MELニュース2022年 11月 第56号

霜月も残りわずか、多端であった壬寅年もいよいよ師走です。水産庁は毎月3~7日を「さかなの日」として官民で水産物消費を盛り上げる企画を今月からスタートさせました。生産者から小売、外食までサプライチェーン全体で幅広い事業者の参加があり、またメディアでも大々的に取り上げられており店頭は盛り上がっています。
キャッチコピーが「おいしい×サステナ=いい未来」ですから、MELも認証取得事業者の皆様と共にお役に立てるよう頑張ります。

1. 国際標準化関連

先月号で触れましたが、GSSIの審査体制が新しくなり、改めてデスクトップレビューが新IE(審査員)との間で進んでいます。11月21日にウェブ会議を開催しました。深刻な問題はないとの所見でしたが、幾つか指摘を受けており、第2ラウンドとしてその対応を行います(追加証拠や補足説明書の提出等)。クリスマス休暇を挟むことから、準備期間が2週間延長され1月4日がその締切です。その間、IEとの個別打合せも行う予定です。その後現場の実地審査に進む予定です。
MELは第3組の申請ですが、先発した第1組のアラスカRFM(スキームオーナーはCSC)、BAPは共に苦戦しており、時間が掛っている様です。認証制度への社会からの厳しい監視の眼を反映しているかも知れません。

2. 認証関連

今月の認証発効は、漁業2件、養殖1件、CoC 1件の計4件の予定です。このところ申請者の慎重な取組み姿勢があり、認証発効数は低調です。
特記事項としては、北海道の利礼漁業エコラベル推進協議会様(法人格は持っていない)が、北海道漁連様の支援の元(北海道漁連稚内支店が事務局を務めている)申請をしたホッケ刺網漁業のMEL漁業認証が発効予定です。
自主規制と研究機関の支援で守ってきたローカル資源を、MEL認証を取得することで更なる持続可能な事業にする意味で画期的であると受け止めています。更に、CoC認証とつなげサステナブルなサプライチェーンを完結させていただくことを期待しています。詳細は認証の発行と同時に日水資ホームページから審査報告書でご覧になれます。

3. MEL理事会を開催します

11月29日に第29回理事会を開催します。定例の理事会ですので、主な議題は上期の事業報告ですが、この難しい環境にMELがどの様に貢献するか理事の皆様からご指導をいただきたいと考えています。理事会の内容は来月号でご報告します。

4. イベントへの参加

  1. 10月29-30日六本木ヒルズアリーナで開催された農水省主催の「食からニッポンを考える」をテーマにした」ニッポンフードシフトフェスタの水産庁ブースにMELとして出展しました。週末の開催で天気にも恵まれ多くの家族連れで賑わいました。
  2. 11月25日に大日本水産会の魚食普及事業の一環として横浜吉田中学校で開催された出前授業をMELが引き受け、「一緒に『海と魚』のことを考えて見ませんか?」をタイトルに2年生を対象に90分の授業をしました。横浜吉田中学校は中華街が近いこともあり30%の中国系を含め約半分の生徒が外国人で言葉の不自由さがあったものの、水産エコラベルに限らず広い範囲の話に大いに盛り上がりました。
  3. 11月27日にFish-1グランプリが3年振りに対面開催されます。MELも水産庁のブースに出展しますので状況は来月号でご報告します。

5. 認証取得者からのご報告

今月は、漁業から加工、販売・外食までグループ内で完結しておられる明神水産(株)の明神正一社長にMEL認証のロゴをつけて販売し高い評価を受けておられる「わら焼き戻りかつおたたき」の話をお願いしました。なお、この商品は焼津の高橋商店様とご一緒に運営されている遠洋かつお一本釣り漁業の勝栄丸を含む、MEL漁業認証を取得した漁船のカツオを原料としておられます。

