MELニュース2023年8月 第65号

2023 年8月 第 65 号

水産界 殊に 地元の納得が進まない中、とうとう処理水の放出が開始されました。これから数十年にわたり続くであろう予測を超える困難の始まりとならないことを願うばかりです。
ご承知の通り、EU は東電福島第Ⅰ原発事故以来導入していた日本産食品の輸入規制を8月3日から撤廃しました。一方、悪いニュースは 処理 水放 出 に絡み中国が日本から の 輸入水産物の輸入の全面禁止に踏み切りました。中国、香港は日本産水産物の最大の輸出先 であるだけに、長く続けば 大きなダメージは避けられません。 MEL の規格は放射能の基準は設 け ておりませんが、 国際 政治の複雑な駆け引きの展開にどう対応するか頭が痛い日々が続きます。

1.国際標準化関連

MEL の GSSI 新基準( Global Benchmark Tool Ver.2.0 承認 は 、欧米の夏休みシーズンでもあり 予期していた 8 月 22 日から1- 2 週間遅れることになりました。 承認されますと 昨年 8 月に承認申請をして以来 丁度 1 年、 先月のCSC( アラスカ )RFM に続く世界で2番目の スキーム になります 。
待ち遠しいところですが、もう少しの辛抱をお願いします。

2.認証発効関連

今月の認証発効は養殖2件、CoC2件、計4件でした。
このところ認証更新期にあたり、認証を終了されるケースが出ています。認証終了の累計は8件で、決して少ない数ではありません。終了の理由は、資源水準の問題から認証取得の効果が感じられないまで様々ですが、この流れは続くと考えております。MEL協議会として引き留めることはしない方針で対応していますが、認証を取得された皆様の期待を裏切ることがないようキメ細かく取り進めます。

3.ジャパン・インターナショナル・シーフードショー2023に出展しました

4年振りにフルバージョンで開催されましたジャパン・インターナショナル・シーフードショーに出展しました。開催規模は、海外から16ヶ国・地域、国内から600社・団体の出展があり、コロナ前の90%を超えるところまで回復しました。魚や加工品を並べるだけでなく、最新の技術を訴える展示が目立ちました。
昨年に続き主催者である大日本水産会の目玉の一つとして設けられました「水産エコラベルコーナー」にMELの現状報告および認証取得者の商品展示(35品)を行いました。今回は、MSC、GSA(BAP)、ASMI(CSC)の海外スキームの出展があり、MEL認証取得者4社(高橋商店様、南食品様、山下水産様、ヨンキュウ様)が試食や商品展示を通し積極的な売り込みをされる等、小売業、外食産業はじめ多くの関係者で賑わい、日本において水産エコラベルが社会に実装されつつある時代を感じさせました。

4.「MELワークショップ2023」を開催しました

ジャパン・インターナショナル・シーフードショーの初日の8月23日、会場の東京ビッグサイトの会議棟で「MELワークショップ2023」を開催しました。
主催は大日本水産会、運営はMELが行う形式で実施しましたが、水産庁から前資源管理部審議官(現大日本水産会参与)の高瀬 美和子様、GSSIから新事務局長の Lisa Goché様はじめ水産エコラベルに関係の深い斯界のリーダー(北海道漁連菊池様、イトーヨーカドー湯山様)に登壇いただき、事前にいただいたご質問と会場の皆様からのご意見をベースに新時代の水産エコラベルのあり方につき盛り上がった議論になりました。主催側のMEL協議会として、皆様からの真摯な指摘にそれぞれの登壇者が直球で対応する白熱した場となり,これぞワークショップ開催の意義と受け止めました。また、Goché事務局長との意見交換を通し、日本の新漁業法や流適法が海外に与えたインパクトの大きさを感じるとともに、海外への情報発信にもっと関係者を巻き込み明確なメッセージを伝えることが求められていると感じました。
パネルディスカッションの座長をお務めいただいた東京海洋大学副学長の舞田 正志先生から、締めのまとめとして

  1. 水産エコラベルは産業が生き残るために必須な仕組みである
  2. 水産エコラベルは持続可能な社会実現を望ましい方向に導く原動力になる
  3. そのために常に進化を続けてほしい

