MELニュース2024年2月 第71号

世界中が何とも騒がしい中、2月が終わろうとしています。皆様には難しい事業環境に加え、決算、人事とお忙しい日々をお過しのことと思います。
MEL協議会も、認証機関である海生研様のJAB認定証書授与式、MEL認証規格レビューのための規格委員会、MEL審査員CPD研修、大阪シーフードショー出展およびMEL認証証書授与式、MELアドバイザリーボード等の行事が続き、全員フル回転でした。
新年度に向け、事務局一同心を引き締めています。

1.国際標準化関連

先月号で触れましたが、MEL認証規格レビューの規格委員会を開催し、レビューの骨格を委員の皆様に議論いただきました。漁業認証と養殖認証はこれまで機会がある度に手を入れてきましたので、修正の範囲は少なくて済みそうですが、流通段階認証(CoC)は日本の流通・加工の実情を反映した規格に作り変えることを承認いただき、専門家で構成する作業部会を立ち上げることとしました。また、規格全体をスッキリさせ、審査コストを軽減することに取組む方向も議論しました。
なお、GSSIでは昨年10月末にMSCの審査が終了し、承認スキーム全て(7団体)の更新承認が完了しています。今後は、現行の18ヶ月に1回実施するMOCA(承認継続審査)から、簡素な年次審査に移行することが事務局内で検討されています。

2.認証発行関連

今月の認証発効はありませんでした。
養殖認証のVer.2.0に関しては、新規取得とVer.1.0からの更新を合わせ24件となっており、新規格への移行が進んでいます。

3.認証取得者からのご報告

今月は摂津船びき網協議会の前田勝彦会長にお願いしました。漁業者が自らのこととして取組んでおられる、資源を守りかつお客様に支持される操業の実践をお話いただきました。

「豊かな海を目指して…」

摂津船びき網協議会
会長 前田 勝彦

「今後は獲るばかりではなく、資源に配慮した漁業のあり方を考えて操業していかなければいけないのではないか。そのために、自分たちも水産エコラベルの認証取得をしてはどうか」。協議会に所属する会員の漁業者自らの声から、私たちのMEL認証取得の活動は始まりました。

私たち摂津船びき網協議会は、兵庫県神戸市にある神戸市漁業協同組合と、兵庫漁業協同組合の2つの組合に所属する、瀬戸内海機船船びき網漁業者26統で構成されています。主な漁場は大阪湾で、操業海域を共有する大阪や淡路の他地区船曳網漁業者と協議して、操業時期や操業時間などの操業ルールを決めています。その中で、漁獲量が少ない場合は一定期間操業の取りやめや、豊漁時は取り過ぎないよう網揚げ時間を早める、網の目合いの規制など、常に他地区との漁業者とも情報を共有し、日々変化する状況に対応しながら操業をおこなってきました。そのような漁業者自らの自主規制、休漁日を設けたりすることにより、この先、持続可能できるような漁業としての資源保護や取組みをおこなってきました。

また、私たちが所属する神戸市漁業協同組合は、漁港内に水産加工場を所有しており、組合自ら釜揚げやチリメンの一次加工から、ちりめん佃煮などの高次加工をおこなっています。組合が運営する入札に参加し、漁業者が漁獲してきたMEL認証水産物を買付し、すぐに加工、製造することができます。この加工場も、CoC流通加工段階認証のMEL認証を取得しております。漁業者としての取組だけでなくその先、漁獲から加工製造、販売まで、一貫した体制が整っています。
今後も、MEL認証をとおして、私たち漁業者は資源管理に配慮した漁業をしていくとともに、漁業組合は安心・安全な水産物をお客様に提供します。漁業者と漁業協同組合が緊密に連携し、生・販ともに一丸となって、持続可能な漁業の未来を模索していきたく思いますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

前田会長有り難うございました。日本の資源管理の特長である「公的管理と自主管理の組合せ」が有効に働いていることを嬉しく受け止めました。また、皆様の我慢が続いているコウナゴ漁が一日も早く回復し、地域の春を彩る食文化が復活することをお祈りします。

