MELニュース2025年8月 第89号

猛暑が続く中、1-6月の経済指標が次々発表されています。
「食」に関する数字では、農林水産品の輸出額が関税対策の駆け込みがあるかと思われますが8097億円前年比+15.5%、インバウンド需要を支える訪日外国旅行者数は2152万人前年比+7.6%と好調です。水産物ではホタテ貝350億円+45.4%、ブリ257億円+24.6%、真珠222億円+2.4%、イワシ108億円+36%の上位品目が牽引しました。豊漁とは言えない中での輸出の伸びであり、国策に沿っているものの消費者にとっては悩ましい限です。

1. 国際標準化関連

4月にアメリカで旗揚げをしたCSI(Certified Seafood International)が日本におけるセミナーを10月20日に開催を決定し準備に入っています。会場の制約もありクローズドとなる模様ですが、既に参加者募集が行われています。偶々、同じタイミングで、ASMIの恒例のアラスカシーフード・レセプション、IFFO(魚粉・魚油生産者の国際組織) の総会、GFF(Groundfish Forum)の総会が東京で開催され世界中の業界人が東京に集まります。これだけの水産に関する国際会議が東京で集中開催されるのは初めてで、多くの発信が期待されます。MEL協議会も個別会議の要請があり、対応を予定しています。
遅れておりますGSSIの承認継続審査は、双方の主張の開きが大分詰まって来ましたが、もう一歩議論の詰めが必要です。お互いに冷静に進めて参ります。

2. 認証発効関連

今月の認証発効はCoC1件でした。

3. 認証取得者からのご報告

今月はグループを形成し、日本かつお・まぐろ漁業協同組合員としてMEL漁業認証の下操業する日光丸船団様と加工・流通を担うCoC認証を取得されている太信水産様の拘りを代表取締役守屋 和久様にお話しいただきました。

「日光丸一本釣りカツオ」の拘り

太信水産株式会社
代表取締役社長 守屋 和久

当社はMELの理念に共感し、発足当初から認証取得に取り組んでまいりました。現在、MELの流通・加工(CoC)認証を取得している「カツオタタキ」、       「刺身用カツオ」は、日本生活協同組合連合会様(コープ)の宅配商品としての取り扱いも少しずつ増えており、多くのご家庭にご利用いただいております。
環境への配慮や資源保全の大切さが認識される一方で、「環境に良いから買う」だけでは消費が長く続かないと私たちは考えています。まず「おいしそうだから食べたい」「食べたらおいしかった」と感じていただくことが出発点であり、そこから「このおいしさの背景には何があるのか」と関心を持っていただける商品づくりを進めています。その様な積み重ねが、結果的に環境にやさしい選 択につながっていくと信じています。
当社の商品はすべて、御前崎の歴史あるカツオ一本釣り漁船団「日光丸」が釣ったカツオを使用しています。資源に配慮した漁法と当社の加工技術の融合により、鮮度と品質に優れた製品をお届けしています。

MEL認証によりその背景が可視化され、より安心して手に取っていただけるようになりました。
カツオの新しい食べ方として新開発した「シーステーキ」もMEL認証の登録が2025年5月に完了しており、今後の展開に向けた準備を進めています。流通は限定的ながら、水産庁長官賞の受賞や試食会での高評価、お子様からの人気、トップアスリートの食事採用など、多方面からご注目をいただいております。これからも当社は、おいしさと品質にこだわりながら、持続可能な漁業とともに歩むものづくりを進め、環境への配慮が自然なかたちで消費につながる社会の実現に貢献してまいります。

守屋社長有り難うございました。先週開催されましたジャパンインターナショナルシーフードショーに展示いただいた「シーステーキ」はMELブース来訪者の興味をかき立てておりました。問い合わせがあると思われますので,対応をよろしくお願いします。

4. 関係者のコラム

今月から3回シリーズで沿岸漁業、養殖にフォーカスした活性化のヒントを、「日本の漁業と海を守る」ことを使命として活動しておられる(株)水土舎の創業者であり、現在も相談役として乾政秀様に執筆をお願いしました。乾様は、本年3月に青娥書房から「島の暮らしを支える漁業と生業」という克明な現地調査に基づく離島経済に関する大著を上梓しておられます。初めて見聞きすることが一杯詰まっている名著です。一読をお勧めします。

