MELニュース2022年 5月 第50号

コロナにより2年間開催が見送られていた世界の三大国際シーフードショーの一つであるバルセロナシーフードショー(会場をベルギーのブラッセルからスペインのバルセロナに移した)が、ようやく今年「Seafood EXPO Global 2022」の名前の下に実現の運びとなり、筆者も遠路参加しました。コロナ下のことでもあり中国をはじめとするアジア系の出展と参加は減少していましたが、世界のサステナブルな社会を求める波の大きさと魚食の拡大には目を見張るばかりでした。
世界的な魚食の拡大は、カタルーニャ、ガリシアといった伝統的な魚食文化を持つスペインが開催国であったからと言うより、水産物の流通管理と調理技術の進化がもたらしているという仮説、つまり「水産物料理が格段に多彩かつ美味しくなったことが需要を拡げている」に行きつきました。
今後益々拡大するであろう水産物の需要に対応するためには、資源の持続的利用と養殖産業の先端化が不可欠であることを痛感して帰国しました。

1.国際標準化関連

Seafood EXPOにおけるGSSI関連では、4月27日のSOAG(Scheme Owner Advisory Group)会議には承認されている9のうち7スキームの代表が参加、広い範囲の議論が交わされました。スキームオーナー側から余り手を拡げすぎない方が良いとの意見が出る中、SSCI(Sustainable Supply Chain Initiative)、GFSI(Global Food Safety Initiative)との連携強化を通し食品安全や不当労働等社会問題にも焦点を当てる方針が説明されました。(SOAGは事務局への助言をする機能なので、議論の内容は理事会に反映される)
➀GSSIの基準について新たにBIC(Benchmark Integrity Committee)を設け承認のサイクルを、有効期限3年をなくし、MOCA(承認継続審査)を年次ベースで行なう。
②重視することとして
・Animal Welfare : Fish Welfare
・Feed : 低魚粉、代替タンパク等
・気候変動問題への対応:温室効果ガス削減
・Circularity:加工残滓の有効利用
等が提示されました。加工残滓の有効利用はMELが現在取組んでいる課題であり、協働できる接点を期待します。
CoC の相互承認問題では、アラスカの RFM のスキームオーナーであるCSC(Certificate Seafood Collaborative)およびゲストとしてアイスランド の RFM 機構が参加、相互承認に進むことを確認、お互いに組織決定をすることとしました。(MEL は 6 月に開催予定の総会にお諮りする予定)
CSCは既にアラスカブースの中で将来のビジョンとして日本、アイスランド等ともに Global RFM Program を推進するすることを明示した下図のパネルセッション案内のチラシ(内容は甚だ一方的ですが・・)を配付していました。

一連の対面の会議が今までのWeb会議で溜ったイライラを取り除き動きを一気に加速させると受け止めています。
4月27日のサイドイベント「Global RFM Panel」に冠野事務局長がパネリストとして登壇し、アラスカ、アイスランド、アドリア海(イタリア、クロアチア)代表に混ざって日本のMELの取組みを紹介しました。
その他GSA(Global Seafood Alliance)のセッションにも参加し、CEO Brian Perkins氏、BAP規格担当のDan Lee氏等とも交流しました。BAPはMELとの接点を求めており、図らずもその機会が実現した。MELの国際的存在感を印象つける上で意味のある参加であったと判断しています。

2.認証関連

5月の認証は漁業1件、養殖2件、CoC 6件計9件でした。
現在、審査中の案件が42件(うち8件は審査完了、認証手続き中)であり、一時期滞っていた審査はペースを取り戻しています。

3.認証取得者からのご報告

今月は、宮城県女川町尾浦で養殖しておられるギンサケが水揚げの最盛期を迎える(株)マルキンの鈴木 真悟常務取締役にお願いしました。
鈴木常務は、日本の銀サケ養殖のパイオニアである(株)マルキンの創業者鈴木 欣一郎様の令孫で、石巻で東日本大震災からの漁業再興を目指して事業、人と夢つくりを推進しておられる若手水産人の活動(一社)フィッシャーマン・ジャパンの理事もお務めです。

