MELニュース2025年11月 第92号

第30回国連気象変動枠組み条約締結国会議(COP30)が、世界が一枚岩になれない難しい状況の中ブラジルのベレンで開催されました。メディアの報道以上の情報を持ち合わせませんが、議長国のブラジル ルラ大統領の努力にもかかわらず焦点であった「化石燃料からの脱却」が盛込まれない合意文書の採択となり、世界分断の弊害を強く印象づけました。進行する気候変動の深刻さを考えれば、夫々の国の事情と見過ごす訳には行きません。
パリ協定採択から10年の節目、地球の平均気温がパリ協定の目標を超える現状の中、会場で火災が発生するというハプニングもあり充分な議論が出来なかったとは言え残念な結果と受け止めます。

1.国際標準化関連

11月13日にGSSI理事会が開催され、CEO不在の中(先月のMELニュースでIhle氏のstep downを報告済み)、複数の理事から

  1. 水産エコラベル制度およびGSSIのベンチマークツールに精通した後任CEOを至急選任する必要がある、
  2. GSSIとして業務遂行能力が低下しており、人的資源不足への懸念が指摘されました。

理事会として、現状改善への打ち手は示せず、次のバルセロナでの議論に先送りされた様です。
遅れていますMELに対する承認継続審査(MOCA)も来年まで持越されることになりました。MEL協議会として遅れることの弊害は特にありませんので静観します。
ただ、MEL協議会としてはGSSIの現状を極めて深刻な事態と受け止めており、GSSIのベンチマークプロセスを全面的に支持することを表明しているCSIと協働しながら、スキームオーナーサイドからどの様な協力ができるか模索して見ます。

2.認証発効関連

今月の認証発効は養殖1件、CoC5件、計6件でした。

3.認証取得者からのご報告

今月は大分県佐伯湾で最新のカキ養殖に取り組んでおられる新栄丸の丸山千潤様に報告をいただきました。

MEL認証を足掛かりに、強い会社を目指す」

合同会社 新栄丸
社長補佐 丸山千潤

大分県佐伯市で牡蠣養殖事業を営んでいる新栄丸と申します。大分県の佐伯湾では昔から水産資源が豊富で、近くに一級河川もあり、プランクトンが豊富で貝の成長がとても速いのに着目、2016年に法人化し、牡蠣の養殖を本格的に始めました。
山水が流れ込む栄養豊富な大入島の海で、海外フリップファーム製法を取り入れた養殖を行っています。当社ブランド牡蠣「大入島オイスター」は、味は繊細ながらも筋肉質、生き生きとした長寿な牡蠣で、おかげさまで国内外から引き合いも増え、順調に出荷を伸ばしております。(2025年度出荷数見込み:80万個)

今回MEL認証を取得するに至ったきっかけは、海外バイヤーからの声でした。今年から国内販売拡大はもとより、海外輸出拡大への舵切りをし、積極的に展示会に参加しました。その際、海外顧客から必ず聞かれるのは認証の有無です。これは海外との取引を始める重要前提条件でもあり、当社は日本の顧客に対しては、実績も信頼もありましたが、海外においてはいわば「タイトル」が必要なのだと痛感いたしました。
まずは起点として、日本国の認証取得を目標として、今回のMEL認証の取り組みに至りました。認証までに必要な要素や書類は、整理してみるとすでに揃っているものも多く、現状行っている養殖のプロセス自体の大きな乖離はなかったのだと、ある意味ホッといたしました。今まで一生懸命取り組んでいたことが、結果的にMELの内容に合致したという感じでした。
MEL取得後、期待する効果として、まず社外的には、海外顧客との商談において(認証が)アドバンテージになること、また、カントリーリスクがあっても、自分たちの品質や取り組みの軸をぶれずに伝えられる強みを持てることだと思います。一方、社内的には、MEL認証企業ということで自分たちの行ってきた努力に対する自信とプライドを持ち、仕事のモチベーション向上につながることを期待しています。
今後、予想もつかない環境変化やリスクがあることを想定すると、限りある水産物、資源を有効にしていくことは、世界共通の本質的課題であり、そのために養殖事業を一定の仕組みの中で運用していく事が大事だと思っています。
MEL認証取得およびその継続活動を通じて、社内の取組みの“見える化”を行い、ルール作りや標準化もこれをきっかけに推進し、強い経営事業を目指してまいります。私どもの寄稿が皆様のお役に立つことが出来れば幸いです。