との総括をいただきました。
内容についてはアーカイブ化(日、英)し参加いただけなかった方々とも共有できる様に準備しております。

5.認証取得者からのご報告

今月は徳島魚市場(株)の吉本創一社長にお話をいただきました。徳島魚市様は祖業である市場卸から発展され、養殖から加工・流通までをサプライチェーン全体をカバーする水産総合商社として幅広く活動して居られます。今回のシーフードショーにも徳島県のブースに徳島魚市・旭物産で出展されました。

「MEL認証でつながる未来へ」

徳島魚市場株式会社
代表取締役社長 𠮷本 創一

弊社は徳島市中央卸売市場の荷受と呼ばれる水産物卸売業者です。開場50年を経て、その時代の流れと共に、弊社も漁業者から持ち込まれた魚を競りにより仲卸に売って終わりという時代から、漁業者の思いと消費者の思いを繋いでいくための広い視野を持って市場を運営する時代になりました。また、水産物の安定供給と共に安心かつ安全な水産物を提供することが市場の使命であります。
世界的な水産物需要の増加に伴い養殖魚に対しての需要や注目度が高まる中、弊社はMEL流通加工段階(CoC)認証、また徳島魚市場株式会社グループで養殖認証を取得しました。この制度は弊社が以前から取り組んできた水産物の自然環境を守るという考え方に合致しています。
ただ生産者、流通者側の意識だけではなく、それが消費者に伝わり、共有、共感されて消費に繋がっていくことでこの取り組みは成り立ちます。ですから、この制度は生産から小売りまでの関わる人の全てが認証を得てMELが繋がっていかなければ、この取り組みは消費者まで届かない仕組みになっており、それが課題でもありました。
しかしMEL協議会の皆様のご尽力もあり、最近はこの取り組みに共感していただいた小売業のお客様から自社でも取得するのでMEL認証の魚の取り扱いをしたいというお声掛けをいただくようになりました。弊社としても非常に喜ばしいことであり、また生産者にとっても大きな励みになると思います。その様な方々が増え、更にこのMEL認証が一般消費者に認知され、そして消費喚起に繋がり、生産者、流通業者の方々の意識に反映されていくことで日本の自然環境と資源の保護に繋がっていくと思います。

まずは弊社の徳島市中央卸売市場としての、水産物の流通拠点としての存在意義が今後ますます発展していくようにMELの理念のもと努力して参ります。

― 弊社は8月に徳島県が推進する「徳島SDGsパートナー」として認定されました。SDGsに関する重点的な取り組みとして、環境分野における目標を~MEL 認証制度の規定の遵守~ と掲げました。―

今後、一般消費者へMEL認証の認識が浸透することにより、「大切な海の資源を守る」ルールが出来上がります。そして自ずと日本の水産業が世界に認められた存在になっていくと思います。

吉本社長有難うございました。「徳島SDGsパートナー」の活動にMELの規程遵守を掲げていただきましたこと深謝申し上げます。また、力を入れておられる「すだち鰤」が存在感を高めておられることを嬉しく拝見しております。MELも一層お役立ちが出来るよう頑張ります。

6.関係者のコラム

今月は水産全般特に水産経済に造詣の深い鹿児島大学の佐野 雅昭教授にお願いをし、「エコラベル新時代におけるMELのあり方」に貴重な示唆をいただきました。

地域的水産環境認証制度の重要性」

鹿児島大学
教授 佐野 雅昭

(1)農畜産業における「GAP」認証と地域的階層性

現在世界の様々な商品カテゴリーにおいて「環境認証制度」の導入が進んでいる。FSC(森林管理・紙製品など)やRSPO(パームオイル製品)など林業部門における事例が先行しており、熱帯雨林保護を目的としたカエルのマークの「レインフォレストアライアンス」などはコーヒー好きなら誰でも知っているのではないか。現代的市場では個人の消費ニーズに応える価値に加えて、「環境配慮」という社会的なニーズに応える価値が注目されはじめているのだ。
しかし農畜産業分野における「環境認証制度」は意外に普及していない。むしろ農畜産業分野では「GAP認証」の取り組みが進められている。「GAP」とはGood Agricultural Practiceの略称であり、「よい農業のやり方」という意味である。農林水産省では「農業生産工程管理」とも呼んでいるが、これは、①食品安全の確保、②作業者の安全確保、③家畜衛生の確保、④アニマルウェルフェアへの配慮、⑤作業者の人権福祉、⑥環境保全の確保、⑦信頼される農場経営、の7項目において、一定水準を満たした経営体を認証する制度である。農場やJA等の生産者団体を第三者機関が客観的に審査し、基準以上であることが認められれば認証が与えられる。「環境配慮」の有無が主眼ではなく、農畜産業における多様な問題を総合的に解決あるいは改善し、農畜産業の持続的経営を確保するための制度といえよう。

