MELニュース2023年2月 第59号

2023年2月 第59号

(一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会
事務局

世界中が暗いニュースに覆われたまま、あっという間に暦の上の春を迎えました。メディアの報道では「海苔よ、お前もか」と不作が伝えられており、日本の食文化を支える食材だけに悩ましく受け止めています。 今月は「水産エコラベル新時代」に向けて、MEL が取るべき行動についてアドバイザリーボードの皆様と意見交換を行い様々な示唆をいただきました。 新年度の活動に反映させます。

1.国際標準化関連

GSSIの新規格(Ver.2.0)の審査は3人の審査員によるデスクトップレビューが終了、続く事務所審査はオンライン会議で2月20日に実施されました。今後はベンチマーク委員会での評価を経て、パブコメ募集(30日間)に進みます。
退任が発表されましたHerman Wisse事務局長の後任は公募されており、まだ具体的な情報はありません。来月、3月11日にBoston Seafood EXPOに合わせGSSIの創立10周年を祝う式典が予定されており、何らかの進展があるかも知れません。

2. 認証関連

今月の認証発効は養殖1件、CoC2件でした。
日本における水産エコラベル認証発効件数の推移はMELだけでなく水産エコラベル全体の発効件数の伸びが鈍化しています。

新年度に向け小売業、外食業へのアプローチを強化しバランスの良い拡がり実現に力を入れます。

3. MEL認証取得者からご報告

今月は、認証を取得されて初めてのシーズンを迎えられ、順調な漁が報ぜられている石狩湾漁協様のニシン漁について和田 郁夫専務理事に地域の皆様の思いをお話いただきました。

「北海道日本海沿岸ニシンの復活にかける思い」

石狩湾漁業協同組合
専務理事 和田 郁夫

北海道におけるニシン漁の発祥については詳しくは不明ですが、13世紀以前と思われアイヌの人達が自家用として、タモ漁などでニシンを捕っていたと言われております。

江戸時代に入り、北海道ではまだ稲作が行われていなかった当時の松前藩では、アイヌの人達と「交易」を行う権利や、漁業を行うための「知行地」を家臣に与え本格的なニシン漁が始まり、江戸時代中期に知行地の運営を商人に委託し、交易の主役がニシン漁となっていきました。
明治時代には、松前藩によって規制されていた場所請負制度がなくなり、家族経営による刺し網漁や網元以下数十人から数百人による定置網漁業が行われるようになりました。
大正時代には、定置網漁業によるニシン漁が大規模になると、青森・岩手・秋田・山形方面から沢山の出稼ぎ人「ヤンシュ」がやってきて、北海道日本海沿岸は広域的に活気に溢れ繁栄をもたらしました。
当時、漁獲されたニシンの多くは、新潟県・山形県方面の他、道内各地へ運搬船により運ばれ、ニシン粕・身欠きニシン・干し数の子などに加工されたニシン製品は、北前船によって主に関西方面へ出荷されました。
ニシンの漁獲は明治30年の97万トンをピークに減少し昭和34年には壊滅状態となり、文字通り「幻の魚」となりました。この様な経過の中、冷凍・加工・流通の技術低位の時代背景でありながら、当時は流通と食文化を広範囲に築きあげ、更には、江戸時代から昭和中期までの途方もない長期間にわたり、 ニシン資源を維持してきた自然の力には本当に驚くばかりです。
今回MEL認証を取得した石狩湾系ニシンは石狩湾を主体に日本海北部沿岸域を産卵場とし、過去に漁獲されていた「北海道・サハリン系」とは別の種であり、当地区は毎年、海が白く染まる「群来」が確認されております。
漁獲量が回復してきた背景には長年の積み重ねがありました。まず、平成8年から平成20年にかけて北海道が事業主体となり、北海道栽培漁業振興公社 及び水産試験場が中心となった「日本海ニシン増大プロジェクト」で、種苗生産・中間育成・稚魚放流を実施し、平成20年からは、15漁協18市町村、オブザーバーとして17関係団体で構成された、当組合が事務局を務める「日本海北部ニシン栽培漁業推進委員会」が事業を引き継ぎ、年間200万尾の生産稚魚を放流し、水産試験場による仔稚魚期分布調査・生物測定調査等モニタリングを実施しており、認証取得となった当組合の刺し網漁は、網目の大きさを後続資源確保のため2寸目以上とし若齢小型魚を保護し、漁期は1月中旬から4月上旬の75日間に定める等厳しい資源管理を実践しております。