「一本釣り藁焼き鰹たたき MEL 認証を受けて 」

明神水産株式会社
代表取締役社長 明神 正一

  1. 鰹一本釣り漁業について 私は、昭和 23 年(1948 年)高知県幡多郡佐賀町(現黒潮町)で生を受け、高校卒業と同時に 憧れだった鰹一本釣り漁船(実家所有)に乗り込みました。当時の高知県佐賀町は、鰹一本釣り 漁業が盛んで男の子は漁師になることがステータスのような時代でした。そして私が 28 歳の時、指揮官(漁労長)として日本全国の猛者達と凌ぎを削ることになりました。私も少し努力は しましたが、漁労長になって以降調子がいい時は、行く場所ごとにナブラ(鰹の群れ)があり、 鰹の大群の中で漁が出来たことがよい思い出です。
  2. 一本釣りを取巻く環境 漁労長として鰹漁を始めて以降、順調に漁獲量も伸ばしていき何度となく近海一本釣りの中で は日本一も経験させていただきました。私が働き盛りの 37 歳(1985 年)になったころから鰹漁業にも変化が現れ始めました。それは、これまで鰹漁と言えば一本釣り漁だったのが、巻き網で の漁獲が目に見えて増えてきたことです。今思うと時代の流れ(高年齢化や一本釣り漁船の廃業)と言ってしまえばそれまでですが、妙にこの頃から順調だった漁にも変化が出始めた記憶があります。
  3. 市場の評価 私共が扱う鰹は、鮪と違いそれ程高い評価を受けている魚種でないと感じています。どれだけ 大事に漁獲しても、付加価値を付けて販売しても、ごく一部である程度の評価を受けても市場評価は『鰹は鰹』という評価が一般的で、時には価格競争の真ん中に巻き込まれることも多くありました。そんな中漁業者や私共の活動を評価(認めて)していただける取組み(MEL)に出会うことが出来ました。
  4. MELについて 水産資源の持続的利用、環境や生態系の保全に配慮した管理を積極的に行っている漁業・養殖 の生産者。まさに鰹一本釣り漁業はこの名に相応しいと私は思っています。他の漁獲方法をどうこう言うつもりは全くありませんが、ここから資源を大切に管理し増やし漁業の活性化や漁業に 携わる担い手が増えてほしいと願うばかりです。 MEL の認証をいただいて以降、取引先である生活協同組合様より弊社の商品パッケージに MEL マークを入れて販売させてほしいという要望が増えています。本当に有難いことです。生協の組合員様は MEL のような取組みにとても敏感で、また高く評価していただけるのが特徴でとても有難く感謝しております。
  5. 結びに 私共はこれからもMEL の認証事業者であることを自覚し、環境や生態系の保全や管理はもちろんのこと、付随する様々な事を積極的に取組み業界の益々の発展にも協力いたします。また、 お客様から評価していただいている、弊社の『一本釣り藁焼き鰹たたき』を中心にお客様からの ご期待・ご要望にお応えできるよう日々努力し続けることをお約束いたします。

明神社長有り難うございました。『わら焼き戻りカツオたたき』は生協様向けの売れ筋商品と伺っており、明神社長はじめ社員の皆様の思いが生協の組合員様に受入れられていることを嬉しく思っています。日本の漁業文化を代表する「カツオ一本釣り」を守リ続けていただくことを期待申上げます。

6. 関係者のコラム

本年で8回目を迎えたTSSS(東京サステナブルシーフード・サミット)が年を追ってその内容が充実させていることをMELニュース10月号で報告しました。TSSSを日経ESGと共に主催しておられる(株)シーフードレガシーの創業者であり社長をお務めの花岡和佳男様にサステナブルシーフードに関する熱い思いをお話いただきました。

「TSSSで日本の水産『ブルーオーシャン』戦略を描く」

(株)シーフードレガシー
代表取締役社長 花岡 和佳男

株式会社シーフードレガシーは2022年10月19日から21日にかけて、東京サステナブルシーフード・サミット(以下、TSSS)2022を、日経ESGとハイブリッドの形で共同開催しました。TSSSは2015年以来、日本を中心とするサステナブルシーフード・ムーブメントの急成長を象徴する、アジア最大級のフラッグシップ・イベントです。持続可能な水産業の実現に向け、今年は「水産『ブルーオーシャン』戦略を描く〜人権・生物多様性・気候変動から考えるサステナブルシーフード〜」をテーマに、約30のセッションを組みました。MEL協議会会長垣添様をはじめ、国内外の水産関連や流通、金融、政策、テクノロジー分野の専門家や企業、NGOなど約70名にご登壇いただき、既存の水産システムが抱える課題と協働による解決に向けた動きについて、建設的な議論が交わされました。

世界人口は2058年に100億人に増加した後、2080年代には104億人でピークに達し、2100年までその水準が維持されるとの予測が示されています。食料需要が増加する中、地球の表面積の7割を占める海洋における持続可能なフードシステムの構築が、国際社会が抱える緊急課題となっています。しかし世界の漁業資源は、約3割が乱獲、約6割が満限利用の状態にあり、まだ余裕のある漁業資源は全体の1割以下で、その割合は年々減少しています。

養殖業も、その多くが大量の餌を天然魚に依存しており、この課題を共有しています。加えて、適切な資源管理の網の目を抜けるIUU(違法・無報告・無規制)漁業が、事態の悪化に拍車をかけています。さらに水産業界には、漁業における海賊行為、漁場へのアクセスを巡る紛争、児童労働や強制労働、人身売買等の違法行為が、いまだに蔓延しています。これらの世界的な諸問題は解決されないまま、気候変動による海洋酸性化、脱酸素化、海水温上昇、海面上昇や、プラスチック汚染などが重なり、またコロナ禍でグローバル・サプライチェーンの脆弱さも露呈されるなど、世界の水産業界は多くの壁に直面しています。

