MELニュース2024年5月 第74号

喧噪の大型連休が終わりました。内外の観光客で盛り上がった消費は、どちらかと言えば重たいニュースが多い業界の元気につながることを期待します。
食料品の高騰が止まりません。国際価格の高止まりと円安の影響を受けている主要穀物に加え、特に産地が偏るコーヒーやココア等の作物は進行が止まらない気候変動に振り回されています。
水産物も漁が振るわない漁業だけでなく、拡大する養殖も飼料価格や輸送費の上昇が経営上の深刻な課題となりつつあります。日本の市場を見る限り、コストに見合う売価が形成され難いという構造的な問題が存在しており、産業の持続可能性に危険信号が灯っています。漁業・養殖と地域・産業の連携を通して、海の変化に対応するためのお役立ちをMELもご一緒に行動出来ることを願っています。

1.国際標準化関連

Seafood EXPO Global 2024 はバルセロナで開催され、MELから冠野事務局長、加藤事務局長代理が出張し、GSSIスキームオーナー会議、アラスカRFMのスキームオーナーであるCSCとの会議等に参加しました。
GSSIスキームオーナー会議では
➀新事務局長の選任の最終局面に入ったことが報告されました。
②MELから要求していたBtoBにおける「GSSI承認」の表示がようやく了承されました。MELとして使用上のガイドラインを作成、認証取得者への説明会を開催し積極的に活用したいと考えています。海外市場や国内外資系との取引に役に立つと思います。
③MOCA(承認継続審査)は25年年初からスタートすることが示されました。

CSCとのCoC認証相互承認に関する打ち合せは
➀双方の認定機関との摺り合わせが必要になると思われるので、 JABとの打ち合せを急ぎます。
②アメリカに置ける大手量販Walmart、COSTCO、Giant Eagleは、水産物調達方針を従来の特定されたスキームからGSSI承認スキームの認証取得に変更するとの情報がありました。日本で展開している外資系小売やホテルの仕入れへの影響があると見込まれます。

Seafood EXPOは世界87ヶ国から2244社が出展し過去最大規模となった(ロシアは不参加)。日本からはJETROブースに秀長水産、イヨスイ、クニヒロ、森松水産冷凍、南予ビージョイ、ヤマサかまぼこ、ウイズメタックフーズ、横浜冷凍が参加、他輸出促進団体である日本養殖魚類輸出推進協会、日本ほたて貝輸出振興協会がそれぞれのブースを、また日系企業ではマルハニチログループ、ニッスイグループ、極洋グループ、セルマック(三菱商事)が出展、積 極的に売り込む姿勢が印象的であったとの報告でした。

2.認証発効関連

今月の認証発効は漁業1件、養殖2件、CoC4件計7件となる見込みです。
漁業認証において愛媛県の福島産業様のシラス機船船引き網漁業が認証されました。思えば、2020年2月に親会社である朝日共販東京営業所で福島社長はじめ関係者に皆様にMELのプレゼンをさせていただいてから4年が経っています。間もなく漁業から加工・販売まで「シータス」ブランドの下MEL認証サプライチェーンが完結しますので、大いに活用されることを期待申し上げます。

3.認証取得者からのご報告

今月は養殖激戦区の愛媛県の辻水産様でMELを推進いただいている業務推進室 濱田一志様に養殖事業者の立場からのご報告をいただきました。

「過疎地での持続可能な水産業をめざして」

辻水産株式会社
業務推進室 主幹 濱田 一志

愛媛県の宇和海は地形・潮流が養殖業に適した海域のため数多くの養殖業者がしのぎを削っております。みなさん自分の作る魚が一番美味しいと自信を持っているのですが、反面生産者による違いがございます。いつでも美味しく安しく安定したお魚を届けるために各生産者さんの英知を結集する事と統一ルールでの養殖は必要不可欠と考えておりました。そんな折MELの国際化のお話が有り、輸出を行っている弊社としましては世界に通用する世界基準の養殖を行おうとの思いからMEL養殖認証とCoC認証を取得する事と致しました。

