MELニュース2025年7月 第88号

早い梅雨明けの西日本、ぐずられた東日本もようやく夏空とともに猛暑がやってきました。全国的には降雨量は少なめと報告されているにもかかわらず、線状降水帯による豪雨の被害は各地で頻発しました。
日本中不漁のスルメイカやマサバの局所的豊漁のニュースはすんなりと腑に落ちるとは行きません。サンマの流し網漁が3年ぶりに復活し、走りの大型サンマに道東が沸いたとの話も一過性の話題だった様子。海の気まぐれは、人智を越えているとしか受け止め様がないのでしょうか。
自然の本質が多様性なら、養殖や農業はその制限から始まることになります。自然の摂理に逆らって限られた種類のみを育てることを「人工的自然」と呼んで、気候変動から「人工的自然」を守る知恵や技術に関する発表や論文が昨今勢いを得ている様な気がします。1万年余り前、人類が始めた農耕生活により本当に人々の生活が豊かになったかの議論を思い出しました。

1.         国際標準化関連

4月に行動開始を宣言したCSIは、着実に行動を拡げている様です。理事会の開催、理事のメンバー強化等々の情報が入って来ています。日本では10月20日に開催されるサーティファイド シーフード フォーラム:「責任ある水産物認証における選択肢の拡大」(CSI主催でASMIとGSAが協力スポンサー)に焦点を合わせ、様々イベントが準備されています。
GSSIのMOCA(承認継続審査)はその後も事務局間でやり取りを繰返しています。なかなか原則論から一歩踏み出せない状況が続いており、辛抱辛抱と言い聞かせると同時に考え方が共通する仲間(海外のスキームオーナー)に共同歩調を働きかける努力をしています。

2.  認証発効関連

今月の認証発効は、養殖1件でした。静岡県下の4か所の養殖場でニジマスを生産する富士山サーモン(旧柿島養鱒)様が認証されました。

3.        認証取得事業者からのご報告

本年2月にMEL CoC認証を取得され、7月からMELロゴ付き商品の店頭展開を開始されたイズミ様で、MEL認証取得を推進された鮮魚部長の友國義道様にお話を伺いました。

「持続可能な水産物の提供、MEL認証を通じてお客様の認知とファンを増やす」

株式会社イズミ 食品本部鮮魚部 
鮮魚部長 友國 義道

当社は、「社員が誇りと喜びを感じ、地域とお客さまの生活に貢献し続ける」という経営理念のもと、西日本を中心に地域に密着した「ゆめタウン」「ゆめマート」というスーパーマーケットを展開しています。
また、2021年には持続可能な社会の実現に向けた2050年までの目指す姿を「youme MIRAI Action」として、数値目標を策定するとともに取り組み事項を決定しました。その目指す姿の一つに「自然共生社会」を掲げており、取り組みとして生物多様性を保全することを公表しています。今回はこの「youme MIRAI Action」に基づいた持続可能な調達の一環として認証取得を目指すに至りました。
認証取得に際しては、認証水産物とそうでない水産物が途中で混ざることがないようマニュアルの整備徹底や、社内体制の確立、店舗スタッフや店舗を巡回するスーパーバイザーなど製造・販売に関わる社員への周知などを時間をかけて行いました。
こうして2025年2月、小売業として6例目となる「CoC(流通加工段階)認証」を取得し、この度7月1日よりゆめタウン・ゆめマートの95店舗(販売開始時点)で「MEL認証商品」を販売することとなりました。第一弾として、「静岡県産一本釣り藁焼きかつお」を使用したたたきや、「養殖すだちぶり」、「養殖天の鰤」を使用した切身や刺身、寿司などを販売。西日本は近い産地のものがお客さまに好まれるため、九州地区の店舗では九州産のぶり、本州地区の店舗では本州産のぶりを仕入れています。今後は、養殖魚(たい、しまあじ)など魚種の拡大や、グループ会社での取り扱いも検討していきたいと考えています。
私たちスーパーマーケットは、生活者であるお客さまとの接点がある店舗を持ち、持続可能な商品を生産現場から仕入れ、消費者であるお客さまへお届けする役割を担っています。この度、当社がMEL認証のCoC(流通加工段階)認証を取得したことは、生産者の方々の販路確保に繋がり、お客さまに対しては責任ある漁獲、養殖で生産された水産物を手にすることができるよう、選択の機会がご提供できると考えています。
今後も売場では、MEL認証商品であることを販促物等で周知し、お客さまに選んでいただけるよう工夫をしながら、MEL認証の認知拡大と魚の資源保護、持続可能な水産業の実現に貢献してまいります。

