MELニュース2022年 12月 第57号

歳が終わってもチャラに出来ない様々な課題を抱えながら、今年もいよいよ押し詰まりました。水産業にとり決して良い年であったとは言えませんが、新しい時代に向け様々な動きが顕在化した年でありました。
新しいことは実行の苦しみを伴うのを常としますが、その苦しみを乗り越えてこそ明日に繋がる改革となると愚考します。 その例として、このところ議論が高まっている『長期的資源管理』が挙げられるでしょう。新年は人類の活動が招いた災害と決めつけられる地球温暖化の中で、資源と産業の両立が一段と激しく議論されることになります。
11月28日~12月3日にベトナムのペナンで開催された中西部太平洋漁業委員会(WCPFC)の第19回年次総会において、永年の懸案であったカツオ・マグロ類の保存管理措置が合意されました。長期的資源管理と島嶼諸国の経済基盤の擁護の両立を求めた議論も重要なステップと受け止めています。この合意により混乱が回避され、落ち着いた事業環境となることを願っています。

1.国際標準化関連

11月21日にGSSI Ver.2.0書類審査の第1ラウンド評価会議が行われ、審査員から評価を受けました。全体的に重要視される不適合は見当たりませんが、追加書類・証拠の提出を求められ、審査は第 2 ラウンドに進みます。 ガバナンス・オペレーション(セクション A、B)では、審査員教育、力量 維持への取り組み、認定審査状況、規格開発から発効までの手順、各記録の保管、公開等について追加確認の要望を受けています。養殖(セクション C )は Ver.2.0 の審査報告書の件数自体が少ないこともありますが、主に飼料の履歴、責任ある飼料調達、陸上養殖の排水管理等についての追加情報の提出を求められています。一方、漁業(セクション D)では不適合はありませんが、審査員が日本の小規模漁業に興味があるようで、追加として適切な審査事例を紹介していきます。 1 月 4 日までの前述の対応を行い、その後書類審査、評価会議の流れとなっています。その後、2~3 月頃に事務所訪問が組まれており、認定機関、認証機関訪問、及び認証事業所視察も視野に入れて準備を行います。

2.認証関連

今月の認証発効は漁業認証2件、養殖認証0件、CoC認証1件の計3件でした。結果、2022年末認証数は漁業認証22件、養殖認証59件、CoC認証125件の計206件で越年することになりました。認証機関、審査員、ピアレビュアー、コンサルティング関係の皆様のご尽力に深謝申し上げます。
今月の特記事項は、日本遠洋旋網漁業協同組合様の大中まき網漁業が2021年の3月申請受付から1年9ヶ月を経てマサバ、マアジ、ブリの3魚種について漁業認証が発効したことです。日本遠洋旋網漁業協同組合様は、長崎、佐賀、福岡、愛媛、大分、鳥取、島根、宮崎の8県18事業者28船団で構成される業種別協同組合で、日本海西部山口県沖合から東シナ海を操業海域としており、マサバ対馬暖流系群、マアジ対馬暖流系群およびブリが今回のMEL漁業認証発効の対象魚種となりました。審査に時間を要した理由は対象事業者、船団数が多くMEL認証の審査においてかつてない複雑な審査となったこと、および当初候補に上がっていたゴマサバの資源水準がB-Limitを下回ったため国のレポートの確認に時間を要したためと受け止めています。日本にとり重要な漁業であり、MEL認証を活用いただくことを願っています。

3.MEL協議会理事会を開催しました

11月29日に、第29回MEL協議会理事会をリアルとリモート併用で開催しました。8名の理事と1名の監事に、また水産庁からは加工流通課の四ヶ所課長補佐にご出席をいただきました。
令和4年度上期の事業報告と財務状況に続き、来年1月に予定しております事務所移転をご承認いただきました。報告事項として漁業認証に関する審査の手引き改訂と規格・規程制定と改正につき説明いたしました。
菊池理事より、秋サケの輸出に当りMELロゴの海外での登録状況および海外加工に対するMEL認証の適用につき質問をいただき、状況を報告しました。MELロゴの海外登録については、中国等苦戦している国があり対応策を弁理士事務所とともに研究しています。

4.認証取得者からのご報告

今月は旬を迎えた広島のカキについて、山下水産(株)の山下勇治社長にMEL認証取得2年目の浜の様子をレポートいただきました。

「MEL認証の『地御前カキ』とともに」

山下水産(株) 代表取締役 山下勇治

 弊社は、2021年11月に、マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)流通加工段階(CoC)認証をかき加工業者で、日本で最初に取得しました。
MEL商品としては、ブランドかきとして、高い評価を受けているMEL認証の地御前漁協(広島県廿日市市)産かきを原料とした冷凍かきフライ、冷凍かき、生かきをMEL商品として、市場導入を開始しました。

