
新年度に入りました。このところの定期的な降雨で、心配された水がめの貯水量は少しずつですが改善され葉物野菜の店頭価格に反映しています。中国に「春の雨は貴きこと油の如し」という古い諺がありますが、春に降る雨はその年の農作物の出来を支える重要なものであったことは当然として、同時に油が灯火に使われていた時代の社会の価値観をも映しています。古来、人類にとり「油」は食と生活に無くてはならない貴いものでありました。
今、世界は「油」の危機に瀕しています。第一次石油危機直後の1975年に出版された堺屋太一氏によるシミュレーション小説「油断」はベストセラーになりました。小説内では198日でホルムズ海峡封鎖は解けますが、エネルギー不足が引き起こした食糧難、産業構造の崩壊等社会生活に残した爪痕がリアルに描かれているのを思い出される方が多いかと思います。現代も人類の生活は油なしには成り立たないことを改めて痛感しています。
ただでさえ紛争の多発が世界を混乱させる中、アメリカ・イランの相互不信と双方の事情に振り回され間もなく2ヶ月、なかなか落としどころが見えてきません。結局は不確実性という爆弾を内蔵した曖昧な幕引きをするしか双方のメンツを立てる道はないのでしょうか。
平和産業である食料産業ことに水産業にとって、戦闘が終結しても、何時油断が再発するか読めない難しい環境が続きます。ここは、歯を食いしばって頑張るしか妙手がないのが残念です。
1.国際標準化関連
先月号でGSSIの新事務局長がガート・レ・ ルー氏(6月1日着任予定)に決定したことをご報告しましたが、今度は実務のキーとなる事務局員の退職が起きており、組織運営の不安定さはまだ続く様です。
4月10日にCSIとのCoC相互承認についてWeb会議を開催し、もう一歩踏み込んでCSI+MELの共通規格をつくり、CSI設立の理念である重複の排除実現が出来るか議論しました。方向は「検討に値する」と一致しましたので、それを承けて21日からのバルセロナでのSeafood Expo Global 2026で議論を進めます。進捗は加藤事務局長の報告を受けた後、MELニュース来月号でお知らせします。森林認証のPEFCの例も参考にしながら時間がかかっても粘り強く取り組みたいと思います。
2.認証発効関連
今月の認証発効は漁業1件、養殖1件、CoC2件の計4件でした。
漁業認証で2年振りに福一グループ様の遠洋まぐろ延縄漁業(北太平洋ビンナガ、南太平洋ビンナガ、中西部太平洋キハダ、中西部太平洋メバチ)の認証が発効しました。
3.認証取得者からのご報告
沖縄で2件目のモズクの養殖認証が発効しました。久米島漁協の参事 譜久里 長徳様に取り組みのご報告をいただきました。
「豊かな恵みを後世に」 〜久米島が挑む、持続可能なモズク養殖の未来
久米島漁業協同組合 参事 譜久里 長徳
沖縄本島から西へ約100km、古くから琉球の美しい島「球美(くみ)の島」と称えられてきた久米島に久米島漁業協同組合はあります。清浄な海洋深層水と豊かなサンゴ礁に囲まれたこの島は、全国でも有数のモズク産地で、年間約1,000トンの水揚げを約36名の生産者で養殖を行っています。私たちは、この美しい海の恵みを次世代へ引き継ぐため、ただ収穫するだけでなく、「大切に守り、育み、つないでいく」ことを何よりも大切にしております。その決意の証としてMEL認証取得に取り組むことにしました。
私たちがMELを取得したのは、まず「海の声に耳を傾ける」ためです。モズクの成長は、ありのままの自然に依存しています。だからこそ、自分たちのやり方が海に負担をかけていないか、MELの基準で厳しく見つめなおし、常にベストを尽くして生産し続ける。その「誠実な姿勢」を仕組みにしました。もう一つが、「選ばれる誇り」を磨くためです。世界中で環境への想いが高まる今、国際水準の認証は、私たちが海を愛している証そのもので、「このモズクなら信頼できる」と胸を張って選んでいただけるよう、久米島ブランドとして新しい価値を吹き込んでくれると感じています。
2014年より流通パートナーや消費者の皆様を巻き込んだ活動も行ってきました。それが「久米島美ら海環境基金」です。これは、当組合と大阪いずみ市民生協、わかやま市民生協、(株)海産物のきむらや、そして久米島町がパートナーとなり、モズクの対象商品1点購入につき3円を基金に積み立て、久米島の環境保全活動に役立てています。
単なる商品の売買にとどまらず、生協関係者の皆様が実際に久米島を訪れ、共に海岸清掃を行ったり、陸域からの赤土流出を防ぐための「ベチパー
(深根性の植物)」を植栽したりと、泥にまみれて海を守る活動を続けています。こうした顔の見える関係こそが、持続可能な水産業を支える「共感のネットワーク」を生み出す大きな財産となっています。