「国際認証水産エコラベルと目指す銀鮭の養殖加工経営」

株式会社マルキン
常務取締役 鈴木真悟

弊社は宮城県女川町で銀鮭の養殖生産・加工販売を事業の柱としております。1977 年に現代表取締役の鈴木欣一郎が当時試験段階だった銀鮭養殖の将来性に着目し、日本で最初に銀鮭養殖の事業化に成功したことが起源であり、以降40 年以上にわたり生産・加工・販売という自社一貫体制を強みとしております。
先般の東日本大震災では養殖生簀や船舶・加工場の全てが流失しましたが、翌2012 年には養殖場と加工場の一部を再建・稼働させ事業を継続することができました。震災後の販路回復の過程において、国内市場だけでなく、新たに東南アジアをはじめとした海外輸出にチャレンジし、品質面では諸外国のサーモンに劣らぬ評価を得ることができましたが、国や地域によってはMSC やASC といった国際認証水産エコラベルの取得が取引の前提となる事例を聞き、環境に配慮した養殖管理の必要性を強く意識するようになりました。

水産エコラベル取得を目指し、弊社ではまず既存の養殖管理体制の見直しと意識改革を実行するため、2017年にAIP(養殖漁業改善プログラム)を立上げました。従来の管理内容と認証基準を照らし合わせ、どのような改善が必要か可視化するものです。国内での認証取得事例もまだ少ない中でしたので、飼料会社や種苗生産者といったステークホルダーと共に1つずつ手探りで改善を進めてきました。特に力を入れたのはIOTによる漁場モニタリングです。水温や溶存酸素量などを常時測定するシステムを開発・設置することにより、作業負担の軽減や環境変化による魚の餌食い状況等のデータ蓄積が可能となり、今後の養殖生産の効率化に役立つと確信しています。
2020年3月にMEL養殖認証を取得したのち、同年6月にASC養殖認証を取得することができました。2022年4月までに各国際認証は2回の年次監査を受け2023年には更新審査を受けるまでに定着しています。
認証商品の引合いはSDGsの推進等もあり年々増えている実感がありますが、エコラベルの需要に対し、区画漁業権の課題などで生産量が限定的となり要望に十分に応えられない状況にあります。水産エコラベルの普及が今後進むことにより、一般消費者の皆様だけでなく、漁業関係者の方々にも環境に配慮した漁業の重要性が広く周知され、様々な漁業経営課題の解決につながることを期待しております。

鈴木常務有難うございました。筆者にとって数々の思い出を持つ若い時代の勤務地女川を懐かしんでおります。三陸の海で、あの酷かった大震災にもめげずにかつてのサンマやカツオに代わりギンサケの存在感を高めておられることを嬉しく伺いました。益々のご発展をお祈りします。

4.関係者のコラム

行政のトップとして日本の水産エコラベル認証普及を推進され、MELが今日あることにご支援いただいた前水産庁長官の山口 英彰様にお願いし、日本の水産エコラベルについてお話しをいただきました。

「これからのMELに期待すること」

前水産庁長官 山口 英彰

MEL認証の件数が最近増えています。国際基準であるGSSIの承認を受けた漁業認証、養殖認証、流通加工段階認証(CoC)は、本年5月17日現在で177件に達しています。とくに、この1年間の伸びには目を見張るものがあり、MEL協議会をはじめとする関係者の皆さんの努力に敬意を表します。

