MELニュース2025年9月 第90号

観測史上最も暑かった夏も、さすがに彼岸を過ぎてようやく朝晩秋の気配が漂って来ました。これからは一雨毎に季節が深まって行くのでしょうか?
海の方は、気象庁が8月末に黒潮大蛇行は「2017年8月に発生以来史上最長の7年9ヶ月で終息した」と発表しました。沿岸のシラス漁から沖合のカツオ、サンマ、イワシ,スルメイカ等の漁獲への影響が気掛かりです。サンマの豊漁が明るいニュースとしてポジティブに報じられている一方で、陸側の受け入れ能力を理由に13年ぶりの休漁による生産調整が発動されました。因みに13年前の2012年の漁獲量は21万8千トンでした。不漁の予報が出ており、スタートの漁模様が気にかかる秋サケがサンマに続いてくれることを願っています。

1.国際標準化関連

9月5日にGSSI事務局より、ベンチマーク委員から指摘を受けた『ロゴマーク使用管理規程の「認証水産物と非認証水産物の混合規定細則」につき製品内に含まれる認証水産物が95%を下回る場合のMELの規定は、GSSIベンチマークツールに不適合』について、ベンチマーク委員会としてMELの主張を考慮した仮承認を決定したとの連絡を受けました(仮承認の意味は、今年始まるベンチマークツールの改訂で95%に関連したガイダンスの文章とコンポーネントテキストの不一致を修正することとし、今後MELも含めたスキームオーナーを加えて充分な議論を行うことを前提とする承認)。最終段階である理事会に承認を求める申請が行われ、9月中に承認が得られる見込みです。4月完了の予定から大幅に遅れましたが、一応の決着ということになります。ご支援をいただきました関係者の皆様に深謝申し上げます。
今後は、CSI等の友好スキームオーナーと連絡を取りながら、MELの主張が認められる環境づくりを進めます。

2.認証発効関連

今月の認証発効は養殖1件、CoC2件でした。養殖では宮城県南三陸町ケーエスフーズ様がギンサケ陸上養殖で初めてMEL認証を取得されました。発展を期待します。

3.MEL認証取得事業者からのご報告

今月は、7月に養殖認証を取得された富士山サーモン(株)専務取締役岩本 修平様に取り組みの心意気を吐露いただきました。

「100年伝統の養殖を、これからの100年へつなぐために」

富士山サーモン株式会社 専務取締役 岩本修平

2025年7月23日、富士山サーモン株式会社はMEL認証を取得いたしました。私たちがこの認証取得にあたり重視したのは、生産管理の可視化です。魚の管理はもちろんのこと、備品や設備、人の働き方まで含めた総合的な管理体制を整えることに注力しました。

環境との共生が大切なテーマです。当社は昔ながらのかけ流し養殖場で、自然の恵みを受け、育てています。このかけ流し式養殖は日本では100年以上続く内水面養殖で、主に山間地でひっそり続く漁業です。その伝統もありながら、現在の養殖のさまざまの世界基準をクリアして、世界中に出荷できる高品質のサーモンを養殖しています。基本ですが、給餌率を徹底的に管理すること、水質検査など、数値の管理と透明性を確保しています。社員教育ではOJTを通じた業務の可視化に加え、外部のプロ人材を活用した人材育成を実施。魚も人も健康で安全であることを前提に、持続可能な養殖の仕組みづくりを進めています。
さらに私たちは、生産管理を一層効率化するため、自社で生産管理アプリを開発し導入しました。給餌量や出荷量、水温や天気、在庫量などを記録し、現場の声を反映した仕組みによって業務効率が向上。数値の精度も高まり、スタッフ間の情報共有がスムーズになったことで、公休日を増やすことも可能になりました。毎週月曜日の定例オンラインミーティングで情報を共有し、マニュアルやToDoリストを整備して社内全体に周知。異業種出身の社員も含め、誰でも仕事を理解し実行できる体制づくりを進めています。
私たちの取り組みの柱は、トレーサビリティとサステナビリティがあります。生産から流通までの情報を明確にし、消費者が安心して選べる魚を提供することを大切にしています。その一環として、鮮魚専門運送会社が毎日、養殖場まで保冷車で集荷に来る体制を整えています。これにより「養殖場から市場まで」が一貫したコールドチェーンでつながり、新鮮で安全な状態を保ったまま全国各地へお届けすることが可能となっています。
輸出については、現時点で自社で直接海外へ販売しているわけではありませんが、仲卸業者様を通じて北米やアジアへ届けられています。今年3月には豊洲輸出連携協議会の一員としてボストンシーフードEXPOに参加し、日本の魚とともに弊社の「富士山サーモン」「ホワイト富士山サーモン」を展示・試食していただきました。寿司文化とともに日本の魚の品質は高い評価を受け、確かな手応えを感じています。海外では養殖の認証は必須条件であり、取得の必要性を強く実感しました。認証が一気通貫で消費者まで届く仕組みが実現すれば、輸出に限らず国内販売にも大きな意義を持つと考えています。
私たちがブランドとして目指すのは、安全・安心で世界一美味しい、刺身グレードナンバーワンのサーモンを育てることと、日本の風土の中で、日本フレーバーのサーモンをこの先100年養殖していくことです。その挑戦の過程で認証を取得できたことは大きな意義があり、MEL認証を活かした出荷や営業活動を進めてまいります。これからも挑戦を続け、その価値を認証を通じて国内外に届けていきたいと考えています。

