元旦の能登半島地震で始まった多難の令和6年辰年も、余すところ僅かとなりました。その後9月の豪雨による追い打ちもあり、未だ不自由な生活を強いられている能登地方の皆様に心からお見舞いを申し上げます。
水産業界にとり、どう総括したら良いか実に悩ましい年でした。各地からの記録的不漁や斃死の報道の中、12月3日にWCPFC年次会合で太平洋クロマグロの漁獲枠増枠が合意されたことは、関係者の海洋資源の持続可能な利用への努力の成果であり喜ばしい限りです。次のステップとして、水産エコラベル認証の対象になる様取組んでいただくことを願っています。一方、官民を挙げて取組んでいる成長産業化は、確たる道筋が見えてきません。地球が様々な問題を抱える中、多方面で拡がっている海を守り資源を守る行動に期待を寄せるところです。
1.国際標準化関連
GSSI事務局から下記のレポートが届きました。
新CEOのエイビン・イェーレ氏は積極的な活動を開始し、9月にオランダで開かれたグローバル・シュリンプ・フォーラム、10月にポルトガルで開かれたIFFOの年次会合(水産飼料関係)、11月にスペインで開かれたグローバル・サステナブル・シーフード・ガリシア・フォーラムに出席し、GSSIと水産エコラベルの役割を説明しました。GSSIの運営委員会が11月にオランダのハーレムで2日間行われました。理事が集まり、新規のアイデアを出し、深い議論を行いました。今後に向けたより良いGSSIの発展を期待したいです。
相変わらずスタッフに移動が続いている様ですが、新CEOは漸く動き出しました。年明けの何れかの機会に訪日する様要請しています。
2.認証発効関連
今月の認証発効は養殖1件、CoC 2件の見込みです。2024年12月末現在の認証件数(有効件数)は漁業25件、養殖70件、CoC171件合計266件となりました。年間の認証発効は37件(漁業2、養殖10、CoC25)、認証終了は11件(養殖6、CoC5)でした。
今月のトピックスとして、(株)ライフコーポレーション様が小売業で久しぶりにCoC認証を取得されました。岩崎社長はじめ関係各部署の皆様の熱心な取り組みに敬意を表します。認証が、お客様のお店と商品への信頼が高まる一助となることを期待します。
また、大阪府鰮巾着網漁協様のサワラ瀬戸内海系群の認証が一時停止になりました。瀬戸内海系群のサワラの資源水準が、水産研究・教育機構が2023年9月29日に公開した水産資源評価でBリミットを下回った事への対応措置です。
その後公表された2024年9月の評価でもBリミットを回復出来ていません。サワラは近年生息域が北上しており、海水温上昇の影響が認証にまで及び始めたと受け止めざるを得ません。
3.認証取得者からの報告
今月は冬期の主要な事業として、カキの養殖に取組まれた福岡市漁協唐泊支所 運営委員会 岩城和久会長に経緯を披露いただきました。
「唐泊恵比須かき」のMEL認証取得とその活用について
福岡市漁業協同組合唐泊支所 運営委員会会長
岩城 和久
福岡市の博多湾湾口部西側にある福岡市漁業協同組合唐泊支所は、冬漁の主幹魚種であるカタクチイワシの漁獲量が低迷し、名物であったイリコ(煮干し)を安定生産できなくなったため、平成13年からカキ養殖を開始しました。
私たちが生食用カキの採取海域で生産している「唐泊恵比須かき」は、濃厚な味わいの身と大きく育った歯ごたえのある貝柱が特徴です。従来の筏垂下式養殖に加え、近年導入したバスケット式養殖では、年間を通して深いカップ状の美しい殻付カキを育成できることから、国内外の皆様から高い評価をいただいております。
以前から「唐泊恵比須かきの漁場改善計画」を策定し、カキが過密にならないよう養殖環境の維持に取り組んでいた中で、水産エコラベルを取得するとより付加価値が上がるのでは、と海外の取引先から助言を受けたことをきっかけに、輸出拡大やブランド化の推進のためには国際水準の水産エコラベル認証の取得が必要であると考え、福岡市等の支援を受けながら申請準備を進め、この度、MEL認証を取得することができました。
今回の「唐泊恵比須かき」のMEL認証取得について、取引先である国内外の一流レストランの方々から祝福の声をいただいており、認証取得水産物の注目の高さを実感しています。認証取得水産物は、海外のみならず国内でも注目されており、その需要は今後増していくと思われますので、直営のカキ小屋や、ECサイトでの販売に加え、国内外の飲食店へ「唐泊恵比須かき」の販路を拡大していきたいと考えています。一方で、MEL認証制度が国内の消費者にあまり知られていない状況が見受けられますので、MEL協議会の皆様や先に認証を取得されている方々とともに、MELが国際水準の水産エコラベルであることを広く周知されるよう取り組んでいきたいと思います。
