MELニュース2024年3月 第72号

能登半島地震から3月が経とうとしています。多くの方々の強いられている不便な生活に負けない、力強い事業の再興、インフラの復旧への取組みが進んでいることが連日伝えられています。そのような中、遅れがちな漁業関係、特に輪島港が海底の隆起により、全く動きとれない状態が続いているとの現実に胸が痛みます。MELに一体何が出来るかを自問する日々です。
MELニュースはお陰様で2018年4月創刊以来満6年になりました。2月27日に開催しましたアドバイザリーボードにおいて委員の皆様から、マリン・エコラベル・ジャパンなのかMELなのか詳しくない方にとっては別の組織のように見えるとの指摘がありました。この機会に、略称として使っていた「MEL」および「MEL協議会」を前面に出すことにしました。勿論、公式名称は「マリン・エコラベル・ジャパン」であり、組織名「一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会」であることは変りません。時間はかかりますが、ホームページ等「MEL」の名称が社会に浸透する様努力して参ります。どうか「MEL」をよろしくお願いします。

1.国際標準化関連

2月29日にGSA(Global Seafood Alliance)のDenise Gurshin氏( Senior Director of Market Development )の訪問がありました。GSAは養殖におけるBAPのスキームオーナーであり、世界40ヶ国でサケ・マス131万t、エビ79万t等 30魚種273万tを認証しています。日本でも、芝井 幸太氏が代表として活動しており、養殖1件、加工工場1件を認証しています。
MELがCoCの相互承認を進めているアメリカのCSCとも親交があり、その関係での来会でした。GSAとしてMELとも交流したいとの希望があり、今後関係が深まる流れです。
GSSIに関しては、ボストンでは特別な企画はなく、MELは参加しませんでした。4月のバルセロナにおけるスキームオーナー会議までは大きな動きはない見込みです。

2.認証発効関係

今月の認証発効はありませんでした。
今年度末の認証件数は漁業24件、養殖64件、CoC1 55件計243件となる見込みです。

3.認証事業者からのご報告

銀サケ水揚げの季節が始まりました。今月は宮城県漁協網地島支所の銀サケのMEL認証取得の経緯を、推進された 運営委員の阿部 敏和様にお話しいただきました。

「網地島のギンザケ養殖とMEL」

宮城県漁協網地島支所 営委員 阿部 敏和

網地島は、宮城県牡鹿半島先端部に位置する離島です。
島で初めての魚類養殖となるギンザケの養殖は1982年より始まり、現在、4経営体が営んでおります。
養殖は、牡鹿半島と網地島の間の水道部で行われており潮が速く、波浪の影響も受けやすいため、魚類養殖には厳しい場所ですが、その分、身が締まった品質の良いギンザケになっていると自負しているところです。
1996年からは、経営の安定を図るべく、(株)マルイチ産商との相対取引を開始し、同社の仲介によりイトーヨーカドーの「顔が見えるお魚。」シリーズへ出品、付加価値向上に取り組んでまいりました。
2019年頃イトーヨーカドーより「顔が見えるお魚。」シリーズのブランド力強化のためMEL認証取得のお話しを頂き、約2年間の準備期間を経て2021年5月、相対取引を行っていた2経営体がMEL養殖認証を取得することができました。この間、親切、丁寧にご指導賜りましたMEL関係者の方々には厚く御礼申し上げます。
現在では、養殖生産者から加工場、小売店までMEL認証取得を果たし、益々の販売力、ブランド力強化を目指しているところです。
魚類養殖は飼料の高騰が続き非常に厳しい局面にありますが、関係者と協力しMEL認証を武器に販売戦略を練り、この困難な状況を乗り越えていきたいと考えております。

阿部様有難うございました。サプライチェーンが一体となり、サステナビリティとトレーサビリティを実践いただいている素晴しい例です。今年は水温の関係で生育が遅れているとの報道ですが、消費者の皆様に支持いただける銀サケを作り続けて下さい。

4.関係者のコラム

今月はセイラーズフォーザシー日本支局 理事長として積極的な活動を続けておられる井植 美奈子様にお願いしました。井植様は、「ブルーシーフードガイド」等を通し持続可能な水産物を優先的に消費することで日本の漁業を支援しながら資源の回復促進に熱く関わっておられる傍ら、昨年3月に京都大学より地球環境学の博士号を授与され、現在NGO経営と並行して、東京大学大気海洋研究所で研究を続けておられます。

