリーズ3回目は、乾様の長期にわたるフィールド活動に裏打ちされたMEL協議会への貴重な示唆をいただきました。
「MELの新たな視点の提言」
乾 政秀(㈱水土舎 相談役)
MELの3つの認証分野のうち漁業認証は25件と最も少ない。このうち沿岸漁業分野(淡水、汽水の2件を除く)は11件であり、船曳網6件、底曳網2件、刺網2件、定置網1件という内訳である。魚種別では、浮魚資源が6件、その他魚類が3件であり、沿岸の定着性資源はウバガイとシラエビの2種だけだ。
MELは「水産資源の持続性と環境に配慮している生産者」を認定するもので、養殖業や流通・加工の分野についてはこの概念は理解しやすい。しかし、前号でみたように沿岸域の定着性資源(前号で指摘した沿岸域の貝類、甲殻類、頭足類、イカナゴやシロザケ)はほぼ軒並み減少傾向を辿っている。逆に言うと、持続的に安定していない水産資源についてはMEL認証の対象にはなりにくい。したがって漁業認証の分野で、とりわけ沿岸漁業の地先資源において認証件数がほとんどないのは当然といえる。
しかし、MELの目的である「未来につなげよう海と魚と魚食文化」「多様性豊かな日本の海の恵みを世界へ」のスローガンを実現するには、まさに現在じり貧状態に置かれている沿岸漁業の再生、復活を図ることが重要なのではないだろうか。現状を追認するのではなく、未来に向かって沿岸漁業を再生する取り組みを支援することをもう一つの認証の柱にしてもいいのではないかというのが私の提言である。
著者は現役時代、資源管理により水産資源の持続的利用を図っている事例を数多く調査し、多くの漁村地域で先進事例に学ぶべきと普及に努めてきた。しかし今日の状況を見ると、こうした漁業者による資源管理の取り組みは、人為的環境変化や自然環境の変化に対して全く無力であることを実感させられる。
例えば長崎県小値賀町のアワビの資源管理や伊勢・三河湾におけるイカナゴの資源管理などは当時、資源管理の「優等生」と呼ばれていた。しかし、現時点では小値賀町のアワビ生産量はゼロ、伊勢・三河湾のイカナゴはすでに禁漁になって10年が経つ。
水産資源の持続性を阻害する要因は、生産者自体が抱える問題(乱獲等)と生産者自身の手をはるかに超えた外的な環境・生態系の変化によるものに大別されよう。上述した事実は資源管理(漁業管理)だけで、資源の持続的利用を図ることは困難なことも物語っている。生産量の減少を漁業者による「乱獲」と一括りにする識者も少なからずいるが、沿岸漁業生産の一方的な減少は生態系の変化や環境要因などの外的要因に起因することが圧倒的に多いのだ。
前号で示した沿岸水産資源の減少をもたらしている要因は、藻場の消失、干潟・浅場の消失、汽水域の消失、海砂の採取、河川工作物による海への砂の流入阻害、遡河性魚類の遡上障害、栄養塩類の管理、農薬の流入、カワウやナルトビエイなどの食害(生態系の変化)、そして近年の水温上昇(温暖化)などである。
温暖化は人間の手でどうすることもできず受け入れるしかないが、その他の要因は人の関与によってある程度克服が可能である。このうち干潟や浅場の造成や河川工作物の撤去、魚がのぼる河川づくり、栄養塩類の管理、農薬規制などは行政サイドの役割であるが、漁業者と消費者、企業などの協力によって実現可能な方策もある。
一例を示しておこう。藻場を再生するためには藻食性魚類を積極的に漁獲し、食圧を軽減することにある。ところがアイゴやイスズミなどの藻食性魚類は、食べてみれば美味しい魚であるにもかかわらず、①内臓が臭い、②アイゴの場合は背鰭に毒がある、③なじみが少なく食べ方がわからない、などの理由により流通から阻害されてきた。このため資源量が減らず、したがって芽吹いた大型海藻は片っ端から食べられてしまい、磯焼けが固定されている。この問題を解決するには、藻食性魚類を積極的に漁獲し、これを食料として流通させることにある。藻場が再生されれば、アワビ、トコブシ、ウニ類などの資源も再生し、なおかつ食害で苦しめられているワカメ養殖などにも朗報をもたらすであろう。

