MELニュース2025年6月 第87号

中東の火種がくすぶり続く中、アメリカによるイランの核施設への直接攻撃が行われました。イスラエル・イラン間の攻撃・報復の応酬へのアメリカの参戦と考えるべきでしょう。和平を口にし、これ以上拡大を望まないと言いながら、その裏でアメリカが周到な攻撃の準備をしていたことに言葉もありません。国際社会が長らくタブー視し自制してきたことを、こともあろうに米国が壊す事態は極めて深刻です。どんなに詭弁を弄しても国際的規範からの逸脱の指摘は免れません。日本の有事法制から見ても、日本の政治、経済が埒外におかれることは非現実的であり、世界の大きな渦に巻き込まれることは避けられないと思われます。
沖縄戦から80年、「慰霊の日」=平和を祈る日に発生したふさわしくない事態が一日も早く収束されることを祈るばかりです。

1.国際標準化関連

MELの承認継続決定が遅れています。MOCAは一度ベンチマーク委員会で議論することになりました。ベンチマーク委員会の議論にMELからもオブザーバー参加をし、日本の実情を説明する機会をいただくことを申し入れています。時間をかけてもスジを通したいと考えています。
また、4月24日に活動を開始したCSI(Certified Seafood International)の理事会が6月24日オンラインで開催されました。日本からは理事の的埜明世氏が参加され、的埜氏の事務局を務めているMEL協議会の加藤事務局長がオブザーバーで招かれました。会議の内容につきMEL協議会からの発信は差し控えますが、CSIの活動は順調に進んでいることが報告されました。

2.認証発効関連

今月の認証発効は1件でした。愛媛県宇和島市のユスサステナブリ生産グループによるブリを対象とした養殖認証で、先月CoCで認証発効した株式会社UTAKICHIが卸し販売を担います。

3.認証取得者からのご報告

昨年来全国的に不順な漁況が続いているシラスについて、MELCoC認証を取得しておられるマル伊商店代表の坂下史朗様にレポートをお願いしました。

「南知多の海の恵みをより美味しくお届けする」

マル伊商店株式会社 代表取締役 坂下史朗

マル伊商店株式会社は、「南知多町の海の恵みをより美味しく届けたい」という想いを大切にし、愛知県南知多町師崎で水揚げされる新鮮な魚を原料とした水産加工品を製造しています。中でも、日本一のシラス漁獲量を誇るこの地域で獲れた生しらすを使い、独自の「生炊き」製法で丁寧に仕上げた「生炊きしらす」は、当社の看板商品です。生しらすをそのまま炊き上げることで、一般的な佃煮にはない、柔らかくふっくらとした食感と風味が特徴で、多くのお客様にご好評をいただいており、農林水産大臣賞を受賞するなど、高い評価もいただいています。

約30年前、当時は困難とされていたイワシ類稚魚のシラスを生のまま佃煮にする製法に挑戦しました。南知多町ではしらす干しの大量生産が主流で、小魚の佃煮製造は前例がなく、まさにゼロからの開発でした。一時のシラスの漁獲減少を契機に、開発者である私の父(現専務)が「大量生産から高品質少量生産へ」という考えのもと佃煮事業を開始し、地域のしらす業界に新たな価値をもたらしました。現在では、当社の成功をきっかけに佃煮製造に取り組む業者も地域内で増えています。
生炊きしらすは漁がある日にしか製造できないため、シラスの不漁や魚価の高騰が続く現在、安定した製造・供給体制の維持が大きな課題となっています。こうした状況に対応するため、当社では仕入先の多様化を進めるとともに、トレーサビリティの確保に努め、持続可能な漁業の証である「MEL認証」の取得にも取り組んできました。これにより、環境に配慮した商品づくりを進めると同時に、他社との差別化を図りたいと考えています。
MEL認証を取得した現在、MEL認証の消費者からの認知度はまだ高いとは言えませんが、徐々に大手企業からの関心も集まりつつあり、今後の広がりに期待が高まっています。当社としても、MEL認証の普及と理解促進に努め、海の資源を守りながら、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

坂下代表有難うございます。拘りが伝わります。また、一つの商品の生産技術が完成するまでの時間と努力の積み重ねが今日の名声の元であることが良く分ります。益々の発展をお祈りします。