外国産ニシンの加工品が大勢を占める中、近年北海道産ニシンの漁獲が増加しており。今回の認証取得をきっかけに魚食普及を全国に拡げ、刺身等でニシン本来の美味しさを味わって頂きたいと同時に、MELラベルを見ることで生物の生息環境保全の認識の醸成に繋がることを切に思っております。
また、本年、当組合では当地区石狩市小中学校の1日当り5000食の学校給食に地元のニシンを複数回無償提供する予定としており、子供達にも将来に向け自然環境保全や魚食普及の大切さを、MELを通じて触れさせたいと考えております。

和田専務有難うございました。皆様の環境保全と資源復活への思いがしっかりと伝わって来ました。正に、日本発の水産エコラベルであるMELが目指す方向であり、MEL協議会も皆様の思いに添いお役に立てる様頑張ります。 消費を掘り起こすために、SNSを使ってMELアンバサダーからニシンのメニューを発信して頂くことを準備しています。

4. 関係者のコラム

気仙沼の臼福本店様は北東大西洋クロマグロ延縄漁業で MSC 認証に加え、 MEL 認証も取得いただいております。臼井 壯太朗社長は地域おこしの一環として学童教育に力を入れて居られますので、活動をぜひ皆様と共有したくその一端をお話しいただきました。

「気仙沼の魚を学校給食に普及させる会」の活動を全国に拡げたい

代表 臼井壯太朗
(臼福本店社長)

・設立のきっかけ

気仙沼の魚を学校給食に普及させる会設立のきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でありました。
私たちはあの大震災を経験し、改めてエネルギーや食、人の繋がりの大切さなどを感じました。あの日私たちは、着の身着のまま無我夢中で津波から逃げ、数日間同じ服を着て生活しました。服は一着あれば私たちは生きていけました。家を無くした方も数多くおりましたが、住むところは寒さをしのげ、暖が取れればテントでも体育館でも生きていけました。震災当初、一日に配給されたものは1人におにぎり1個。食べるものが無ければ、私たちは生きていくことが出来ませんでした。人間、衣食住の中で最も大切なことは食べるということ。食というものが如何に大切かということを私たちは身をもって体験いたしました。
生き残った私たちのお役目とは、あの時感じたことを、出来るだけ多くの人たちに伝えること。エネルギーや食、人の繋がりの大切さを伝えるとともに、 私たちが暮らすこのまちには世界に誇れる食料産業、漁業や水産業があるんだということを、これから出会う人たちに、未来を担う子供たちに伝えていかなければならないと思いました。
震災翌年の12月、弊社臼福本店が中心となり、気仙沼商工会議所、気仙沼漁業協同組合、大日本水産会の4団体でこの会を設立させました。あれから約10年、私たちの活動に賛同をしてくれる団体も徐々に増え、現在の構成団体は官民合わせて24団体にもなりました。会の入会基準はこの指とまれ、それぞれの団体が自分たちに出来ることを持ち寄り、ボランティアとして活動を行う組織となりました。

・問題点の把握

設立当初、地元給食の実態を調べたところ、野菜以外、使用されていた肉や魚介類などのタンパク源はほぼ輸入品、残念ながら地産の食材などはあまり使用されてはおりませんでした。ある日の食材を調べたところ、三陸沖サンマというものがありました。三陸産ではなく三陸沖という言葉に疑問を感じ、会で独自に調査をしたところ、なんと日本の漁業の妨げにもなっております、我国EEZのすぐ外で乱獲されていた、某国産の輸入サンマだということが判明いたしました。納入業者にとっては給食もビジネスであるということはある程度理解は出来ますが、いくら仕入れが安く利幅が取れるからと言って、このような食材を日本の学校給食に使用するというのは如何なものだろうかと、非常に疑問に感じました。