最後に、私たちの自慢の「唐泊恵比須かき」を、将来にわたって国内外の皆様に食べていただけるよう、引き続き環境に配慮した持続可能な養殖に取り組んでまいります。
岩城会長有り難うございました。皆様の努力が報われる様MEL協議会もご一緒に頑張ります。「唐泊恵比寿かき」の販路を世界に拡げましょう。
更なる発展をお祈りします。素晴らしいプレスリリースの資料をいただきましたので、是非次のURLからアクセスしてご覧下さい。
https://www.melj.jp/wp-content/uploads/2024/12/melnews202412_3.pdf
4.関係者のコラム
今月は食と環境、特に海の生態系の調査・研究を進めておられる(株)水土舎の創業者であり、現在も相談役としてご活躍の乾 政秀様に豊富な経験が詰まった引き出しの一部を披露いただきました。
「ゼロエミッション型複合養殖の勧め」
㈱水土舎 相談役 乾 政秀
給餌型の魚類養殖は生餌を与えていた時代に比べると環境への負荷はだいぶ軽減されたが、それでも残餌や糞尿が排出され、周辺海域に一定の有機物負荷を発生させている。負荷された有機物はやがて分解されてN(窒素)やP(リン)などの栄養塩類として水中に溶解する。負荷が大きければ貧酸素や赤潮の発生につながり、沿岸域の環境悪化を促すことになる。例えば投入された餌のNは3割が魚体となり、残りの7割が環境中に流出しているとの報告もある。しかしこの負荷もうまく生物生産に転換できれば、健全な環境の維持と生物生産を両立することができるのだ。
こうした物質循環型の養殖はかつて中国で見られた。四大家魚と呼ばれるアオウオ、ソウギョ、ハクレン、コクレンが一緒の池で生産されていた。池に負荷された栄養塩類は、池の中で光合成により植物プランクトンの増殖につかわれ、あるいは水草などを育む。植物プランクトンはハクレンに、水草などの草類はソウギョの餌となった。この基礎生産をもとに増殖した動物プランクトンはコクレンに食べられ、魚類の排泄物が池底のベントスを育て、これをアオウオが食べた。つまりひとつの空間で流入した負荷をもとに生 態系が成り立ち、人にとって有用な「食料」として池から系外に回収されていたのである。
植物を餌とする牛や鶏、豚などの畜産業と異なり、海水魚の養殖は「魚で魚を育てている」ことから、昆虫などの餌料化が注目されているが、日本では長野県の佐久地方で、かつて絹をとった後のカイコの蛹をコイの餌とする水田養殖が営まれていた。廃棄物である蛹の有効利用を図り、コイの排泄物が米を育てる肥料となり、物質循環が成立していた。しかし養蚕業の衰退とともに物質循環型コイ養殖は衰退する。ちなみに「佐久鯉」のブランドは今日まで続いているが、当時の養殖方法はなぜか語り継がれていない。
確かに閉鎖系の内水面は管理がしやすい面があり、こうした思想をもとにした養殖業が可能であったが、海で展開した事例は現在までのところほとんどない。しかし日本の魚類養殖海域は内湾などの準閉鎖的環境で営まれることが多く、地域の管理体制さえ確立されれば実現は可能である。
4~5年前に鹿児島県出水郡長島町に属する獅子島を訪ねたことがある。この島はMEL養殖認証第1号を取得した東町漁協に属している。島の周辺では、ブリとマダイの魚類養殖とヒトエグサの藻類養殖が営まれていた。ヒトエグサ養殖は70経営体が営み、三重県と並ぶ有数の産地だった。さらに近年イワガキ養殖に取り組む漁業者も増えているとのことだった。
この島では、魚類養殖に起源を有するN、Pの負荷はヒトエグサ肥料となり、光合成により増殖したプランクトン類はイワガキの餌になる。そして仮にイワガキ養殖施設の海底にナマコを放養すればイワガキの糞を餌としてナマコが育つ。投入した魚類養殖の餌はヒトエグサ、イワガキ、ナマコの生産につながり、同時に健全な海域環境の維持に貢献する。魚類養殖による環境負荷を低減し、物質循環に基づく複合養殖が将来の給餌養殖の理想ではないだろうか。つまり水質汚染という「外部不経済」を複合養殖という「外部経済」へと転換することなのだ。
ただ理想は簡単だが、これを実行するにはいくつかの課題がある。実現のための私見を述べておこう。