弊社のMEL商品の市場導入、販売開始の件は、2022年8月8日付けの“みなと新聞”の一面、TOP記事に掲載され、記事をご覧になられた既存、また、新規の多くのお客様より問い合わせを受け、商談、数商品商談が成立し、徐々にではありますが、MEL商品の販売の拡大の一途をたどっています。
MEL認証取得の取組のきっかけとしては、弊社が、MEL認証を取得している地御前漁協(生産者)より、かき原料を直接仕入れている点、また、昨今の持続可能な目標(SDGs)の商品を積極的に採用されている量販店様等のトレンドもあり、弊社でしか提供できない、顧客ニーズにあった商品を提供出来ると考えた為、認証取得に取り組んだ経緯がございます。
また、弊社は、自社にて凍結設備(窒素凍結)を有し、かきの窒素凍結は、日本で唯一、当社のみが行っている凍結方法です。商品はもとより、製造工程(窒素凍結)、容器、包材にいたるまで、地球環境に配慮した商品に仕上げ、市場導入までこぎつけることが出来ました。窒素凍結は、液化窒素を冷媒に使用しており、凍結工程において温室効果ガスの発生をおさえ、パッケージやトレーの一部には、植物由来の成分解性プラスチック(PLA)を採用するなど、製造工程、容器、包材にも配慮しました。
今回のMEL商品の市場導入に伴い「安心安全で良品なかき製品を持続可能なエコ商品として、提供していくことで、脱炭素社会の実現を目指します。
なお、弊社の広島産窒素凍結冷凍かきは、広島市の「ザ・広島ブランド」、東広島市「東広島マイスター」の認定商品でもあります。

5.関係者のコラム

本年を締めくくる意味で、大日本水産会の内海和彦専務理事にお願いし,大局から俯瞰した水産エコラベルを語っていただきました。

「MEL(水産エコラベル)の未来」

大日本水産会専務理事 内海和彦

 MEL(水産エコラベル)に関連して頭に浮かぶことを、まず三つ。
(1) 私が水産庁に入庁したのは1981年、今から約40年前です。当時、栽培漁業や沿岸漁場整備を行う「開発課」という部署に配属された私は、漁場整備と併せ資源管理の重要性を訴えるため、全国での事例を探していました。