岩本様有難うございました。8月のジャパン・インターナショナル・シーフードショーに合わせて実施されました認証証書授与式での岩本いづみ社長の情熱にあふれるメッセージを思い出しております。MEL認証がお役に立てることを願っています。

4.関係者のコラム

先月に続き、(株)水土舎の創業者・相談役の乾様の寄稿第2弾です。乾様のライフワークとしての取り組みが伝わります。

「減少する沿岸漁業生産と沿岸生態系(エコシステム)の変化」

乾 政秀(㈱水土舎 相談役)

戦後ほぼ一貫して200万トン前後で安定していた沿岸漁業の生産量は、1990年に200万トンを下回り、以後坂を転げ落ちるように減少の一途を辿ってきた(図1)。ちなみに1980年代後半に200万トンを上回ったのはマイワシ資源の豊漁期に当たっていた。
統計が公表されている直近の2023年は、マイワシ資源の回復期であるにもかかわらず、87.1万トンと、戦後最低を更新している。この間、漁業就業者は大幅に減少しているが、その原因は、沿岸漁業の対象資源の減少によって漁業が儲からない産業になったことが大きい。

前号の「ホタテガイに学ぶ二枚貝類の増養殖」でも述べた通り、わが国の貝類の漁業生産(養殖業を除く)のうち、ホタテガイ以外の貝類生産はわずか6.5%にすぎない。かつて乾鮑として輸出品であったアワビは西日本ではほぼ壊滅的状態であり、アサリも盛期の1/30ほどに激減している。また内湾性の本ハマグリはすでにごく局所的に分布するだけで、スーパーで目にするのは外洋性のチョウセンハマグリが圧倒的に多い。
甲殻類では、クルマエビは辛うじて種苗放流によって生産が支えられ、サルエビなどの小型エビ類やガザミなどのカニ類の生産も大きく減少している。また富栄養化した海域で資源が増加した「汚染に強い」はずのシャコも近年著しく減少している。

一方瀬戸内海では、近年マダコの減少が顕著である。2000年当時の約12,000トンから減少し続け、2023年にはおよそ1/6の2,000トンに落ち込んでいる。また播磨灘から備讃瀬戸にかけて多く漁獲されていたイイダコは激減、消滅寸前の状況にある。
地域的なローカル群で構成されるイカナゴは全国的に大不漁であり、さっぱり獲れなくなった。また栽培漁業の大成功例であるシロザケは近年三陸沿岸を中心に激減しており、地域経済を大きく疲弊させている。
シロザケは母川回帰が強いことから沿岸性の資源であり、その他の生物種は何れも定着性が強い。これらの定着性資源の減少原因について振り返っておこう。

二枚貝類が大幅に減少したのは、その生息場であった河口域の干潟や浅場が埋め立てられて生息場を失ったこと、河川工作物の建設によって砂の供給が細ったことが原因だろう。腹足類のアワビやトコブシが西日本各地で壊滅的に減少したのは、長期的かつ広範囲にわたる磯焼けによって餌である大型海藻がなくなったことが原因である。餌のないところに種苗を放流しても意味がなく、沿岸生態系の荒廃が腹足類の資源を減少させたわけだ。磯焼けの発生は水温上昇に伴いアイゴやイスズミなどの藻食性魚類が長期にわたって定着し、海藻を食べ尽くしたことが原因とされている。篭やネットなどで藻食性魚類の食害防止を図れば、大型海藻は育つことが実証されているから、食圧の軽減つまり藻食性魚類の積極的利用によって資源水準を低下させれば、大型海藻の再生は不可能ではない。アワビやトコブシと同様、ウニ類も西日本各地で激減しているが、その原因は餌である大型海藻の消失である。藻場生態系の喪失が高価な水産資源を奪った。
エビ類やガザミ類、シャコの減少原因は二枚貝類と同様、干潟・浅場の減少に加え、浚渫などによって形成された穴内の海水が成層期に貧酸素になることによる酸欠も大きな影響を及ぼしていよう。また陸域で使用される農薬の影響も無視できない。欧州ですでに使用が一部禁止されているネオニコチノイド系の殺虫剤は日本では依然として使用されており、水溶性の高い同農薬は最終的に海に流入する。これは昆虫類と同じ節足動物門に属する甲殻類に対しても昆虫を死に至らしめると同じ効用をもたらす。海辺の近くで大量にチョロチョロ這いずり回っていたフナムシが、近年、地域によってはすっかり姿を消していることは、農薬の疑いを強くするものだ。
近年の水温上昇は、「渡り」のマダコに好ましい影響を与え、東北地方でマダコ資源は増加している。近年の水温上昇はマダコにとって好ましいことであるにもかかわらず、「地つき」である瀬戸内海のマダコ資源は大きく減少している。ところでマダコやイイダコの餌は甲殻類や貝類である。瀬戸内海におけるタコ類の餌は近年著しく減少しており、餌のバイオマスとタコ類の漁獲量の間には正の相関関係が明瞭である(図2)。このことから瀬戸内海におけるマダコ、イイダコの減少は餌がなくなるという海の生態系の変化に根ざしているのではないかと疑われる。