丸山様有難うございます。フリップファーム方式は、まだ日本では広く普及していない中、新栄丸様の積極的な取り組みに敬意を表します。是非MELを活用して、皆様の努力の成果を世界の牡蠣ラバーに広めてください。

4.関係者のコラム

シリーズで掲載しました、「漁業認証を考える」、「沿岸漁業活性化への提言」に続き、養殖について同じくシリーズで東京海洋大学副学長 舞田正志教授に執筆をお願いしました。

「養殖生産とエコラベル認証」

東京海洋大学 副学長
舞田 正志

我が国は長い養殖生産の歴史を持ち、消費者に水産物を安定的に供給してきました。世界的に魚食がもつ人の健康に対するメリットや畜産動物に比べて動物タンパク源としての効率性が知られるようになり、また、日本食の普及も相まって、水産物に対する需要が高まっています。それに伴い、乱獲による天然水産資源の減少が大きな課題として認識されるようになってきています。天然水産資源の減少を代替し、安定的に水産物を供給することは養殖生産の大きな意義であると言え、世界の養殖生産量は天然漁獲量の減少に対し、年々増加しています。これに対し、我が国の養殖生産量は横ばい、または、減少傾向にあるのが現状です。多様で、高品質な養殖魚の生産を通して、消費者に水産物を安定的に供給という養殖生産のミッションを果たすために、持続可能な養殖生産体制を構築することは我々に課された重要な使命と考えています。
養殖生産に不可欠な3要素があります。「水」、「種」、「餌」です。私が40年以上前に水産養殖学を学んだ時に、冒頭で「水産養殖に不可欠な3要素とは何か」として上げられたものが上記の3要素です。この3要素は何れも養殖生産の制限要因であり、一つでも欠けると養殖生産が成り立たないことはご理解いただけるかと思います。「水」は養殖生産に適した用水、「種」は種苗、「餌」は言うまでもなく、養殖魚介類に与える餌のことです。
我々は、現在ある色々な事象は永遠に続くものという認識を持っているのではないか、また、それらが永遠に続くことを前提として様々な活動を行っているのではないかと思います。しかし、永遠に継続することがないことは、これまでにいくつも目にしてきたことではないでしょうか。と同時に、一度失われたものを再生することには多大な労力と時間がかかることもいろいろな事例を挙げることができるでしょう。近年の養殖生産を取り巻く環境を見ると、養殖生産の3要素が危機的状況に陥る可能性を排除できないと思います。最も早く養殖が始まったブリやマダイの養殖は内湾域で広く行われるようになりましたが、1970年代に大都市周辺の生活排水や工場排水の影響もありますが、自家汚染による成長率の低下や疾病の流行、赤潮の発生や酸素不足などによる大量斃死の発生など養殖生産は大きな被害を受けてきました。自家汚染は自然のもつ浄化能力を超えるような養殖対象動物の排泄物や餌の残滓が海底に堆積して水質や底質を悪化させることで起こるもので、養殖生産に厳しい目が向けられることとなりました。この当時は、主として生餌のミンチや切り身が餌として与えられていましたが、エネルギー転換効率から試算すると給与した餌の90%が海域へ流出し、海域や底質の有機物汚染の原因となっていたことが指摘されました。その後、モイストペレットや固形配合飼料の普及、飼育密度の制限などで自家汚染は抑制されるようになりました。
養殖用種苗として、ブリ類は現在も天然の稚魚を使用していますが、マダイ、ヒラメ、トラフグなど人工種苗生産技術の進展により、養殖種苗として人工種苗を使用する魚種も増えてきています。ブリ類は現在のところ資源量としては高水準にあり、天然種苗を使用することができますが、これも未来永劫、現在のままで使用できるかについては何とも言えません。
養殖生産を支えてきたのは、マイワシのような安価な多獲性魚類であったことは言うまでもありません。しかし、近年、マイワシなどの多獲性魚類の漁獲量は減少の一途をたどっており、また、配合飼料の主要タンパク源である魚粉の原料もこのような多獲性魚類であることを考えると、「餌」の問題も安泰とは言えません。
このように、養殖生産に不可欠な3要素、いずれもが脆弱な状況にあり、養殖生産を持続的に行うためには、3要素を回復が困難になる前に持続可能な方法に置き換える必要があります。エコラベル認証はこれらの対処への取組を客観的に評価し、適切な取組を第三者が認めるものという理解をしていただければと思います。