友國部長有難うございました。社員の皆様への周知に力を入れておられることを誠に嬉しく受け止めました。思い起こせば、2019年2月に大阪シーフードショーのMELブースに立ち寄られた貴社の杉野祐也バイヤーから認証取得のご相談を受けたことが原点でした。友國部長の情熱で実現したイズミ様の認証取得により、MELロゴ付き商品が全国に拡がったことを感慨深く受け止めています。今後ともお役に立てる活動を進めますのでどうかよろしくお願い申上げます。

4.  関係者のコラム

沿岸漁業の皆様のMEL認証取得を促進するため5月に東京大学八木信行先生、6月に同じく東京大学の阪井裕太郎先生、そして今月はシリーズの締めとして東京海洋大学の田中栄次先生にお願いしました。

「MEL漁業認証の普及について」

東京海洋大学
名誉教授 田中 栄次

かつてヨーロッパでは大気汚染物質の影響と考えられる酸性雨のために、山岳部の森林が枯れ果てた事件や湖の生物が死滅する事態が発生した。このため環境問題は身に掛かる火の粉であり市民の問題意識も高く、企業も市民の意識に注意を払うようになっている。食品を扱う量販店では環境問題に配慮したエコラベル食品を扱うようになった。一方、日本ではそこまでのセンセーショナルな事態、例えば箱根山が枯れるような事態はないので一般の市民の問題意識は欧米に比べて低い。
日本では持続可能な開発などへ関心は一般の市民より漁業者のほうが高く、特にかつおまぐろなどの国際資源を利用する漁業関係者の関心は高い。MELによる25件の漁業認証のうち6件がかつおまぐろ関係で、エコラベルが重視される欧米への輸出に認証は重要であり、企業の社会的価値をアップさせる。シラスは近年スーパーで認証商品として扱われるようになってきたがこれも6件であり、いずれも認証を受ける動機がある。残りの13件のうち9件が旋網や小底などで、沿岸漁業には優れた資源管理を行っている組織が多数存在するにもかかわらず貝類や刺網などの沿岸漁業は4件しかない。
日本では漁業認証の普及には環境問題に配慮している点以外の効果に関するPRも必要であろう。例えば資源管理を行うことによって漁獲物の品質向上も図られる点であり、漁業認証の普及の観点からこの点をもっと消費者等にPRした方がよいと考える。
大規模な資源管理の成功例として太平洋オヒョウ漁業が世界的に有名であるが、この資源管理でも漁獲物の品質の改善があったことが知られている。資源管理の初期段階にあたる1930年代から1960年代ではオリンピック方式によるTAC管理が行われ、この方式が逆に漁獲物の品質の著しい低下を招いていた。当時は漁業者間の先取り競争が激化し、漁船は大型化し航海日数は増加、入港時には漁獲物を港に放り投げ、直ちに燃料や食料を積んで出港する有様となっていた。この初期の管理方式は生物学的には成功であったが経済的には大失敗であった。
その後、この失敗の反省から個別割当て(IQ)制度が導入された。漁業者別にTACを分配すれば漁業者間の無益な先取り競争はなくなるという訳である。IQ制度導入後は価格の暴落を避けるなどのために水揚げ間隔や1回の水揚げ数量の上限設定などが導入され、供給も安定し漁獲物の取扱いも丁寧になり品質も大幅に向上した。このように漁獲物の品質の向上は資源管理の副産物の1つであり、消費者や流通産業にとっても有益である。
実際にMEL漁業認証を受けた商品は養殖認証と同様に品質の高い商品である。たとえば、青森県の十三漁業協同組合のしじみけた網漁業では、中型サイズのほかに殻長24㎜以上の大型のヤマトシジミを出荷している。小さいサイズから乱獲すれば大きく成長するまで生存する個体の数は激減し、豆粒のようなシジミばかりになってしまう。しかし同漁協では漁獲量を1人1日140㎏に制限、漁獲対象となる殻長を18.5ミリ(殻幅12ミリ)以上と制限するなどの資源管理を行っているので商品価値の高い特大銘柄(殻長30~35ミリ以上)になるまで生残る。漁獲物はサイズ別に選別された後に、さらに死んでいる貝などを丁寧に除いて出荷されており、品質の高い商品となっている。
認証の取得前から経済効果を検討しておくことも大事である。利礼漁業エコラベル推進協議会のホッケ刺網漁業ではホッケ道北系群を漁獲しているが、資源管理の努力が実り資源全体が回復傾向である。また2歳以上(体長25㎝程度以上)の個体は飼料や加工原料ではなく、価値の高い生鮮として流通するが、最近5ヶ年間(2019-2023)とその10年前(2009-2013)の全漁獲物を比較すると、全体に占める割合が重量ベースで37%から62%に増加した。一定量以上の大型魚が毎年確保できれば養殖魚のように安定供給が可能になり取引に有利である。実際にこれを干物加工して安心・安全で高品質な食品として販路を全国に拡大する取組みが実践されている。漁獲物がMEL認証を受けても沿岸の漁業者は総じて売込みが苦手であり、認証の普及と継続には業者への仲介が重要であろう。
資源管理による品質向上は漁獲物サイズだけでなく漁獲物の鮮度の向上もあるはずである。大量漁獲が改められ魚体の損傷が減って鮮度の低下が遅れれば、加工向けであった漁獲物の全部ないし一部が生鮮の魚介類として消費者の手にわたる可能性がでてくる。残念ながらK値などでもって鮮度の改善を客観的に示せる証拠はなく、関係機関による調査をお願いしたいところである。
今後は環境にやさしいことだけでなく付随する効果も視野に入れた展開・支援がMEL漁業認証の普及と継続に必要と思う。