瀬戸内海や伊勢・三河湾におけるイカナゴ資源の減少は、水温上昇に伴う夏眠期間の長期化に対して、近年の栄養塩類の減少に伴う基礎生産力の低下が夏眠前の親魚の成熟不良を起こしているという説明が一般的である。一方、常磐、津軽、北海道の各系群についての不漁原因はよくわかっていない。またシロザケについては、とりわけ本州において天然遡上できる河川がほぼ皆無になるなか、母川回帰するシロザケを河口域で捕らえ、人工種苗生産を長期にわたって繰り返してきたことの影響が危惧されている。自然産卵できる野生のサケの復活を求める声が次第に大きくなりつつある。
以上、縷々述べてきたように、沿岸水産資源が近年顕著に減少している原因は、沿岸域の環境・生態系の変化が大きく影響しているのだ。
共同漁業権魚種である貝類などの定着性資源は、もとより漁業協同組合を中心とする組織が管理し、持続的な資源利用に努めてきた。しかし、今日の事態はもはや漁業者だけの努力の範囲を超えた大きな問題になっているのである。沿岸漁業の再生・復興のためには、多くの消費者、企業、行政、試験研究機関などの広範囲の関係者の連携が求められているといえよう。

乾様有難うございました。ご指摘の点こそが、「日本発の水産エコラベル」を標榜するMELが取り組まなければならない最も重要な課題であると認識しています。今回漁業認証に特化して、5月 八木 信行先生、6月 阪井 裕太郎先生、7月 田中 栄次先生、そして8,9,10月を乾様に執筆をお願いした所以であります。一連のシリーズが特に沿岸の漁業者の皆様のお役に立てることを期待します。

5.イベント関連

9月10-12日、昨年に引続きシンガポールで開催されましたSeafood Expo Asia 2025に大日本水産会の呼びかけで、日本の水産物の持続可能な取り組みを世界に発信する目的で参加しました。
今年は、JETROの日本パビリオンが出展を取りやめたため日本勢として少し寂しい感はありましたが、大日本水産会・MELの連合を中心に、日本ほたて貝輸出振興協会、日本養殖魚類輸出促進協議会、高知県水産物輸出促進協議会等、16の団体・企業がブースを構えました。MELのブースではGSSI承認をはじめとする制度の紹介を行うとともに、共同出展された焼津の高橋商店様が「一本釣りかつおタタキ」の試食提供等をされ、来場者からポシティブな反応がありました。今後の取引に発展することを期待します。
全体として、アメリカ向け輸出品への関税への不安がある中、新たな輸出先開拓への事業者の姿勢が強く感じられました。また、認証水産物への認識が広がっていることを実感しました。

25-26日、東京ビッグサイトで開催されましたFood Style Japan 2025に大日本水産会とともに初めて出展しました。今年は第20回記念開催であり、4-6ホールを使った盛大なイベントでした。外食ならびに関連産業の展示会であり、MELとしては中々浸透できていない業界である外食との接点を持つキッカケとなることを意識しました。来場者から予想を上回る反応を頂きました。

9月5日に弊会専務理事(大日本水産会 常務理事)長岡英典が急逝しました。通夜、葬儀・告別式には多くの皆様に参列いただき心からお礼申し上げます。

長岡の長年にわたる業界への貢献に敬意を表すると共に、この間皆様から賜りましたご支援に深謝申し上げます。

長岡の思いを引き継ぎ、MEL協議会一同頑張りますので今後ともよろしくお願い申し上げます。

以上