CoC認証をより活かすために2023年6月に新加工場を稼働させました。それにより製造能力が向上し生産管理と衛生環境を充実させました。
私達の中では取り入れたい世界基準と守りたい日本の文化、この融合は大きな問題でした。日本は島国として古来より魚と共に文明を築いてきた長い歴史が有ります。海で命を繋いできた者は海を犠牲にすることはありません。一部の自分さえ良ければと考える人を規制する仕組みは必要ですが、日本の魚文化を理解したMEL認証はどの国際認証より日本の生産者に相応しい国際認証と思います。

宇和島市は地方中核都市にも関わらず人口流出が止まらず、宇和島市を含む近隣地域は消滅可能性都市との評価を受けてしまいました。私達は過疎地で生業を営むものとして持続可能な水産業こそ望むもので、綺麗な海と産業を親から子へ、子から孫へとつなぎ、生産者一人ひとりが子供にあとを託し孫と一緒に海を見ながら暮らしていくためにMELは有効な手段と考えています。魅力ある養殖業となる事により後継者問題が解決される事と信じています。
愛媛県では養殖業の研究が盛んでIoT技術も目覚ましく向上しています。これらにMELの手法を取り入れる事により海洋環境・労働環境・法環境が整備され、水産業界が活性化され成長産業へと変革を遂げ、SDGsな未来へと繋がって行くと考えています。

濱田様有り難うございました。編集子は日頃から「インフラは協働して、競争は市場で公正に」と申し上げていますが、濱田様の寄稿は正に我が意を得たりであります。是非地域の皆様の切磋琢磨を通して更なる発展をされることをお祈りします。

4.関係者のコラム

今年はラニーニャによる暑い夏が予報されています。
少し視点を拡げ海洋物理学の碩学である東京海洋大学元学長 松山優治先生に海の変化についてお話しをお願いしました。

「海洋温暖化を考える」

東京海洋大学名誉教授
松山 優治

産業革命以降、人類は化石燃料を大量に消費し、大気中に二酸化炭素(温室効果ガス)を排出してきた。その結果、二酸化炭素濃度は産業革命前の280ppmから2022年には420ppmにまで増加した。産業革命以前から1万年前の二酸化炭素濃度を南極の氷床コアで調べると220~280ppmであり、近年の二酸化炭素濃度の急増は人間活動によると考えられる。温室効果ガスは、地球表面から宇宙空間に放出される赤外放射熱を空中に閉じ込めたり、地球表面に向かって反射させたりする。温室効果ガスの役割は赤外放射熱を宇宙に逃がさず大気を温めることである。大気中の温室効果ガスは適量であれば快適な地球環境を保つが、現在は少し増え過ぎて快適な環境を壊しつつある。これが温室効果ガスによる地球温暖化の仕組みである。
次に、海洋温暖化を考える。大気と海洋は海面を通して熱や二酸化炭素を交換しており、数値の高い方から低い方へと流れる。大気に放出された熱や二酸化炭素は海洋へ運ばれている。人間活動で放出された熱の約90%、二酸化炭素の約23%を海洋が吸収した結果、温暖化し、酸性化している。
海洋温暖化により海水温はどれほど高くなったか。世界平均海面水温は1891年~2022年の間で100年間あたり0.60℃上昇している。一方、日本近海の平均海面水温は100年あたり1.28℃上昇しており、世界平均の2倍を越えている。最も大きいのは日本海中部海域の1.96℃、次いで日本海南部海域の1.51℃、太平洋側では100年あたり1.0~1.3℃、閉鎖的な日本海の方が高い。海洋の中深層の水温は上昇しているか。観測資料の比較的多い1955年~2023年の間で、海面から2000m深までの平均水温は約0.16℃上昇し、最近の上昇は急激である。海面付近だけでなく中層や深層まで水温上昇が確認されている。
太平洋の小さな島嶼国では水位上昇で海岸浸食が進み、水没の危機に瀕している。水位上昇には海水の熱膨張が34%、グリーンランドや南極域等の氷床・氷河の減少が51%、陸域の貯水量の変化が15%、寄与している。平均海面水位は1902~2010年に10年あたり1.6cm上昇したが、近年の水位上昇は急で、2023年に世界気象機関(WMO)が2011~20年の平均海面水位は10年 あたり4.5cm上昇したと報告した。
地球も海洋も温暖化により深刻な状況にある。