4.関係者のコラム

今月のコラムは(株)ニッスイの前社長的埜明世様にお願いしました。的埜様がニッスイの社長に就任される前の現場勤務時代に、海外の水産事業で体験された変化を振り返っていただきました。

「振り返って思うこと」

(株)ニッスイ
Executive Advisor 的埜 明世

現役を離れ、早三年が経ちました。昨年末に古希を迎え、略毎日が日曜日状態で、あり余る時間には現役45年間を振り返っています。

1979年から1984年まで、カナダのノバスコシア州ハリファックスに駐在していました。ハリファックス沖NAFO(注1)海域には社船の大型トロール船4隻が夏場操業(注2)していました。そこでは松イカと赤魚を獲っていました。冬場は時には協働操業で、大西洋タラを獲っていましたので、その社船のアテンドが私の仕事でした。もう1つの仕事は、海明け4月から海が閉じる11月まではカナダ東海岸沿岸に散在する水産加工場の製品を日本市場向けに作ることでした。既にニューファンランド州のシシャモと松イカは日本向けに商品化されていました。それに加えて大陸側4州で大西洋ニシン、味付け数の子の原料として重宝された数の子やズワイガニの開発をしました。ズワイガニは現在でも日本市場で大きな地位を占めています。一方、北西大西洋海域の資源に関しては大西洋タラは乱獲が原因で、松イカは恐らく産卵場の水温変化により大  幅に減少しており残念な状況となっています。
1989年から1996年まではシアトルに駐在していました。アラスカ州ダッチハーバーには助宗タラのすり身及びフィーレを生産する工場があります。工場からの製品を全世界に販売できるネットワーク作りを使命としていました。駐在当初は助宗資源量が漁獲努力量を上回っていました。工場は機械整備期間を除いて年間10ヶ月もフル稼働しました。ところが次第に努力量が増大して資源管理が重要になってきました。政府は資源の調査、分析、評価をして漁獲量の決定をしました。一方、全世界に販売するネットワーク作りは、日本市場をはじめ、米国、韓国、台湾、中国、シンガポール、マレーシア、フランス、スペイン、ロシア等を開拓し、現在も継続しています。
その後は管理職になり実務からは離れましたが、日本における養殖事業や漁撈事業には深く関わりました。養殖事業の先行きについては非常に明るいと考えていたからです。理由は次のとおりです。

・日本は刺身対象の食材いわゆる生食商材に価値を認めるから

・養殖・漁撈適地であるから

日本の排他的経済水域の広さは世界第6位です。暖流と寒流の交差点です。南北に3000Kmと長く養殖に適した複雑な海岸線を有しているからです。
このような恵まれた環境下、次代を担う若者には持続可能な大規模で競争力のある養殖事業や漁撈事業を作り上げることを期待しています。

(注1) NORTHWEST ATLANTIC FISHERIES ORGANIZATION
(注2) カナダと日本政府間合意漁獲枠

的埜様有り難うございました。若い時代北米大陸の両岸で体験された資源管理に関する知見が、後に社長時代のSustainability重視の経営に反映していると受け止めました。人生100年時代、古希は老け込みにはまだ早すぎます。45年間の蘊蓄の語り部としてご活躍いただくことを期待しております。

5.海生研様がJAB認定証書を授与されました

MELの認証機関をお願いしております海生研様(正式には、公益財団法人海洋生物環境研究所 中央研究所)は、昨年12月20日に製品認証機関としてJAB認定が決定し、その認定証書授与式が2月1日に執り行われました。MELの認証機関としては、2019年4月の日水資様以来の2件目のJAB認定証書授与式となりました。
JAB(公益財団法人 日本適合性認定協会)様からは飯塚理事長、森内専務理事はじめ担当部署の皆様、海生研様からは保科理事長、渡邉理事以下認証事業関連の皆様が出席される盛大な授与式でした。海生研様にとり3年余にわたる我慢強い取り組みの成果であり、担当された皆様にとり感動的な瞬間であったと心からお祝いを申し上げます。また、スキームオーナーであるMEL協議会にとり、課題としておりました国際認定された認証機関の複数化が実現したことにより、国際標準化の上でもスキームに対する信頼性が一段高まることにつながり嬉しく受け止めています。
海生研様は、既に養殖2件とCoC3件を審査認証済みであり、組織内でも認証事業をチームとして位置づけされ、今後一層力を入れて行かれるとのことであり、ご活躍を大いに期待したいと思います。