この制度は世界規模の「GLOBALGAP」を頂点とした一つの体系を構築しており、以下アジア地域で有効な「ASIAGAP」、国内限定の「JGAP」さらには県単位での「県GAP」のような4段階の地域的階層性を持つ。一般にローカルな認証ほど基準は緩く、「ASIAGAP」より上の認証を取得すると「GFSI(世界食品イニシアティブ:世界の大手食品企業が主導する消費者のための食品安全規格の承認を行う団体)」の規格を満たすこととなり、国際的大手小売企業の調達基準をクリアすることができる。世界の大手食品小売業や食品企業の多くがGFSI認証取得を取引条件としつつあり、「ASIAGAP」以上を取得した生産物はグローバル市場において優位性を持つことになるのだ。生産者団体には取り組みを進め、こうした体系内階層間での上層移動が期待される仕組みとなっている。

(2)地域的「水産環境認証制度」の意義

水産業においては農畜産業分野とはやや異なる様相が見られる。現時点で最も普及している制度が天然水産物を対象とする「MSC認証」そして養殖水産物を対象とする「ASC認証」である。MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)はWWF(世界自然保護基金)と世界最大クラスのアグリビジネス企業であるユニリーバ(英国)が主体となり、1997年に設立された。MSCは順調に認証漁業を増加させ、2022年3月において認証取得漁業の数は世界で539件、それらの合計漁獲量は約2000万トンに達していると推測される世界最大の水産環境認証制度である。地域的な漁業へのきめ細かな配慮はなく、世界中のどの漁業も統一基準で画一的・合理的に管理すべきという理念が貫かれている。環境配慮におけるグローバリゼーションの貫徹である。

しかし日本では未だその認証漁業は少なく、2022年度末現在においてカツオマグロ漁業、ホタテガイ漁業など14件に留まっている。なぜだろうか。MSCは欧州で始まった制度であり、欧州で主力の単純な大規模企業型漁業を念頭に置いた制度設計となっている。企業型漁業向けの制度なのでその取得費用も相当に高い。またその審査基準は、地域的・季節的な変化に富み複雑で柔軟な日本の漁業には適合しづらく、そのような環境と調和的に発展してきたきめ細かな日本型の自主的資源管理を評価する能力がない。しかし

日本の沿岸漁業生産物の多くは実際に厳しい資源管理規制に基づいて漁獲されており、環境持続性に十分に配慮されているものが多い。MSC認証が取得できないからと言っても、決して無秩序なものではなく、むしろ優れたものが多いのだ。

そこで日本固有の複雑な資源構造や漁業生産システムに適合した水産環境認証制度としてMEL(マリン・エコラベル・ジャパン協議会)が立ち上がった。日本の沿岸漁業に合う的確な認証基準を設け、取得費用も低く抑えた。GSSIからも2019年末に承認され、日本発の水産環境認証制度が世界に認められたのである。現在では養殖水産物も対象としており、2023年8月現在、養殖含めて約86件(うち漁業認証は23件)の漁業が認証されている。このような地域的な「水産環境認証制度」はアラスカのRFM、アイスランドの「IRF」、米国の「G.U.L.F.」、アイルランドの「CQA」など他国にも存在しており、いずれもGSSIから認定されている。これらのスキームオーナーは非営利の第三者機関であり、生産者や消費者の負担が少ない制度となっている。今のところこれらはそれぞれが依拠する地域漁業の水産物に限定した制度であり、産地表示やトレーサビリティの厳格性、零細漁業者の誠実な取り組みを掬い取れるきめ細かい審査体制に強みがある。低いコストで、形式的ではなく実効性の高い管理体制を評価できるのが強みだろう。
こうしたローカルな認証制度とグローバルな認証制度はGAPで見られたような上下階層関係にはなく、相互に独立したものとして存在する。漁業特に沿岸漁業は地域の環境とともに存立しており、常に変化し、多様性が高い。画一化された硬直的基準で世界の漁業の環境性能を一律に評価しようとすることこそ実は非科学的であり、多様な「環境」との共生を理解していない態度ではないか。世界各地のローカル漁業は各地域にオリジナルなスキームで環境性能を評価することがより科学的、実効的である。従ってこれらは競合するものではない。むしろ対象となる漁業の特性に応じて棲み分けていくものであろう。また漁業の本来的な産業特性を鑑みれば、ローカルなものこそより重要であることは論を待たない。