舞田先生有り難うございました。年々、養殖技術が進化し複雑な産業に変る中、改めて養殖に不可欠な3要素の指摘をいただきとても新鮮に感じました。世界の流れにハーモナイズするため、MELの養殖認証規格改訂でモイストペレットの使用の制限を取り入れましたが、事業者の中には対応が難しい方が出ており、舞田先生のご指導をいただきながら日本の養殖業を成長させるためにMELがお役に立てることを願っています。

5.MEL協議会理事会を開催しました

11月25日MEL協議会理事会を開催しました。理事会は、6月24日通常総会後の開催以来になり、上期の業務報告が主要議題の定例理事会の位置づけでしたが、MEL協議会にとり予期しない事象が発生し、そのことへの対応のための議案を審議いただくことになりました。
一つ目は、長岡英典専務理事急逝により、現在MEL協議会は業務執行理事が欠員となっており、その補充のための臨時総会・理事会(書面)開催を承認いただく件です。なお、故長岡専務は大日本水産会常務理事として規格委員会の委員長に就任していましたので、その後任の選任を行いました。
二つ目は、MEL認証において予期せぬ不祥事が発生し、一連の対応のため認証機関への要求事項を改定する件です。1件目は漁業認証における漁業法違反の案件であり、2件目はCoC認証における食品表示法に対する不適正表示の案件です。
MEL認証の信用に関する重大なリスクがあると判断され、かつ公的機関による信頼性が高い情報がある案件については、認証機関が認証要求事項への不適合を立証することのみで認証の一時停止を行うことが出来る様要求事項を改訂するものです。MEL認証は、発足以来9年間の関係者の努力により確立された「共有の財産」であり、その信用を守るための認証機関への要求事項の改訂です。この改訂は、FAOのガイドライン、GSSIのベンチマークツール、ISOの規定の範囲内の内容であり、様々なご指摘はありましたが理事会の承認をいただきました。詳細は成文の上MEL協議会ホームページに掲載しますので、引続きMELへのご理解とご支援をお願い申し上げます。なお、不祥事を起こした両案件の処置については、今回の認証機関への要求事項改訂を踏まえ、既に認証機関が準備している臨時審査の審査報告書を審議の上決定されます。

6.都道府県農林水産関係職員向け講習会でMELの説明を実施しました

日本水産資源保護協会の要請で、11月4日に開催された農林水産省担当者連絡協議会(のりす会)において加藤事務局長がMELの説明を行いました。出席者は農業関係者が多く、水産関係者は3名だったこともありますが、「初めてMELを知った」という声が多く聞かれMELの水産業界以外への浸透について課題を認識しました。

スポーツの秋、野球史の記憶にも、記録にも残る壮絶なワールドシリーズが、ロスアンゼルス・ドジャースの劇的な勝利で幕を閉じました。
MLBは、そこにプレーする多国籍の選手が輝く場でもあります。中でも、日本選手の活躍はいささか神がかっていました。長年黒人を排除してきたMLBで初の黒人プレーヤー(異論あり)となったジャッキー・ロビンソンの言葉「不可能の反対は可能ではない。挑戦だ」を思い出し、勇気を貰ったシリーズでした。
様々な要因で苦しむ水産業界も、MLBの選手達に負けず挑戦を続けたいと改めて感じました。
一年の締め大切な師走を控え、皆様のご健勝とご活躍をお祈りします。

以上