 ちょうど『資源管理型漁業』というキーワードが生み出され、その事例がポツポツと浜で生まれていた頃です。あれから40年、時代は進み、現在、国では、ほとんどの産業的有用種たる水産資源(192種(令和3年度))を科学的に評価し、令和5年度までに漁獲量の8割をTAC管理すると宣言しています。また、TACのような公的管理でなく自主管理のものまで含むと、これまで施策として講じられていた「資源管理指針・計画体制」によって、すでに漁獲量の約9割までが資源管理の枠組みに入っているとされています(「水産基本計画」)。この40年で「資源管理が行われている漁業」を探し出す世界から、逆に「資源管理が行われていない」漁業を見つけ出すのが難しい世界に、水産界は大きく変わってきたのだと言えます。
(2) 2019年3月、北東大西洋サバ漁業でMSC認証を獲得していたノルウェーやデンマーク、アイルランドといった国々のサバ漁業は、当該漁業全体の漁獲実績が、ICESの勧告を大きく超えているとして、この認証を失うに至りました。その後、各国は各年の勧告に準拠した形での漁獲枠の設定に向けた交渉を行うも、合意には至らず、今日まで独自に設定した漁獲枠で操業を行っています。ようやく、先日(12月7日)、来年の漁獲についてEU、ノルウェー、英国、フェロー諸島といった関係国が、ICESの示す総量の下で操業を行うことに合意し、協定を締結した旨がノルウェー政府から発表されましたが、実際に各国の漁獲を規制する国別配分の議論はこれからです。この間、ノルウェー政府はサバの輸出国に随分気を使い、昨年は交渉責任者たる漁業省次長がわざわざ
Webで会見まで行いましたが、これは関係者の『資源管理は大丈夫か?』とする疑念に少しでも応えるために行われたのではないかと、私は睨んでいます。
(3) 次もノルウェーの話で恐縮ですが、現在、我が国政府が農林水産物輸出の強化に力を入れていますが、この施策を検討する際にお手本とした組織に 『ノルウェー水産物審議会(NSC)』があります。日本での活動も盛んなことから、皆さんご存知でしょうが、このNSCのホームページを開けて、「ワイルドフィッシュ」のノルウェー産タラの項目を見てください。『ノルウェー産タラがMSCの有無にかかわらず持続可能である理由』と表示された項目が目に飛び込んできます。ここでは、最近、ノルウェー産タラがMSC認証を失った理由(回遊性タラと沿岸性タラの混獲がその理由のようです)とそれでもノルウェー産タラが持続可能な資源として漁獲されている旨が述べられており、最後に『MSCは、バイヤーや消費者が持続可能な水産物の選択肢を理解したいときに頼りになる重要なプラットフォームを提供することは間違いありません。ただし、MSC はそのような承認を提供する多くの組織の 1 つにすぎず、国や組織の資格は依然として有効であることを認識することが重要です。』と述べられています。ずいぶんチャレンジ精神旺盛な記述に、個人的には大いに驚かされました。
さて、この三つの話から何が言いたいか、ですが、
まず、(2)及び(3)から言えることは、『すでにエコラベルの世界は、国を動かすことができる』ということです。(2)では、これまで資源管理の優等生ともてはやされていた大西洋のサバ漁業がMSCの認証を失い、評価が地に落ちたことをEUや欧州の各国が気にしていないわけはありません。彼らは失地回復に躍起であり、それが最近の合意をもたらしたことは間違いないと考えられます。(3)では、わざわざNSCがこんな項目をホームページに載せるのは、エコラベルの影響は無視できないと彼らが相当真剣に考えているからにほかならず、NSCが正しいかMSCが正しいか私には論評できませんが、いずれにせよ、エコラベルの影響が、あのノルウェーの準政府機関を揺り動かしていることは間違いない事実です。
次に、(1)についてです。
これまで、エコラベルと言うと、資源管理を行っている漁獲物ということで、他との差別化によるメリットなるものが強調されていました(それが「儲かる」ネタになると言われていたのも事実です)が、もはや、我が国では資源管理を行っていない漁業は見つけるのが難しい状況です。つまり、誰しもがエコラベルを入手できる状況にあるのです。なら、もうMELの役割が終わりかと言うと、いえいえ、これからが始まりです。我が国漁業がしっかりした資源管理をしていることをエコラベルが実証できるなら、これを持って世界に打って出ることが可能です。特に
(2)で見るように北東大西洋に比べると、東アジアを中心とした太平洋域では、国際的な資源管理が大きく遅れています。日本国政府も、国力を背景にした交渉では、いかんともしがたい国際的なパワーバランスの中、エコラベルは民意を背景に、国の枠組みをも超える『各国共通のパワーツール』になり得ることが、(2)(3)で実証済みだと考えられます。エコラベルの力が、停滞する国際資源管理を進める大きな力になるものと信じます。
世界中にエコラベルによる認証制度が広がり、これをそれぞれのスキームオーナーが協力して正しく用いることができれば、国という枠組みも超えた『地球市民としての水産資源管理』が実現する可能性があります。国の枠組みにとらわれた偏狭な国益をも超える、しかしてこの限られた資源しかない地球で人類全体が必要とする資源管理を実現する強力なツールとしてのエコラベルの可能性が、少しずつ見えてきているのが、今の状況かなと思います。
そこに行けるのか、行けないのかわかりませんが、MELの未来がそこにあることを信じるとともに、関係者がそこに向かって今後も奮闘されることを、私は大いに期待しています。

内海専務有難うございました。「日本発 世界が認めるMEL」の進むべき姿にしっかりとした指針を示していただきました。MELの産みの親としてまた育ての親として今後ともよろしくお願いします。

6.イベント関連

11月27日に、3年振りに日比谷公園でリアル開催されましたFish-1グラ
ンプリに参加しました。今年はブースの割り当ての関係で控えめの出展とな
りましたが、晴天に恵まれ盛り上がったFish-1グランプリの中で、一定の存在
感は示すことが出来たと受け止めています。
来年1月20まで開催されます主婦連様の東京都消費者月間実行委員会主催の「WEB交流フェスタ2022」のエシカルコーナーにMEL協議会も出展させていただいております。くらしに役立つ情報としてMELの紹介をしています。
今月のインスタグラムは、MELアンバサダー(1名)に東町漁協様の「鰤王」の紹介をいただき、動画は1万回再生され2200件の「いいね!」のレスポンスがありました。

https://www.instagram.com/reel/CmSYJjKAbrJ/?utm_source=ig_web_copy_link

更に認証商品の紹介を広げてまいりますので、ご希望がありましたらMEL事務局に連絡ください。
12月7-9日SDGs Week EXPO 2022(エコプロ2022)に出展された7&iグループ様にMELへの取組みを取り上げていただきました。来場者に対するプレゼンテーションは大いに盛り上がり、時代を感じさせました。

12月9日に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストが発表になり、日本のアワビのうちマタカ、メガイ、クロの3種が絶滅危惧種(EN:近い将来に野生での絶滅の危険性が高い)に登録されました。折から日本では水産流通適正化法が施行され、アワビやナマコ、シラスウナギが特定第一種として指定され、
IUU漁業撲滅への動きが厳格化しており、生物多様性保全への世界の動きは否応なしに進んでいます。
水産界に重たいニュースが多い中、MEL漁業認証第1号の北海道秋サケが久しぶりに元気な姿を見せてくれました。どうか皆様、秋サケの元気をいただき良い年をお迎えください。
今年も1年間MELニュースにお付き合いいただき有難うございました。

以上