学校給食は日本中の学齢期の子供たちが、一日一食必ず食べるものであります。これが国産でも地産でもなく、誰がどこで生産したのかもわからない、生産履歴が不透明な外国産のものであって果たして良いのでしょうか。このようなものを、このまま未来を担う子供たちに食べさせ続けていては、食や生産者への感謝の気持ちは養えないであろうし、食は安けりゃいいんだという間違った価値観が形成されてしまうのではないかと、非常に問題に感じました。
私たちが暮らす三陸沿岸地域には、水揚げ日本一を誇るたくさんの魚介類や、国内外で数々の賞を受賞した加工品が数多く存在します。学校給食を通して、もっと基幹産業のことや、このまちには世界に誇れる産業があるんだということを、また、魚は美味しくて健康にも良いのだということを、是非次世代を担う子供たちに学校給食を通して知っていただきたいと思いました。

学校給食法第二条(昭和29年制定)には、我国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること、食料の生産流通及び消費について正しい理解に導くこと、と記載されておりますが、解釈の違いからなのか、現実は私たちが思うものとは全く違うものになっております。
また現行、学校給食の食材決定は入札方式のため、同じ食材であれば、より安いものが選ばれる仕組みとなっており、比較的単価の高い国産品は、安い外国製品には価格競争では勝てない状況になっています。1食 約300円(食材費のみ)という安い給食費のなか、すべてを国産化していくというのは、正直難しいことではありますが、出来るだけ国産や地産にこだわった、美味しい魚を子供たちには食べさせてあげたいと思っております。
子供たちに鮮度の良い美味しい旬の魚を多く提供することが出来れば、今よりもっと魚を好きになってくれるかも知れませんし、魚食離れもきっと防ぐことが出来るのではないかと思っております。

・活動内容

当会は現在、給食向けの製品開発や、食育授業の開催などをメインに活動を行っております。地元に揚がった魚をより美味しく食べてもらえるように、会のメンバーでもある有名ホテルの元総料理長に監修をいただきながら、メカジキのメンチコロッケなども開発させていただきました。子供たちからはとても美味しいと好評をいただいております。

食育授業につきましては、ご依頼をいただいた学校からの要望をお聞きし、1回につき2時限の授業を開催させていただいております。1時限目は普段実際に海で働いている、サンマ船や遠洋マグロ漁船、定置網や突きん棒漁、ワカメやカキ養殖などの地元漁師さんに講師をお務めいただき、それぞれのお立場から漁業のやり方やそのやりがいなどを、子供たちに伝えていただいております。また、2時限目は会で作成したWebソフトを使用しながら、海のめぐみ、食にたずさわる人、健康な体の3つのテーマに沿って、食に対する感謝の気持ちを育むためのタブレット授業を行っております。
現在は地元気仙沼だけではなく、ご要望があれば、遠くは九州、都内や神奈川県などの学校でも出張授業を行っております。昨年は日頃から日本の水産業をお支えていただいている、インドネシア共 和国の小学校と、気仙沼の小学校をネットで繋げ、お互いの食や伝統文化などを学ぶ、文化交流事業なども開催させていただきました。口コミなどから広がり、現在までの授業実績はおかげさまで100校を超えました。

・今後の展望

私たちの授業を受けてくれた子供たちが、いつか故郷を離れ、外の世界で多くのことを学び、また気仙沼に戻ってきて、気仙沼の食を支えたい、水産業に従事したいと思ってくれるような、そんな子供たちがひとりでも増えてくれることを私たちは願っております。
学校給食をすべて国産化することにより、いまより食材費が上がることは 間違いありません。しかし、学校給食を国産化することで我国の食料自給率は確実に上がるはずですし、食の背景を考えながら給食を食べることで、子供たちに正しい食への知識を伝えることが出来るのではないかと思っております。
これからの時代は環境の変化や資源問題などによって、食料を確保するこ とは益々難しくなってくるはずです。日本の食を守るためには、食に対する正しい価値観を子供たちや国民全体に伝えていかなければなりません。それがあの日残った私たちの大切なお役目なのだと思っています。
給食を通して、日本全国の地方には世界に誇れる食料産業があるんだとい うことを、全国の子供たちに知っていただき、全国にこの活動が広がってくれることを、心から願いながら、これからもこの活動を続けていきたいと思っています。
貴会にも是非MEL認証を受けた水産物などを、全国の学校給食に使用してもらえるよう、関係省庁や専門業者などに働きかけを行っていただきたくお願いいたします。全国の子供たちにMEL認証を受けた魚を知っていただき、食べていただけることが、きっと認証取得をした漁業者にとっての誇りにもなるのではないかと思っています。