「ホタテガイに学ぶ二枚貝類の増養殖」

㈱水土舎 相談役
乾 政秀

私たち日本人は、太古の昔から日本沿岸に生息する貝類を食べてきた。貝類は容易に採捕でき、しかも美味く栄養価も高かったからだろう。その証拠は日本各地に残る貝塚に見ることができる。
一般的に食用にしている貝類は二枚貝類(二枚貝綱)と巻貝類(腹足綱の大部分)に分かれる。二枚貝類は海水中のプランクトン類やデトライタスをろ過摂餌する。一方、巻貝類は海藻類を食べるアワビやサザエなどの藻食性種とバイやツブなどの腐肉食性種に大別できる。
このうち私たちがふだん食べてきた貝類は二枚貝類が量、種類ともに圧倒的に多い。アサリ、ハマグリ、カキ、ホタテガイはスーパーでよく目にする二枚貝であるが、鮨種としては、アカガイ、バカガイ、ミルガイ、タイラギ、ウバガイ(ホッキガイ)、トリガイなど枚挙にいとまがない。
表1はわが国の貝類生産量の長期的推移を示したものである。漁業の対象となっている貝類のうち2000年までは8種の統計が示されていたが、その後生産量が少なくなったため、ハマグリ類、ホッキガイ、サルボウは1つにまとめられて「その他の貝類」に括られた。
漁業による貝類の生産量は、1960年の約30万トンから1990年に約42万トンに増えその減少に転じたが、2023年時点で約36万トンであり、総量としてはそれほど大きな変化が見られない。ただ、貝類の種類別に見ると大きな変化が起こっている。図1はホタテ貝と「ホタテガイ以外の貝類」にわけて生産量の変化を示したものである。

表1  わが国の貝類の生産量の推移 単位:トン 「漁業・養殖業生産統計年報」(農水省)より作成

ホタテガイを除く貝類の生産量は1970年の約30万トンから年々減少の一途を辿り、2023年には約3万トンと1/10に減っている。一方のホタテガイは1990年以降大きく増加し、2023年には約33万トンに増えた。つまり現時点で貝類の総漁獲量の約9割がホタテガイで、残りの約1割がホタテガイを除く貝類という歪な供給構造になっている。一方、養殖生産されている貝類は、歴史の古いカキとやはり1980年代から盛んに養殖されるようになったホタテガイである。その他の貝類はヒオウギガイやサルボウ、最近養殖が始まったトリガイなどであるが、量的には少ない。直近の2023年時点の国産貝類の総供給量(漁業と養殖業)66.5万トンのうちホタテガイが48.2万トンであり全供給量の72.5%を占め、貝類の供給は多様性を失っている。
ホタテガイは代表的な水産物輸出品であり、往時の日本水産界を想起させるが、スーパーで売られているアワビは韓国産の養殖もの、アサリはそのほとんどが中国産で、かつて「水産大国」といわれた日本の没落は甚だしい。