(付記)温室効果ガスにはメタンガス、一酸化二窒素等があるが温室効果が最大の二酸化炭素を代表として取り上げた。また、森林伐採や陸地利用が二酸化炭素の増加に寄与しているが、本稿では寄与の大きい温室効果ガスにより説明した。IPCCおよび気象庁HPが公開しているデータを使用した。

松山先生有難うございました。最後の一言「地球も海洋も温暖化により深刻な状況にある」が胸にぐさりと刺さりました。事業者にとって自らの事業の明日を守るにはどうしら良いか改めて考えさせられています。

5.イベント関連

3つのイベントについてご報告をします。

  1. 5月14日に開催された(株)シーフードレガシーの東京サステナブルシーフード・サミットが10周年を迎えるに当たっての関係者の座談会に招かれました。
    参加者は、セイラーズフォーザシー井植美奈子氏、臼福本店臼井壯太郞氏、フィシャーマン・ジャパン長谷川琢也氏、日経ESG藤田香氏とMEL協議会垣添と多彩でした。シーフードレガシー花岡社長の進行で、この10年、サステナブルシーフードに関する動きを振り返り、今後のチャレンジを予定された時間を大幅に超えて熱く語り合いました。
  2. MELアンバサダー キックオフ ミーティングを開催しました。
    MELのSNSを使ったネットワーク作りに参加いただく第4期MELアンバサダー12名(アンバサダー9名、モニター3名)が決定し、5月21日キックオフ ミーティングを開催しました。お子様連れで参加された方もありとても和やかな雰囲気でした。
    アンバサダーは公募で決定していますが、口コミ効果もあり応募も多く、また皆様とても前向きです。今年もご一緒に日本発の水産エコラベルの輪を広げるパートナーとして協働をお願いします。
  3. 5月24日、東京港で共同船舶(株)が新造した捕鯨母船「関鯨丸」の披露が行なわれました。スリップウエー付き捕鯨母船出現から99年(1925年にノルウェーの「ランシング号」が南氷洋で操業)、戦後日本で建造された唯一の母船「日新丸」の就航から73年、誕生した新しい発想の捕鯨母船に目を見張りました。所社長はじめ関係の皆様の行動力に敬意を表します。

総務省が発表した昨年10月1日現在の日本の生産年齢人口(15-64才)は7395万人でこの15年で835万人減少しました。加えて2024年問題もあり人手不足は益々深刻さを増しています。
最近「Z世代」というキワードの露出が目立ちます。Z世代に正確な定義はありませんが、一般的には1990年代半ばから2010年代前半に生まれた世代即ち現在19才から29才の人達を指す言葉として使われています。アメリカに於いて、コロナ禍の4年間に起きた持続可能な水産物消費の急速な拡がりを牽引したのは、Z世代とその一世代前のミレニアル世代(Y世代)と分析されています。また秋のアメリカ大統領選挙の行方を左右するとの見方もあります。
世界でZ世代の属する人は20億人といわれ、インターネット時代に生まれ育ったこの世代がこれからの社会に与える影響は計り知れません。新興国や欧米に較べこの年代の割合が低い日本でも、今や労働市場における金の卵であるだけでなくマーケティングの焦点はこの世代にフォーカスされています。
MELがSNSを使った社会へのアプローチに力を入れる所以であります。
各地で真夏日が観測され始めております。皆様のご自愛をお祈りします。

以上