毎年TSSSでは、参加者の皆様と共に、環境持続性や社会的責任の担保を条件とする国際成長市場への本格参入を視野に、世界有数の輸入水産市場規模と豊かな海洋生態系といった日本のポテンシャルを戦略的に最大化させながら、国際課題の解決に向けた貢献を日本水産業の成長産業化への足がかりとする筋書きを描いています。かつて世界最大の水産大国にまで上り詰めた日本が、生産構造の再編を余儀なくされている現状では、これからは環境持続性や社会的責任の追求においてアジア圏のフロントランナーを目指すことが、誇らしき未来の日本水産業の姿であると私は見ています。環境持続性や社会的責任を追求する水産市場への変容を達成することで、国内の水産経済や地域社会が潤いを取り戻し、人口増加に伴う食料不足に苦しむ国際社会に上質なタンパク源を持続的に供給し、国際社会の発展に希望の光を灯す。これが、私たちが考える日本の水産業界の根本的な生存・成長戦略であり、今年のTSSSのテーマを新市場の創出や新領域の事業展開を意味する「ブルー・オーシャン」とした最大の理由です。

「魚から考える日本の挑戦」を旗印にTSSSをローンチした2015年は、日本の水産業界にサステナビリティのコンセプトはまだ浸透しておらず、国内の登壇者を探すことに苦労し、海外のフロントランナーを招致し国際潮流を紹介することからのスタートでした。それから7年が経過し、国内ステークホルダーによる多様なイニシアチブは、いまや大きな進展を見せています。政策面では、水産資源の持続的活用を目的とする漁業法の歴史的大改正が行われ、正当な事業者を不公平な競争から守るためにIUU漁業に由来する水産物の日本市場流入阻止を目的とする水産流通適正化法が新たに成立しました。流通面では、小売企業や水産加工流通企業が相次いで環境持続性や社会的責任の追求を企業方針に掲げ、具体的な活動計画を作成・実施し、国内外の競合他社やサプライチェーン企業との連携を強化することで、トレーサビリティ体制の構築、生産現場の取り組みの直接支援、消費者への啓蒙活動などを活性化させています。国内市場に流通する認証水産物が占める割合は増加し、金融セクターによるブルーファイナンスにも大きな注目が集まっています。多様なステークホルダーによるイニシアチブの活性に伴い、TSSSも毎年その規模を拡大し、議論の内容もより本質的で発展的なものになってきました。

サステナブルシーフード・ムーブメントは、水産経済・地域社会・海洋環境の繋がりの持続性を担保しようという動きであり、サステナビリティを担保できていない水産業はビジネスモデルの破綻が指摘されています。今やこのコンセプトは日本の水産業界にも広く浸透し、未来世代にバトンを渡すべくサステナビリティを本業で担保することに舵を切るステークホルダーが増えてきています。環境持続性や社会的責任の追求が水産ビジネスの主流となる未来が、確実に近づいてきています。

サステナブルシーフード・ムーブメントのフラッグシップ・イベントとして成長を続けるTSSS、8回目の開催となった今年は3日間でのべ約870名の参加者が集いました。間もなくアーカイブ配信が始まると、年間視聴者数はその10倍を超えることが、過去のTSSS開催実績から予想されます。そしてこのTSSSは、2年後の2024年に10回目の開催を迎えます。それまでの10年のムーブメントの軌跡をステークホルダーの皆様と共に振り返り、発展を祝い合い、SDGs達成目標年である2030年へ向けた新たなロードマップを共にデザインする、業界全体にとって大きな節目となるでしょう。国産水産物の国際基準へのキャッチアップに取り組まれるMEL協議会およびMEL認証を取得される皆様をはじめ、この業界に携わる多くの皆様と共に、長期的・国際的な視野のもとで、明るい未来への歩みを進めていきたく思っております。

花岡様有り難うございました。欧米に後れを取ることなく、日本の存在感を発揮しておられる花岡様とチームの皆様に大いに敬意を表したいと思います。今後の益々のご活躍をお祈りします。

7. 販促関連

今月はMELのアンバサダーの方にco-opサステナブル商品の北海道秋鮭スモークサーモン切り落とし(松岡水産株式会社様)を試食いただきフォロワーの皆様へご紹介いただきました。
この商品は①北海道漁業協同組合連合会(漁業認証取得)→②マルトク阿部水産(CoC認証 一次加工)→③松岡水産株式会社(CoC認証 スモークサーモンへ加工)を経てco-opの会員様へ届きます。

https://instagram.com/nocchimimi?igshid=YmMyMTA2M2Y=

 

ご高承の通り、国連気候変動枠組み条約締結国会議Cop27が11月6-20日エジプトで開催されました。いわゆる南北の対立で、会期を延長してかろうじて合意された干ばつや洪水による「損失と損害」の支援基金創設も、どの様に実現の道筋をつけるか難しい問題を抱えました。
地球温暖化で、日本の周囲では冬でも発達した低気圧を生みやすいことが報告されており、水産業にとり悩ましい問題です。業界にとり最も重要な12月に向け、落ち着いた気象状況が続くことを祈るばかりです。
サッカーワールドカップが盛り上がる一方で、コロナの第8波の足音が高くなってきました。皆様のご自愛とご健勝をお祈りします。

以上