図1 ホタテガイと「ホタテガイ以外の貝類」の漁業生産量の推移  表1より作成

ホタテガイに代表される二枚貝類は主として植物プランクトンを摂餌して動物タンパクを作り出す。陸域でいえば、草を食べて動物タンパクを作り出す牛や羊のような存在だ。魚を餌に魚をつくる魚類養殖(給餌養殖)は餌料代が経費の多くを占めるが、無給餌型の二枚貝は海域の基礎生産力をうまく利用すれば低コストで生産できる優れものだ。
ホタテガイがこのように生産が増大したのは、自然発生した浮遊幼生をトラップして、育て、人為的に区画化された漁場に放養し、輪採制などで計画的に漁獲、そして外敵の駆除など人為的管理のもとで育てるか、自然の摂理と反するが(ホタテガイはもともと海底に生息する)海水中に吊るす方法で、人の管理下で育てているからである。つまり完全な自然まかせではなく、人が自然に適切に関与した成果なのだ。ホタテガイは統計上、漁業と養殖に分かれているが、前者は地蒔きしたホタテガイを底曳網で獲るのに対し、養殖は篭や耳吊りによって水中に吊るして育てる違いであって、人が関与する点では共通する。
大部分の二枚貝類は砂泥底(生物の種類によって最適な粒度組成は異なる)に生息している。したがってホタテガイを除く二枚貝類の生産が激減した原因は、埋め立て、浚渫、海砂の採取、河川工作物設置による砂の流入阻害、水質汚染による貧酸素水塊の発生、外敵生物の増加などであるから、二枚貝類の生産復活の基本はこれらの要因を取り除く沿岸環境の改善が基本であることは言うまでもない。しかし長期にわたって壊してきた沿岸環境を修復するには時間とお金がかかる。長期的な政策のもとで修復を図ると同時に、現実的にはホタテガイの成功事例をそれぞれの貝類で実践していくことだろう。
二枚貝類の資源特性は受精した幼生が一定期間、浮遊生活を送り、潮流や海流によって分散し、場合によっては「無効資源化」してしまうことである。したがって人の関与の第1は発生した浮遊幼生を的確にトラップすることだ。ホタテガイ以外でも種ガキの代表的な産地である宮城県では、試験研究機関の情報をもとに浮遊幼生をトラップすることが長年にわたって行われてきた。加えて浮遊幼生の発生を量的に確保するためには養殖による高密度の母貝集団を造成することが重要である。コストのことを考えれば自然産卵が有利であるが、場合によっては施設による人工種苗も可能だろう(イワガキ養殖では、海士町などは町営の種苗生産施設を作っている)。
第2は管理できる排他的に独占できる海面を区画漁業権あるいは特定区画漁業権を設定することによって確保すること、あるいは旧塩田跡地のような海水導入が可能な私有地を活用することだ(昭和34年時点の塩田の面積は4200ha)。藤永元作によってクルマエビの養殖技術が開発された時期と塩田が廃止される時期が重なった昭和30~40年代には廃止塩田をクルマエビ養殖場として活用した事例が多かった。しかしクルマエビ養殖には水温の高い鹿児島県や沖縄県が有利であったことから産地が移動し、放置されたままになっている旧クルマエビ養殖池も多い。あるいは築堤式のクルマエビ養殖場の中にはウイルス性の疾病の感染によって放棄された施設も多い。これらの有休池の活用の想定できよう。
第3は餌の確保である。二枚貝類の餌は植物プランクトンであり、餌の量が多いほど成長が早い。餌が多い状態、つまり基礎生産力を高めるためには栄養塩類(珪藻プランクトンの肥料の3要素はN、P、Si)が不可欠である。近年、「きれいな海」(透明度の高い海)、換言すればプランクトンの少ない海をめざした環境行政が行われ、下水処理場で高度処理(N、Pの回収)が進められた。この結果、沿岸域の栄養塩レベルが低下し、基礎生産力が低下するとともにノリ養殖が困難な状況も生まれている。そして回収された栄養塩類は行き場を失い、いわば有益な資源が放置されているのだ。二枚貝類生産の復活には沿岸域の栄養レベルを高め、「豊かな海」の再生が求められている。
ホタテガイの産地は主として北海道である。ホタテガイは種苗を採捕、中間育成する地域と地蒔きや垂下養殖で育てる地域などの分業化が進んでおり、広域的な連携が機能している。その仕組みを支えているのが道漁連である。二枚貝類生産の再生のためにはこうした地域連携や漁場の管理、販売促進などの機能を担う組織が不可欠である。
ホタテガイは小型底曳網で漁獲されているが、2012年以降の統計では実態は沿岸漁業であるにもかかわらず不思議なことに小型底曳網は沖合漁業に含めている。2023年の沖合漁業の生産量は180.1万トンだったので、同年のホタテガイ生産量の33.1万トンは18.4%に相当する。一方、同年の海面養殖生産量は85.2万トンで、このうちホタテガイが15.1万トンなので17.7%に相当する。1960年のホタテガイの生産量が1.4万トンであったことを思い起こせば、人の力でこのように生産を飛躍的に向上させることが可能なことを立証している。
多くの国民が知らない間にホタテガイを除く二枚貝類の生産が激減し、日本の食文化が失われ、漁村が疲弊している。今こそホタテガイの増養殖に学び、二枚貝類の復活を実現しなければならないし、ホタテガイの成功は実現可能なことを示しているのではないだろうか。
ただ自然環境に依拠する漁業・養殖業は近年の気候変動を受けて、青森県ではホタテガイ稚貝の大量斃死が、北海道でも同様の事態が発生しており、人の手で完全に克服することは難しい。
ところでMEL認証を受けた二枚貝類の漁業はシジミとウバガイのそれぞれ1件だけと少ない。養殖業でもカキ5件、ホタテガイ1件にとどまっている。定着性の高い二枚貝類は現在ホタテガイで進行している事態もあるが、基本的には資源造成や管理が比較的容易であり、ホタテガイの増養殖はそのことを実証してきた。多くの地域でMEL認証により多様な二枚貝類の増産に取り組んで欲しいものである。