「12年前の原点」

セイラーズフォーザシー 日本支局
理事長 井植 美奈子

思えば2012年秋、ロックフェラー一族の当主で、古くからの友人であり私にとってアメリカの家族のような存在であるディビッド・ロックフェラーJr.
夫妻と3人で千葉県の成田山新勝寺を観光していた時のことです。成田山は魚河岸との繋がりが深く、境内のあちこちに魚のモチーフが祀られています。
参道には昔ながらのウナギ料理店が軒を連ねます。そんな中、セーリングの米国代表選手として海洋環境 NGOセイラーズフォーザシーを設立したディビッドが、「日本人はこんなに大切にお魚を祀っているし、日本のお魚は美味しいのに、水産資源が激減している。クロマグロはもうすぐ絶滅危惧種になってしまうよ。持続可能な消費が大事なんだけどな。と言って、おもむろにポケットのお財布から小さく折りたたんでボロボロになったシーフードウォッチのポケットガイドを取り出しました。私には初めて見るお魚のリストです。「アメリカではシーフードのサステナビリティを知らせるレーティングプログラムがあって、このように信号機の青・黄・赤の3色で色分けして青=サステナブルでオススメ、黄=代替え品、赤=今は食べないで。というメッセージを広めているんだよ。」と教えられました。
その場で、「こういうプログラムを日本でも作って、みんなでおいしく、楽しく、末長くシーフードを食べ続けられるようにメッセージを送ろう。」と盛り上がったのがすべての始まりでした。

日本で初めての水産物評価プログラム、ブルーシーフードガイドが誕生したのは翌年2013年の秋でした。それから改編を重ね、現在では全国版に加えて東京都や広島県など地方自治体と提携して作成する地域版も発行しています。また持続可能な水産物と美容と健康という異次元の組み合わせで「BBB=ブルーシーフード・ビューティ・ブック」をウェブ上で発信、より多くの読者層にサステナブルシーフードを発信しています。この取り組みは文化庁から「知の活用」として表彰いただきました。また、国連海洋科学の10年にも先進事例としてご紹介いただいています。ブルーシーフードガイドが2030年に向けたこれからの海洋科学がより学際的で越境的、実践的であるべきという国連の指針に沿ったプログラムとされました。

発行に際して、日本の事例をあちこち検索するうちにMELの存在を知ったことを鮮明に覚えています。その当時から比べるとMELは格段の進歩を遂げられ、国際的にもGSSIの承認を受けて世界に羽ばたいていらっしゃる事を大変嬉しく存じます。
さて、ブルーシーフードガイドでは、GSSIの国際評価基準を満たしたMSC、ASCとシーフードウォッチのグリーン(おすすめ)のうち、日本市場で入手可能な水産物もブルーシーフードとして紹介しています。当然弊社はMELもGSSIの承認をお受けになったからには、ブルーシーフードガイドへの掲載許可をお願いに上がるつもりでおりました。ところがどうしても同じ魚種に対して評価が噛み合わないことが起こってしまっていたのです。どうしたことかと掘り下げてみると、MELの評価プログラム自体は国際レベルでありながら、実際現場で評価する時の資源量に関する解釈の違いがありました。審査機関は第三者機関であり、MEL事務局ではありません。

しかし今般、新たに海洋生物環境研究所(海生研)がMELの養殖とCoCの認証機関として日本適合性認定機構(
JAB)の認定を受けたとの朗報が聞かれました。今後ますます充実した審査が進み、水産物の持続可能性評価への注目が集まることを願っております。
添付の表はブルーシーフードガイド、シーフードウォッチ、MSC、MELの評価項目を比較したものです。各プログラムには評価基準の特徴があり、それぞれが重きをおく評価項目も違い、それがプログラムの個性となっています。
ユーザーがそれぞれの用途によってプログラムを選択し、活用していただき、各プログラムのそれぞれの個性を持った活躍の相乗効果により社会全体で水産資源の持続可能性を高めて行けることを願っております。

The summary of scheme overlap at the element level between BSG, SW, MSC, and MEL

井植様有難うございました。井植様がデイビッド・ロックフェラーJrご夫妻と一緒に訪れられた成田山新勝寺で、 デイビッドさんが財布から取り出された古いシーフードウオッチのポケットガイドの出来事から2年後、2014年11 月にシーフードウオッチを主宰するアメリカのモントレー湾水族館の一行が訪日しセミナーを開催しました。出席者は主に若手の研究者や環境NGO関係者でありましたが、私も恐る恐る参加し、彼らの議論の仲間に加わり様々な 刺激を受けたことを鮮明に覚えています。奇しくも、井植様と原点シーフードウオッチが重なっている「狭い世界」を感じています。
添付いただいた比較表は、MELが本年実施を予定しています認証規格のレビューの参考にさせていただきたいと考えています。今後とも持続可能な水産物を推進する先輩としてご指導をよろしくお願いします。

5.MELアドバイザリーボードを開催しました

2月27日アドバイザリーボードを開催しました。6名の委員が全員出席いただき、所定の時間をオーバーして広範な議論が交わされました。また今回は初めてJAB様からオブザーバとして青栁 裕美様に出席頂きました。
議論の一部を報告します。

①水産エコラベル新時代に関して

  • アメリカ(FMIの調査によれば、コロナ以降持続可能な水産物購入の意向が急速に高まっている。Z世代と Millennial世代が牽引しているが、同様に日本でもMELの社会的受容性は高まっている。特に、大学でも優秀な学生ほどサステナビリティ感性が高い。これ等の学生を巻き込みたい。
  • 一方主婦感覚では生活は苦しい。「安いものが良い」の心理と購買行動は顕著。

②IUU漁業指数2023に関して

  • 日本が前回調査(2021)から34位改善し、スコア236(ワースト46位となり、漁業国としてアメリカ(スコア 232、ワースト63位、ノルウェースコア2.31、ワースト66位とほぼ同水準となった。エコラベル認証
    の取得が進んだこと等が反映している。
  • ポジティブに受け止めるべきであるし、MSCだけでなくMELの認証もカウントされればIUU指数は更に改善する。

③認証取得者に対するリスペクトに関して

  • GSSIが求める基準を維持するためにはやむを得ないが、一定の配慮をすることは望ましい。
  • 底引き網事業者の認証取得がゼロであって良いか?