MELは、水産資源の持続的利用、環境や生態系の保全に配慮した管理を積極的に行っている漁業・養殖の生産者と、そのような生産者からの水産物を加工・流通している事業者を認証するものです。したがって、MELを実践している漁業者にとっては、今般の漁業法改正で導入された、資源管理に関する新たな措置についても、MELを通じてクリアできるでしょう。生産現場から食卓に至るまでMEL認証された商品が届 くことで、真摯な漁業者の努力が、市場関係者、小売業者にも伝わり、ひいては消費者に評価されることが期待されます。
漁業者からは、MEL認証によって水産物の販売価格が上がることを期待する声をよく聞きます。しかし、ものごとは、そんなに単純ではありません。消費者が商品に価値を見いだす(お金を出そうとする)のは、生産方法、生産地、商品の品質、鮮度、形状、おいしさ、希少性などの要素と価格とが見合っているときです。MELの実践を通じて、消費者が欲しいと思う商品をつくれば、漁業者の望む高い価格で買ってくれるようになるでしょう。
日本人は古くから魚を食べていたので、教えなくても魚の目利きができていましたが、今の消費者は、丸魚を捌ける腕前を持っているプロ級の人がいる一方で、大多数の人は切り身になった魚を買うだけです。このため、大型量販店などでは、MELのロゴマークの付いた商品を販売して、消費者に対して商品内容を保証することが必要となっています。
また、水産物の消費が増えている外国市場に向けて輸出する際には、漁獲水域や漁獲方法などの漁獲証明やHACCP認証が求められます。
今後のMELの規格は、このような国内外の要請に即して、水産物の信頼が得られるよう絶えず内容の見直しが必要となるでしょう。
水産物流通に関しても、水産流通適正化法が本年12月に施行されることを契機に、市場取引の電子化、漁獲証明や証票のデジタル化が進むことが予想されます。流通加工段階認証(CoC)MELについても、流通構造の変化に合わせて電子化への対応が求められるでしょう。
このように激動する水産業界の中で、多方面にわたりMELの役割が重要になるのは間違いありません。解決すべき課題も多いと思いますが、水産業の発展のためにMELが大きな役割を果たすことを心から期待しております。

山口様、貴重なお話を有難うございました。山口様がご苦労をされた新漁業法の下、また水産流通適正化法とともに日本発の水産エコラベルであるMELを何とか国際的トップブランドに仕上げます。今後ともご指導をよろしくお願いします。

5.イベント関連

国際標準化のところでご報告ししましたがバルセロナで開催されました Seafood EXPO Global 2022に参加しました。会議の部分は報告の通りですが展示会は中国等アジア勢の出展が少ない中でも、6つのホールに欧米を中心に45ヶ国と地域のパビリオンに延3500社・団体が顔を揃える大規模なイベントでした。日本勢はJETRO、マルハニチロG、ニッスイG、極洋Gが海外関係会社が中心となってブースを構え、どちらかというと存在感の薄かったアジア勢の中で大いに気を吐いていたことが印象的でした。

商品としてはオーストラリア、ヨーロッパ産のヒラマサ、日本産のブリが注目を浴びていました。
JETROブースにはMEL認証取得しておられる南予ビージョイ
様、東町漁協様(代理店のトゥル
ーワールド ジャパン)、大水様が出展しておられました。まだまだMELの露出は少ない現状ですが、
会場のサイドイベントでも取り上げられており、ヨーロッパにおけるブリ、ヒラマサブームの中で存在感を高めるチャンスと感じました。
ヨーロッパではエシカル消費の視点から肉食を避ける動きが高まっており、一部は植物性の代替肉に向かっているが、一方水産物は健康という視点から着実に支持をされている様に見える。この動きは今後注目して行きたい。

6.養魚用配合飼料、フィッシュミール・魚油規格開発について

5月19日に(公社)日本フィッシュミール協会の通常総会が開催されましたが、総会の前に協会の主催でフィッシュミール・魚油、配合飼料のMEL認証規格開発についての説明会を設営いただきました。会場には水産庁加工流通課、日本水産油脂協会からの出席もあり、オンライン参加を加えほぼ全会員が参加される盛会で、ポイントを突いた質問も出ました。
福井県立大学佐藤秀一教授にお願いしております認証規格原案作成も進んでおり、次のステップである規格委員会を立ち上げ皆様との議論を掘り下げたいと準備をしております。
養魚飼料の問題は、特に肉食系の養殖魚の増産並びに輸出拡大を目指す日本にとり極めて重要な課題と認識しております。当初のタイムスケジュールから遅れていますが、皆様の協力をいただきながら鋭意とり進めて参ります。
どうかよろしくお願いします。

今月の魚はアユにしました。アユに関しては、郡上漁協様、森養魚場様がMEL認証を取得して居られ、うち郡上漁協様は「アユ友釣り漁業」で発効した認証が間もなく初めてのシーズンを迎えます。スキームオーナーのMELとして、遊漁者を巻き込んだこのユニークな取組みが成功するシーズンとなることを願っております。
連休明けから、東京の人の動きは一段と活発になっています。このことが再び感染増加を招かないことを祈りながら、コロナ前を思い出させる昼食に並ぶ人々の列をながめるこの頃です。
皆様にはどうかご自愛の上益々の活躍されますことを祈ります。

以上