乾様有り難うございました。乾様のライフワークの一端を開示いただき、様々な示唆をいただきました。前に乾様に見せていただきました製鉄所建設および給水確保の犠牲となった、かつてアサリの宝庫であった広島県芦田川河口の惨憺たる写真を思い出しました。続く第2弾、第3弾を期待しております。

5. ジャパン・インターナショナル・シーフードショーが開催されました

第27回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーが8月20-22日東京ビッグサイトで「コミュニケーションとイノベーションで創造する『ぎょしょく』の未来」をテーマに開催されました。主催者であります大日本水産会の枝元 真徹会長の思い入れもあり、一段充実したショーとなりました。猛暑日が続く中、3日間の来場者は28000人となりました。

MEL協議会は、サステナブル・シーフードコーナーの核テナントとして出展し、多くの来場者との交流で盛り上がりました。また、新しい試みとして出展者各ブースから出る水産残渣を三機飼料工業様が分別回収し飼料化、廃食油(使用済みの調理油)は、SAF化する取り組みが実践されました。

6. MEL認証証書授与式が開催されされました

ジャパン・インターナショナル・シーフードショー開催に合わせ、MEL認証証書授与式が行われました。今回の認証証書授与式に来賓として初めて水産庁から認証推進班長吉川 千景様にご出席いただき挨拶を賜りました。主催者の日本水産資源保護協会高橋 正征会長から「なぜMELが必要か、その本質が問われる場である」とのご挨拶があり緊張した雰囲気スタートしました。
出席頂きました12事業者に対し認証証書が授与されました。皆様のコメントから「MEL認証が実務につながっている」ことを実感すると共に、ご一緒に更なる充実した活動を目指すことの意義を改めて認識しました。

7. 境港市で皆様に「MELシティ境港」への取り組みを提案しました

8月7日に、境港の皆様とかねてより準備を進めておりました、MEL認証を活用した地域おこしについてセミナーを開催しました。編集子は境港商工会議所から「境港FISH大使」を拝命しており、「さかなと鬼太郎のまち」を標榜する境港市の水産物をより輝かせるために全市を上げてサステナブルシーフード活用を推進する「MELシティ境港」のコンセプトを提案しました。
折から、境港出身の水木しげる様(故人)が漫画界のアカデミー賞と言われるアイズナー賞を受賞され、漫画の殿堂入りを果されたタイミングであり盛り上がりが期待されます。日本で初めての地域ぐるみのMEL認証取得と活用であり、易しくはないが挑戦して見ようのきっかけ作りを意識しました。
地元のメディアにも大きく取り上げていただき、境港水産振興協会、境港商工会議所が中心になって取り組むこととなりました。

猛暑と干ばつ、線状降水帯豪雨が日本の夏の新定番なったかの印象受けています。海水温が1℃上昇すると蒸発する水蒸気は7%増えるという俗説がありますが(不学にして科学的根拠や出典は持ち合わせていませんが・・・)、仮にその増えた水蒸気が豪雨として降る自然のサイクルは何となく納得しやすい気がします。高い頻度で発生する線状降水帯による豪雨は予報精度が上がっているとは言え、被害が避けられるわけではないので被災地の皆様にとりいい加減勘弁して欲しいというのが本音でしょう。お見舞いをい申し上げます。
世界平均から見て海水温上昇が高い日本周辺にその影響が顕著に出ているとも受け止められます。原因について諸説あっても、人為的に何ともし難い海水温上昇にどの様に向合うかの産・官・学の知恵と行動が求められます。
8月23日から二十四節気の「処暑」ですが、長期予報によれば9月まで高温が続くとのこと。皆様のご自愛をお祈り申し上げます。

以上