(3)おわりに

日本の海洋環境と水産資源は多様性に富み、それらを漁獲する漁業もまた複雑で柔軟で多様である。このような本来的に変化に富む日本の自然環境に調和し、臨機応変に形を変えていく日本の沿岸漁業とその環境調和性を評価できない水産環境認証制度など日本には不要であろう。消費者は表層的なブームや報道に流されず、日本の沿岸漁業や日本発の環境認証制度に自信を持つべきだ。環境認証された輸入魚よりも、認証のない国産魚を食べた方が、環境持続性に貢献できるかもしれない。MELが国内市場で認知度を高め、同時に輸入魚ではなく国産水産物を選択的に消費することこそが正しい姿勢なのだということを、日本の消費者が理解することが期待される。

佐野先生、貴重な示唆を誠に有難うございました。MELは現在、GSSIの新規準(Global Benchmark Tool Ver.2.0)の承認直前であり、承認されると、世界で2番目のGSSI新基準承認スキームとなります。佐野先生が指摘しておられる多様性と環境調和性を兼ね備えた日本発のMELが漸く世界に認められる時代になったと受け止めています。今後とも、関係者とともに正しい情報発信を通して自然環境・資源と産業の持続性の両立ヘの貢献が出来る様行動します。引き続きご指導を賜わります様お願い申し上げます。

7.MEL夏休み親子教室を開催しました

昨年から始めましたMEL夏休み親子教室は、今年は3回開催し、会場の大日本水産会の会議室が盛り上がりました。参加者は延べ会場46名(父母20名、子供26名)、オンライン参加1家族で好評をいただきました。
お子様にはお魚クイズと工作(今年はガラス瓶を使ったミニ水族館作り)、親御様には簡単なMELの勉強会に参加頂きました。猛暑の中ではありましたが、お子様(小学校低学年が主力)の積極的な行動があり大いに楽しんで頂けたと思います。

冒頭の中国による、福島第一原発からの処理水放出に端を発した日本産水産物の全面禁輸問題は、かつて(公社)輸入食品安全推進協会会長をつとめた編集子に食の安全・安心に関する厳しい体験を思い出させました。
2000年に近畿地方中心に発生した乳製品の黄色ブドウ状球菌による中毒が社会を揺るがす中、2001年には日本で狂牛病が発生、また中国産冷凍野菜の有機リン系殺虫剤クロルピリフォスの残留問題が重なり、食の安全・安心問題に一気に火が付きました。食のグローバル化が進んだ結果、輸出入が生み出すリスクが顕在化し政府は食品安全基本法を制定、「食の安全・安心のための政策大綱」を取り纏め「残留農薬等のポジティブリスト制」の導入に踏み切りました。
最も影響を受けたのは中国産品で、2008年には冷凍餃子事件が発生し消費者の中国品に対する拒否感は最高潮に達したのは記憶から消えないところです。更に、2011年の東日本大震災による原発事故が引き起こした放射能汚染が世界を震撼させるとともに、食の安全・安心問題は、ある時は被害者であっても、ある時は加害者になるという現実を目の当たりすることになりました。
漠とした不安、根拠の乏しい諸説、こびりついた記憶が混じり合う中、メディアの報道が社会の異常心理を増進させる。この時の心情を、編集子はある雑誌への寄稿に「食の安全・安心は、資源保護と同じ様に終りのない長い旅である」と書き残しています。この「長い旅」をどう歩くかが、個々の企業・団体にとって、産業全体や国家にとって信頼の元になることを改めて思い起こしています。
今月はインターナショナル・シーフードショーがありましたので、皆様への配信が遅れたことをお詫びします。猛暑は一向おさまる気配を見せていません。

夏の疲れが出ないよう皆様のご自愛をお祈り申し上げます。

以上