4.関係者のコラム

今月は、東京大学大学院生命科学研究科准教授阪井裕太郎先生にお願いしました。先月の八木先生の寄稿に続く、漁業の活性化に資するシリーズとしてご覧下さい。

「MEL認証の可能性とその普及戦略」

東京大学大学院農学生命科学研究科
准教授 阪井 裕太郎

SDGsなど、社会や環境の持続可能性について関心が高まっている。しかしMELやMSCといった持続可能な水産物認証は日本であまり普及していない状況がある。この理由は何だろうか。実は、持続可能な森林認証であるFSCやSGECといったものもやはり日本ではあまり普及していない。とすれば、原因は必ずしも水産の中にあるわけではなさそうだ。一方で、日本で比較的成功しているエコラベルといえば有機JAS認証や統一省エネラベルが挙げられる。これらは、消費者に安全・安心や節約といった直接的にベネフィットがある(と思われている)ラベルである。以上の観察を踏まえて、本稿ではMEL認証の可能性やその普及のための戦略を考えてみたい。

日本でエコラベルが欧米ほど広がってこなかった背景には、文化的・歴史的な要因が深く関わっていると私は考えている。特に、以下の2つの仮説がありえそうだ。第一に、日本社会では「契約」そのものよりも「契約者(人)」を重視する文化があると言われる。欧米では契約や認証といった形式が信頼の基盤になるが、日本では顔の見える取引や人と人との信頼関係が優先される傾向がある。そのため、ラベルや認証といった形式的な保証が消費者にとって実感しにくく、価値が伝わりづらいのである。
第二に、日本人の自然観として「人は自然の中で生かされている」という意識が強く、自然を人間が管理するという発想が根づきにくいことが挙げられそうだ。自然は人知を超えた存在であり、認証水産物を選んでも水産資源の持続的を担保したことにはならない、と考える傾向が日本人にはあるのではないだろうか。
以上の仮説が正しいとすると、MSC認証と比較してMEL認証には強みがあると言えそうだ。それは、MEL認証が日本の漁業者、漁協、行政、研究者が協働してつくり上げた日本発の認証制度である点だ。海外団体が運営する国際認証に比べ、その背後に「日本の漁業者や地域の顔」が見えるため、日本の消費者にとってより信頼を寄せやすい基盤を持っていると言えるだろう。そうであるなら、MEL認証のアピールの仕方として、水産資源よりも漁業者の存在に焦点を当てることが有効な可能性が高い。当研究室で以前行った実験でも、日本人はMSCラベルよりも漁業者の写真に付加価値を見出すという知見が得られている。また、MEL認証が日本の漁業管理制度や地域資源管理の実情に即した柔軟な基準を持っていることは、自然と共生するという日本人の自然観に近いアプローチであると考えられる。資源を上から管理するのではなく、自然と持続的に共生するというニュアンスを押し出すことが日本の消費者の考え方との親和性を高める鍵になるのではないだろうか。

一方で、有機JAS認証や統一省エネラベルの成功に鑑みると、消費者にとっての「直接的メリット」を訴求することも重要である。これらのラベルが成功しているのは、単に社会的意義があるからではなく、健康・安全、電気代削減といった自分の生活に直結するメリットを消費者が直感的に理解できるからだ。この点から言えば、MEL認証については、「安心・安全な国産水産物」という価値を強調していくことが重要だろう。また海外に向けては日本産のハイクオリティな水産物というブランドイメージとセットでアピールすることが有効かもしれない。
MEL認証の普及に関してもう一つ触れたいのは、認証が社会に広がること自体がその価値を高めるというポジティブフィードバックがありえるという点だ。消費者がスーパーや飲食店でMEL認証ラベルを目にする機会が増えると、「認証のついた魚=信頼できる魚」という認知が広まり、漁業者や流通業者の認証取得意欲が高まり、認証品の流通量が増え、さらに認知が広がるという好循環が生まれる。こうした好循環を生み出すためには、まずは行政や業界が一致団結してある程度の数の認証漁業を生み出すことが必要だ。逆説的だが、メリットがあるから認証をとるのではなく、多くの漁業者が認証をとることでメリットが生まれるのである。
MEL認証には大きな可能性があり、日本文化や価値観に根ざした独自の認証として極めて興味深い存在である。私も、実証研究や政策提言を通じてその普及を力強く後押ししていく所存である。