④広報活動について

  • 現在マリン・エコラベル・ジャパンとMELが併用されているが、詳しくない方にとり同じとは思えない。いっそMELで押し出した方が良いのではないか。
  • 小学生の教科書に載せる働きかけが必要。
  • エコバッグはツールとして極めて有効。もっと活用しては?

⑤その他

  • MELの認証が拡がる中、MELの価値を守ることへの留意が重要との指摘をいただきました。
  • 有機フッ素化合物による汚染に関しては 規格に ないと思われるが、安全性の問題から無 視できない。
  • 認証終了の件数が増える傾向にあるが、資源評価やモイストペレット使用等に関する規制を関係者と議論して は委員の皆様の貴重なご意見をMEL運営の様々な場面に反映させて行きたいと思います。委員の皆様有難うございました。

6.農水省「あふ食堂」で MEL 認証水産物フェアが実施されました

3月4~8日、「あふ食堂」で食堂運営受託者であるサンコー・マーケティング・フード様の企画により、MEL認証魚を使った「海と魚と魚食文化をつなぐ」フェアが実施されました。併せて、財務省、法務省の食堂でも実施されました。ただし両食堂は一般公開されていませんので内部の方のみが対象。
▼メニュー


▼MEL認証魚および仕入れ先
スズキ:(株)海光物産
カツオ、ビンチョウ:(株)高橋商店
釜揚げしらす:(株)カネ成
真ホッケ、ニシン:丸水札幌中央水産(株)、ホッケは利礼漁業エコラベル推進協議会、
ニシンは石狩湾漁協が漁業認証取得者
マサバ:福島県漁連

「あふ食堂」は外部の方の利用が可能ですので、連日大盛況でした。食数限定の企画でしたので、欠品でご迷惑をお掛けしましたことをお詫びします。
MEL協議会は認証魚の提案や食堂の飾り付け、販促物の配布等で協同させていただきました。MEL協議会にとり、初めての事業所給食での展開であり、企画いただいたサンコー・マーケティング・フード様および食材提供者の皆様に深謝申上げます。

7.MELアンバサダー第3期の修了式を行ないました

3月12 日にMELアンバサダー、モニターの皆様の任期満了に伴う修了式およびMVP表彰式を行ないました。オンライン参加を含め8名の方々に参加いただき、本年度の活動を振り返り広範な意見交換で盛り上がり有意義な会となりました。
MEL事務局としてSNSの影響力の大きさを改めて感じると共に、アンバサダー、モニターの皆様がMELと認証商品 の良き理解者としてのミッショナリーワークを務めていただいたことに深謝申上げます。
今年度のMVPは「あおいみのり」さんが受賞されました。あおいみのりさんは水産流通業界で勤務された経験があり魚に関する豊富な知識を使ったオリジナルのイラストの投稿が優れていたことが評価されました。また、「さかひこ」さん動画とのコラボも好評でした。おめでとうございます。

8.福一漁業様が品評会で受賞されました

第34回全国水産加工品総合品質審査会において、福一漁業様の「かつおと野菜の黒酢あん」が水産庁長官賞を受賞され、2月22日表彰式が行なわれました。MELロゴが表示された商品が初めて水産庁長官賞受賞の栄に浴しました。ご関係の皆様の努力に敬意を表しますと共に心からお祝いを申し上げます。

9.MEL協議会人事について

MEL協議会の事務局長を務めております冠野尚教が、出向元のニッスイの人事により3月末をもって帰任することとなりました。後任には、3月末で水研機構を退職される加藤雅也様をお招きすることとし、4月1日からMELで勤務いただきます。なお、事務局長の交代は定時総会終了の時を以て行なうことを予定しております。4年間、冠野が皆様から賜わりましたご支援に深謝申上げます。

春の足音とともにやって来た華やかな話題は、何と言っても北陸新幹線の敦賀まで延伸開業でしょうか。被災地に元気を運んでくれることを願っています。
一方、関西地方に春を告げるイカナゴの新子漁にとり厳しい春になりました。
大阪湾は自主禁漁、11日に解禁した播磨灘はたった1日の操業で終漁となったと報道されています。伊勢湾でも自主禁漁を続け資源の回復に取り組んでおられますが明るいニュースはありません。自然と共に生きる漁業の難しさを 真摯に受け止め、資源回復への「長い旅」の重さを痛感しています。

以上