こうした活動をする漁業者、加工業者、流通業者、飲食店などを認定し、国民的理解を求めていくことが新たな分野として想定されるだろう。MELが新機軸を創成し、沿岸魚漁業の再生に向けて益々発展していくことに期待したい。
乾様、3回にわたりMELを運営して行く上で極めて重みのある指摘・提言を賜り誠に有難うございました。関係の皆様と共有しながら活用させていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
5.「責任ある水産物調達ラウンドテーブル」が発足
国の重点施策に一つであった「食料システム法(食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進および食品等の取引の適正化に関する法律)」の持続的な供給を実現するための事業活動の促進の部分が10月1日に施行されました(残りの適正化の部分は来年4月1日施行予定)。
これに合わせ政府は「食料システムサステナビリティ課題解決プラットフォーム」を設立し、官民で連携して取り組むこととしています。
折から水産業界では、10月2日にシーフードレガシーが、日本の有力水産物関連企業が参加する「責任ある水産物調達ラウンドテーブル:The Japan Responsible Seafood Roundtable」の発足を公表しました。
参加企業は極洋、セブン&アイHDS、ニチレイ、ニッスイ、マルハニチロ、丸紅シーフーズ、三菱商事の7社および事務局としてシーフードレガシーです。

取り組みの重点課題を
➀人権デューデリジェンス
②環境デューデリジェンス
③透明性あるトレーサビリティの実装
とし、10月より活動を開始、まず情報共有と協働から、徐々に活動の輪を拡げ、2026年には共通ガイド作成を目指し、更には多くの企業やステークホルダーに参加を呼びかけるとしています。食のサステナビリティと適正な流通が、国を挙げての取り組み課題として各方面に広がりつつあることを思わせる出来事です。
6.CSIによるフォーラムが開催されました
10月20日にCSI(Certified Seafood International)が主催しASMIとGSA(Global Seafood Alliance:BAPの上部組織)が共催のフォーラムが開催されました。世界中からの登壇者があり、特にアラスカの水産物にとり重要な市場である日本を意識した盛大な会となりました。

日本で既に4社がCSIのCoC認証を取得しておられ、日本生協連様も積極的に認証商品を取扱うとの方針の報告がありました。CSIの一行はフォーラム後、水産庁はじめ関係先への説明を精力的に行われ、手応えを感じた様です。
CSIへの参加に合意している8ヶ国うち既に移行が完了しているアメリカを除く7ヶ国の状況は、各国の産業の事情が異なるものの、漁業単位で認証取得が進んでいる様です。CSI認証取得の原則はあくまで漁業単位とし、RFMプログラム等GSSIの承認を受けたスキームとは(MELもこの一員)連携して出来るだけ低いコストで水産物の持続可能な利用を推進しようと考えているとの説明でした。
7.MEL審査員研修会を実施しました
本年度のMEL新規審査員養成研修会を10月14-16日に実施しました。テクノファ会場での対面研修会であったこともあり、オブザーバーを入れ11名の参加者の皆様が真剣に受講されました。水産エコラベルの新時代に向け、社会からの多様な要請に対応する上で審査員研修は益々重要になる流れの中で、充実した研修会となったと受け止めています。
8.イベント関連
10月6-10日、恒例の農林水産省「消費者の部屋」に出展しました。「さかなの日」に連動した水産物消費拡大から、水産エコラベルまでの展示と商品等の紹介が行われる官民協働の場です。
今年は能登半島地震復興関連の取り組みの報告も加わり、滝波農林水産副大臣はじめ国会議員の皆様、また水産庁藤田長官が参加され盛会でした。

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九州はまだ真夏日が残り、北海道は初雪の便りと日本列島は多様です。ある調査によると、「秋を感じる食材」は水産物では➀サンマ、②サケ、③戻りカツオとされていますが、サンマの健闘はあるものの、秋サケ、カツオとも厳しい展開になっています。関係者の悲鳴が胸に刺さります。
世界的に見ても、北東大西洋のタイセイヨウサバの2026年の漁獲枠のICESによる大幅削減勧告や、ワシントン条約事務局によるEU提案のウナギ全魚種について規制の「採択を勧告」するという最終評価公表がビジネスを揺るがしています。世界が生産国も消費国も足並みを揃えることの難しさの一端を示していますが、科学的勧告と産業を抱える各国政府の政治的合意がどの様に進むか気が揉めるところです。
これから一気に秋が進む様相。体調管理には充分気を配ってください。
以上