田中先生有難うございました。先生には旧MELの時代から様々なご指導をいただいて来ましたが、新MELがGSSIに承認された国際的なスキームとなり活動の質が求められる中、関係者力を合わせ頑張りますので引き続きよろしくお願いします。

5.  MEL審査員研修を開催しました

7月17-18日、本年度第1回MEL審査員研修(CPD)を実施しました。
審査資格を持っておられる8名とオブザーバーとして認定機関JABから2名に参加いただきました。
漁業、養殖とも新しい認証規格が発効しており、CoCも間もなく規格委員会で審議いただく段階となっており、審査員の皆様にとり良いタイミングであったと思います。講師をお務めいただきました先生方も新規格を意識された内容で、受講された皆様も理解が進んだと受け止めています。

6. イベント関連

(株)シーフードレガシー様が創立10周年記念パーティーを開催されました。花岡社長はじめ、サステナブル・シーフードのムーブメントつくりに関わられた皆様が集合され大盛会でした。「一燈から万燈へ」の道を実践された皆様に敬意を表しますとともに、更なるご活躍をお祈りします。
7月21日に開催された総合海洋政策本部、国土交通省、日本財団主催の「海の日プロジェクト2025」に出展しました。海洋国家日本を代表するイベントで、夏休みに入り家族連れが多く、MEL紹介する良い機会でした。

7月30日と8月8日に「MEL夏休み親子教室」を開催します。事務局手つくりの小さなイベントですが、参加されるお母様にはMELの学習をしていただくとともに、お子様の目の輝きを見る限り実行する価値と輪が徐々に拡がる手応えを感じています。
▶MEL親子教室
8月9月のイベントに於いて、MEL認証水産物、ポスター、チラシを7月31日まで募集しております。
▶認証水産物展示のお申し込み

訪日外国人旅行者が1-6月で2150万人となったことが政府観光局より発表されました。インバウンド消費もブランド品から最寄り品や「コト」に変っているとレポートされています。SNSを通した情報の拡がりと深掘りが、より定着した消費を誘導していることを感じます。一方で6月の対米輸出は11%減少の実績が発表され、関税の影響がじわりと効いてきている様です。
7月1日付で水産庁幹部の人事が行われました。藤田 仁司長官はじめ新体制の皆様のご活躍をお祈りします。MELの担当部署も漁政部長が高橋 広道様に、加工流通課長が久納 寛子様に交代されました。世界の水産エコラベルに変化の兆しある中、引続きご指導とご支援をお願い申上げます。

以上