阪井先生有難うございました。新しい切り口で日本におけるエコラベル認証と社会の関係を取り上げていただき、目から鱗が落ちることが多々ありました。今後とも、ご指導いただきながら研究および行動がご一緒できることを願っています。

5.MEL協議会の通常総会を開催しました

6月24日、第11回MEL協議会通常総会を開催しました。正会員49のうち代表者本人出席3、代理人出席16、書面による議決権行使された方が30で全員の出席をいただきました。アドバイザリーボードから2名が参加、水産庁からは藤田次長(図らずも7月1日付けで長官昇任が発表されました)、 漁政部加工流通課認証推進班吉川課長補佐他に出席いただきました。

藤田次長は、「水産エコラベル推進」が水産基本計画に位置付けられた際の企画課長で、MELの今日のレールを引いていただいた経緯があり、通常総会へのご出席を要請しておりようやく実現したものです。
藤田次長からは、MELには
➀資源管理に資する
②輸出促進に貢献する
③自ら基軸となる考えを世界に発信する
④ついて行く姿勢から世界を牽引することを期待するとの言葉をいただきました。
また、水産庁として、水産エコラベルが水産物の持続的利用の実現に貢献するとともに、地球環境問題の緩和の一端を担う制度としてその普及・利活用を推進していくとの発言がありました。
通常総会ですので、事業報告および決算が承認されました。特記事項として、MEL漁業認証Ver.3.0の承認および役員選任に於いて、北海道漁連の菊池 元宏理事退任に伴い後任として同じく北海道漁連の安田 昌樹様に理事に就任いただくことが承認されました。退任された菊池様にはMEL運営へのご貢献に深謝申上げますとともに今後のご健勝をお祈り申し上げます。
通常総会後の開催されました理事会に於いて、新会員3社・団体の加入が承認されました。MEL協議会にとり初めての海外からの会員で➀ASMI(米国、Alaska Seafood Marketing Institute)、②東遠産業(韓国)、③タイユ二オン(タイ)でいずれも国際的大企業、組織です。承認後、ASMIからは日本マーケティング代表 家形 晶子様に、東遠産業からは東遠ジャパン(株)の代表取締役 河 基錫様から力強いご挨拶をいただきました。ご一緒に水産物のサステナブルな利用の輪を世界に拡げられることを願っております。

6.アンバサダーキックオフミーティングを開催しました

5月27日より第5期MELアンバサダーキックオフミーティングを開催しました。アンバサダー/モニター10名のうちオンラインを含め7名に参加をいただきました。第1期からの参加者2名をふくめ、またご家族(お子様)ぐるみの参加者もありすっかりMELのメンバーとして肩の凝らないとてもなごやかな雰囲気の会となりました。皆様からの発言も、それぞれの個性を映したMEL運営にとても役立つモノばかりでした。有難うございました。
今年はアンバサダー/モニターに加え大学生の年代層を「MEL応援団」の位置づけで募集し、活動のネットワークに厚みをつけたいと思っています。

7.今年もMELおやこ教室を開催します

詳細とお申し込みはこちらのWEBページをご覧になってください。

昨年の大晦日の「天声人語」にこんなことが書かれていました。「今年の厄災を振り返ってみると、世界中が恐ろしい魔法にかけられたのではないかと思ってしまう。地震、洪水、干ばつなどの自然災害が相次いだ・・・云々」。
それに引きかえ今年は、どうやら人災に振り回される年に終始しそうです。海の向こうのリーダー達の主義・主張が世界の秩序や規範を目茶苦茶にした上、報復合戦が不確実性を拡げています。企業経営だけでなく社会生活にとっても対応は容易ではありません。でも、人災は人にしか解決できないことを以て銘ずべしでしょう。
今年の梅雨はメリハリ型とか。これからも猛暑と集中豪雨の繰り返しとなるのでしょうか。皆様の身を守る行動をお祈りします。

以上