6.規格委員会を開催しました

新年度に向け重要課題の一つである、MEL管理運営規則に定めた「5年に1回以上の規格のレビューを行なう」に沿い、レビューのための規格委員会を養殖(1月29日)、漁業、CoC(2月6日)に開催しました。これからステークホルダーの皆様にも意見を伺いながら取り進め、漁業と養殖は6月の通常総会で承認をいただきたいと考えております。CoCは時間をかけ、より日本の流通・加工の実情にあった規格にするため、専門家による作業部会で充分な検討を重ね練り上げます。

7.MEL審査員CPD研修を開催しました

本年度2回目のMEL審査員CPD研修を2月13-14日にZoomを使ってオンライン開催しました。Zoomは初めての方が約半分居られましたが、グループケーススタディーを含め順調に進行出来たと受け止めています。
参加者は15名(1名のオブザーバー参加を含む)でした。受講者の年齢構成は70代5名、60代5名、50代2名、40代2名で後継者の育成を含め、審査員の皆様の「水産エコラベル新時代」への対応はコロナ禍で遅れた分を取り返しつつあります。引き続き審査員研修を通し、審査の質の維持向上に務めますので審査員の皆様どうかよろしくお願いします。

8.シーフードショー大阪に出展しました

本年のシーフードショー大阪は2月20―21日ATCホールで開催されました。出展は230社・団体、来場者は9700人となり、コロナ前の水準に戻りました。会場には「水産エコラベルコーナー」が設けられ、スジアオノリの陸上養殖でMEL認証を取得された理研食品様および海生研様の第1号認証事業者であるマル伊商店様(シラス高次加工)が新たに出展されました。また、MEL認証水産物の展示コーナーには18社・団体の皆様から計33品のMELロゴ付き商品が出品され、来場者に好評をいただきました。
今回のシーフードショーで、水産とは全く関係のない業界からの陸上養殖に参入したいという意欲の高まりを強く感じました。一種のブームとも受け止められる動きですが、生き物を飼う難しさへの理解が不可欠なだけに今後を注視して行きたいと思います。

9.MEL認証証書授与式を開催しました

シーフードショー大阪の会場で第12回のMEL認証証書授与式を開催しました。今回初めて日水資様、海生研様の合同開催となり、高橋会長、保科理事長が揃って出席され、審査機関が複数化された新体制にふさわしい盛会となりました。全国から出席された15社・団体に認証証書が授与され、それぞれの代表者から力強い決意表明をいただきました。
認定証書を授与された皆様にスキームオーナーとして心からお祝いを申し上げます。また、皆様の決意に込められた思い、具体的には➀皆様極めて真剣かつ地道にとり組んでいただいていること、②お客様に言われたからでもありますが、自らのために必要を感じたから挑戦されたこと、③認証を自分にとどめず、地域にあるいは取引先に拡げたい、をスキームオーナーとして嬉しく受け止めさせていただきました。実際に、認証取得の一環として港の浮遊ゴミ回収実施等行動に繋がったという発表は心に響きました。
経営トップの自ら参加だけでなく、実務を担当された若い皆様に出席いただけたことは、MELが目指す皆様の事業へのお役立ちが浸透している現れと受け止めました。今後、皆様と一緒に水産エコラベルの日本モデルを確立し、世界に発信したいと考えています。

 

コロナ、インフルエンザが静に拡がる中、関東では2月15日に春一番が宣言されました。また、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は1月の世界の平均気温は観測史上最高であったと発表しています。今年も気候変動から目が離せない年になりそうです。
日経平均株価が2月22日終値で34年振りに最高値を付けました。日本のGDPがドイツに抜かれ世界4位に後退したことが報道されたすぐ後だけに、どうして?を感じる局面ですが、日経新聞は23日の朝刊で1956年(昭和31年)の経済白書の結語の一節「もはや『戦後』ではない」にならい、「もはや『バブル後』ではない」と書いています。これを機会にこの30年余日本を支配した「縮み思考」からの脱却を願っています。

以上