▼「気仙沼のさかなを学校給食に普及させる会」WEBサイトはこちらから

https://kesennumanosakana.jp/index.html

臼井社長有り難うございました。あの震災の筆舌に尽くしがたい酷い体験から実感された「食と食料産業」の大切さを、改めて皆様と共有したいという思いを学校給食の場での実践を推進しておられる臼井社長の行動力に衷心より敬意を表します。大きな志の輪に発展する様MEL協議会も微力を尽くします。

5. MELアドバイザリーボードを開催しました

2月14日にMELアドバイザリーボードの定例懇談会を開催しました。座長の松田 裕之(横浜国立大学教授)、寺島 紘士(日本海洋政策学会顧問)、白石 ユリ子(ウーマンズフォーラム魚代表)、平野 祐子(主婦連副会長)、牧野 光琢(東京大学教授)およびオブザーバーとして内海 和彦(大日本水産会専務理事)の各氏に出席いただきました。詳細はMELホームページに掲載します。
水産エコラベルが原点である海洋生態系の保全と資源保護から社会的責任を果すことが求められる「新時代」に入ったとの認識を共有しました。生物多様性における世界の議論も、昆明、モントリオール会議に見られる「人と自然の共生」の方向が主流となりつつある中、MELは如何に対応するかについて様々な示唆をいただきました。中でも、MELの活動の特長である地域密着=地域おこしへの貢献に加え、海外展開の加速を通しMELの差別化をもっと顕在化させること、更に日本発のMELモデル(MELの理念)で世界に打って出ることが必要との指摘をいただきました。また、MEL認証の水産物の生産量が48万トン(2022年概算)と日本の総生産の10%を超える水準となっている実体に鑑み、MELのブランドと認証取得者を守る対策の準備を進めることが求められました。
MEL協議会から、アドバイサリーボードの機能強化に関し、MELの活動において起きていることへの意見を求めることの追加(社外取締役または監査役的機能を期待)をお願いし諒承いただきました。
正に身の引き締る思いの会議でした。今後、アドバイザリーボードの知を頂戴しながら、「日々進化する」ことを心がけます。
また、アドバイザリーボードの定例会議の直前の2月7日に船橋の海光物産様の大野社長はじめ幹部の皆様が協議会の事務所を来訪されました。MELのレピューテーションについてもっと気を配ったスキームの運営を心がけないと、「認証取得者の社会的評価を毀損する」とのきびしい指摘を頂きました。真摯に受止め、より認証取得者のお役に立てる様アドバイザリーボードにもご報告し、MELのブランドを守るという議論に発展しました。

6. シーフードショー大阪に出展しました

大日本水産界主催の第20回「シーフードショー大阪」が2月21-22日の2日間ATCホールで開催されました。今回は3年ぶりに開会のセレモニーが リアルで行われ、出展コマ数も290と前年の200から大幅に伸び過去最高の
330に迫る所まで回復、積極的な商品の売り込みが各所で見られる活気ある展示会となりました。
今回も水産エコラベルコーナーが設けられ、MEL、ASC、BAPのスキームオーナに加え認証取得者4社が参加された他、復活した「お魚学習会」の小学生の見学会で賑わいました。

春は光、音、気温の順にやって来ると言われます。気がつけば随分日が長くなっています。コロナ禍からも漸く一区切り、皆様の活動が以前の勢いを取り戻せることを願っております。MEL事務局も新事務所での業務が落ち着いてきました。より皆様のお役に立てる様積極的な行動を心がけますので、どうか今後とも変らぬご支援をお願い申上げます。

以上