また、私たちは新たな領域として「ブルーカーボンクレジット」も認証取得しました。海藻であるモズクが成長過程で吸収する二酸化炭素を価値化価値化し、脱炭素社会への貢献と漁業経営の安定化を両立させるモデルを目指しています。

この「久米島モデル」は、日本国内にとどまらず世界へも発信したいと思っております。健康食としての魅力に加え、環境・社会への貢献を付加価値とした 「サステナブル・モズク」として海外市場を開拓し、日本の養殖業の新しい形を提示したいと考えています。
私たちの願いはシンプルです。「いい商品を、継続的に届けること」。
しかし、気候変動や海洋環境の変化が激しい現代において、昨日と同じことをしていては「継続」は望めません。MEL認証を指針とし、科学的根拠に基づいた資源管理と環境保全をアップデートし続けることや、環境・社会に貢献すること。それこそが、久米島の豊かな恵みを100年後の子供たちに手渡すための、唯一の道であると確信しています。
譜久里様有り難うございました。沖縄の海と自然を大切にしてこられた皆様の心が伝わって来ます。また「美ら海環境基金」の活動も素晴しい。是非、いい商品を、継続的に届けて下さい。久米島漁協様の更なる発展を期待申し上げます。
4.関係者のコラム
CoCシリーズの第2弾、加工につき前回のCoC総論に引続き中原先生に執筆をお願いしました。
「水産加工業とMEL CoC―信頼と価値を支える仕組み」
東京海洋大学 教授 中原尚知
日本の水産加工業の多くは、漁港の背後地に集積する原材料立地型の産業として展開し、地域経済を支えてきました。地域に水揚げされる水産物と、その地域の気候や文化が結びつくことで、地域独自の水産加工品や魚食文化が育まれています。しかし近年では、水揚げ量の減少、水揚げ魚種の変化、需要の細分化・多様化などにより、その状況は変化しており、他地域からの原材料調達や全国の市場を視野に入れた事業展開は、大手に限らず重要な選択肢となってきています。そのため、水産加工業者には以前にも増して、原材料の安定的な調達と消費者ニーズに訴求するためのマーケティングが不可欠となっており、その前提には水産物の持続的な利用があります。
以上を踏まえつつ、ここでは水産加工業とMEL CoCについて考えてみたいと思います。MEL協議会のホームページで公表されているMEL認証実績一覧を確認すると、2026年3月26日現在、漁業認証は24、養殖認証は68、CoC認証は189にのぼります。取り扱われる魚種・水産物の数は、漁業で22、養殖で19、CoCでは31となっています。MEL認証においては、生産段階で認証された水産物が、MEL CoCによる消費者に至るまでの連鎖に組み込まれ、その過程で加工が施される水産物も少なくありません。最終製品の全体像まではこの一覧から確認できないものの、認証水産物から様々な商品が生まれていることは読み取れます
もっとも、ラウンド形態での鮮魚流通でも高次加工品の流通でも、認証水産物の真正性を担保し、それに伴う信頼を消費者までつないでいくという点では同様です。ただし、水産加工業においては、切り身加工、煮熟、浸漬、乾燥、フライ処理等々の過程が加わります。このような物質的特性の変化は管理の連鎖が途切れるリスクを高めると考えられ、それをふまえて真正性を担保しうる管理体制を整えることが、水産加工におけるMEL CoCの重要な点といえます。そのため、審査においては仕分けの仕組みの適切性に加え、不可逆的な物質的変化を伴う工程において、入出荷量の整合性を定量的に裏付ける歩留まり、非認証原材料との分別や混合の管理、それらが示された工程表や製品仕様書の確認などが求められます。形態変化を伴わない場合に比べて、管理や審査のポイントが相対的に多く詳細になることが特徴といえます。
さらに、水産物流通の特徴の1つである多段階性は、水産加工品の流通にも当てはまります。加工段階のすべてを包摂する事業者が存在する一方で、一次加工と二次加工、さらに高次加工を担う事業者がそれぞれ異なることは一般に珍しくなく、その際、水産物は多くは中小規模である複数の加工業者を経由しながら、最終製品に向けて姿を変えていくことになります。さらに、卸売業者や小売・外食業者を経て、消費者に至るわけです。MEL認証が普及するにつれ、こうした分業に基づく多段階流通の中で、より多くの事業者にMEL CoCへの対応が求められる場面も増えていくでしょう。それは現場にとって決して小さくない負担となりえますが、各段階の管理責任を明確にしながら認証水産物の真正性を保つためには、欠かせない条件でもあります。