第1は栄養塩類の濃度や基礎生産をモニタリングすること、第2はモニタリング結果に基づき養殖の生産規模をコントロールすること、つまりどう管理するかだ。海域環境は気象、海象条件によって変動するため、モデル化が必要かもしれない。すべての養殖を一つの経営体が行うことになれば問題ないが、現実には多数の組合員が漁場を行使しているので、経営体の数や生産規模をモニタリングデータに基づいて調整することが第3の課題である。そして第4の課題はモニタリングや管理費用の財源の確保だ。
ただ現行の漁業法では、特定区画漁業権は漁協に優先的に免許されているので、漁場の行使料収入を財源に充て、組合員間の調整を図ればよく、漁協に実行の意思があれば、2~4の課題はクリアーできる。問題はモニタリングである。このためには地域の試験研究機関や大学などとの連携が不可欠であり、協力体制を構築することだ。「エコ」という言葉は、現在では幅広く使われるようになり、環境にいいものとか地球にやさしいとか、抽象的になっているが、本来は生態系やそれを研究する生態学を意味するエコロジーが語源である。「エコ」の本来の意味からは、物質循環の視点から環境への負荷を軽減し、健全な生態系を維持する新たな養殖の概念が今後求められていくであろう。MELの養殖認証は2019年2月が最初だから、丸6年が経とうとしている。新たな理想に向かって発展していかれることを願うものである。
乾様有難うございました。乾様がライフワークとしておられる生態系と資源を守るフィールドワークに基づく提案の一端を披露いただき、MEL協議会をお預かりする身として心が引き締りました。乾様の益々のご活躍と引き続きご指導を賜わります様お願い申し上げます。
5.理事会を開催しました
11月25日に理事会を開催しました。定例の業務執行状況報告の理事会でですが、規程の改正等につきご審議をいただき承認されました。
- 会員規程の改訂
会費の支払につき、事業年度の中途に入会し入会承認が下半期となる場合その事業年度の会費を年額の半額とすることを規程に明記した。 - MELロゴマーク使用・管理規程
認証事業者以外の飲食事業者がロゴマークを使用する場合、協議会はMEL認証の普及に資すると判断する場合に限り、ロゴマークの限定使用を許諾することを新たに規程に盛込んだ。 - GSSIは新たに広報規程に基づき認証事業者が認証水産物の外箱にGSSI承認のスキームであることの表示を認めたので、表示方法を含めMELロゴマーク使用・管理規程に盛込んだ。
- 会員の名称変更および合併による新名称が2件承認された。
・(株)ベニレイが丸紅シーフーズ(株)へ
・金子産業(株)と西南水産(株)が合併し新たに(株)ニッスイまぐろへ
報告事項として、漁業認証規格改定、CoC認証規格改定、配合飼料規格および魚粉・魚油認証規格作成、CSCとのCoC認証の相互承認の進捗状況が報告された。
6.課題の進捗状況
本年度の重点課題としている項目は一定の進捗をしています。
- アメリカCSCとのCoC認証の相互承認に関して日本適合性認定協会(JAB)と意見交換を行い、問題点の確認をした。
- 配合飼料規格および魚粉・魚油認証規格に関して、水産庁栽培養殖課に状況説明した。
- 配合飼料規格および魚粉・魚油認証規格について日本養魚飼料協会及びMEL規格委員との意見交換を行った。次はフィッシュミール協会を予定している。
- CoC規格改定の作業部会を開催し、加工場、卸売、リテールの3バージョンのうち加工場とリテールの規格はほぼ詰まった。
7.TSSS2024のアーカイブ動画が公開されました
10月に開催されましたTSSS2024の2日目のセッション2「日本の水産業はどこに向かうのか」(大日本水産会枝元会長、全漁連坂本会長、東京大学八木教授、臼福本店臼井社長、MEL協議会垣添およびモデレーターとして花岡社長が登壇)の動画が主催者の(株)シーフードレガシーから公開されています。下記のURLとQRコードからご覧ください(無料です)。
韓国の釜山で開かれていた「プラスチックごみの削減を目指す国際条約」の政府間交渉委員会は合意に達することが出来ず先送りとなりました。
水産業界にとっては深刻な問題として受止められ、様々な行動が実践されていますが、気候変動に比べ被害の実感が共有されにくく、かと言って一国だけでは解決出来ない難しさを痛感しています。
先日北陸新幹線の車内で「西Navi」12月号の「“きときと”の魚介を求め富山・新湊へ」の記事に、震災直後の1月にMEL認証が発効した新湊漁協様のシロエビ漁が「富山の漁師の工夫」として紹介されました。改めて皆様の工夫と努力の“きときと”に敬意を表します。
今年もMELニュースに1年間お付合いいただき有難うございました。また、お忙しい中寄稿いただきました皆様に心からお礼申し上げます。
どうぞ良い年をお迎えください。
以上