では、水産加工業にとってMEL認証およびMEL CoCはどのような意味を持つのでしょうか。ここで確認したいのは、MEL認証が付加価値に結びつく可能性を持つとしても、現状ではそれがそのまま価格や商品価値として実現しているわけではないということです。ただ、MEL認証全体が、持続可能な水産物であるという信頼や価値の基盤を形成しており、MEL CoCはその信頼や価値を流通・加工の各段階で守り、つないでいく仕組みと位置づけることができます。水産加工業者のマーケティング活動によって生み出される価値を、持続可能性に由来する信頼が下支えすることで、差別化要素の形成や持続可能性を求める市場への参入条件の獲得にもつながるものと考えられます。
そのようなことを実現するためには、MEL CoCの新規認証と継続的な保持が求められるわけですが、先述のとおり、そのための審査や管理は決して容易なものではありません。MEL CoCの審査が日本の水産物流通の現場に即しつつも厳格なものであることは前提として、水産物流通では事業者ごとに異なる特徴があり、水産加工業をめぐっては加工方法や技術の多様性も加わります。現在進められている認証規格の更新に伴い、「適合の判定基準(審査の手引き)」を卸売用、加工場用、リテール用に分けることが検討されているのも、こうした実態に即した運用を目指す動きといえます。これにより、各事業者の特性に応じた、より合理的で実効性の高い管理体制の構築が期待されます。
日本の魚食文化の一部を成している水産加工品と、それを担う水産加工業は原材料市場、労働市場、製品市場といったおよそすべての局面で国際化を進めています。そのなかで、水産加工業者は、厳しい制約条件のもと、さまざまなニーズを見据えながら魅力的な商品を消費者に届けるというミッションに取り組んでいます。そのとき、持続可能性に由来する信頼を、最終製品に至るまで保ち続ける仕組みとして、MEL CoCの役割はさらに重要になると考えられます。店頭で、そのような水産加工品と自然に出会えるようになることは、持続可能性への取り組みが商品の価値形成に寄与し、その価値が責任と信頼の連鎖を通じて最終商品として具体化され、日常の選択肢として定着していることを示しているといえます。MEL認証の普及が進むことで、そうした動きも着実に広がり、それは日本の水産業の持続可能性を支える一助となっていくでしょう。
中原先生有り難うございました。先生の目を通した水産加工業の捉え方はとても新鮮でした。原料、労働力、市場に国際化に直面する日本の水産加工業が更に飛躍するためにMEL認証がお役に立てることを願っています。今後ともご指導をお願い申上げます。
6.養魚飼料、魚粉・魚油認証規格委員会を開催しました
3月30日の意見公募終了を承けて、4月17日に規格委員会を開催しました。寄せられました意見は2件、19項目でした。うち規格に関する意見は2件5項目でMELホームページに掲載しております。今回の規格委員会は配合飼料と魚粉・魚油合同の開催であり、委員および専門部会、オブザーバーの皆様から広範なご意見をいただきました。養魚飼料、魚粉・魚油のMEL認証開発に取り掛かってから6年が経過して漸く認証規格発効に向け、理事会の承認を経て総会に諮れる段階にこぎ着けました。
日本産水産物の輸出は右上がりであり、産業への実装が課題です。
今後、マネージメントレビューのご報告で触れました通り認定機関の問題、審査員養成の問題等次のステップが待っており、ご関係の皆様のご支援をお願い申上げます。
7.養魚飼料、魚粉・魚油認証規格委員会を開催しました
2025年6月の通常総会で承認され発効した漁業認証規格のバージョン3.0に盛込まれた「労働者の人権」に関する審査員勉強会を開催しました。養殖はバージョン1.0から導入済、CoCは現在パブコメ中のバージョン3.0から導入されます。
法令遵守の視点から審査に於ける労働関係の課題への対応を、田中栄次先生に講師をお願いし解説いただきました。対面とWebで29名に参加いただき、後日録画の視聴希望者29名がおられますので、審査員資格をお持ちの方の80%近くに参加いただくと言う関心の高い企画となりました。録画を有効に使っていただき、審査の質向上に役立てていただきたいと思います。
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諸物価の高騰が一段と実感されます。総務省が発表した2025年のエンゲル係数は28.6%と、イラン革命の余波を受けて発生した第二次石油危機の1981年以来のレベルとなりました。4月には、更に食料品に加え、石油関連製品の高騰がありその波及は広範に及ぶと思われます。どの産業も、たとえ原価高騰を販売価格に転嫁出来ても結果として消費が縮むという頭の痛い現実を抱えることになります。
ローマ教皇レオ14世の復活祭のメッセージは「手にしている武器を置きなさい。戦争を引き起こす力のある者は平和を選びなさい」でありました。このメッセージに反発する向きもあるようですが、平和産業に身を置く一人として恒久停戦の実現を願うばかりです。