MELニュース2023年11月 第68号

季節外れの夏日が続いた後は、大雪、時化、木枯らし等々粗い気象に振り回された11月も残りわずか、いよいよ師走です。
秋魚の漁模様は、厳しいまま今年も終りを迎えそうです。北海道の秋サケ漁も豊漁予想を裏切りましたが、報道によれば本州の秋サケは記録的な不漁とか。
今年の海水温はサケにとっては好ましくなかったのでしょう。「自然より強者はいない」の謂れの通りかも知れませんが、皆様の仕事への影響は計り知れないと心が痛みます。知恵を絞り師走商戦に備えてください。

1.国際標準化関連

10 月 9 日に GSSI の理事会がスコットランド のエディンバラ で 対面+オンラインで 開催されました。 今回 の理事会 から、スキームオーナー代表が オブザーバーとして参加 することになりました。 BAP の Dan Lee 氏 が 代表として 出席 しましたが、 MEL から 提案 していた 「 包装資材 に スキームの ロゴと共にGSSI 承認 の文字 を表示する 」 こと が B toB に 限定 し 了承され 、現在 GSSI の事務局で実施要領を詰め ており近々公表 される予定です。輸出 の場面で 利用価値があると認識しています。
10月 30 日に 株 極洋様が 、 GSSI のファンディングパートナー として参画されたこと を 発表されました。 極洋様は マルハニチロ 様 、ニッスイ様と 共に 世界の有力水産会社9社で構成される SeaBos のメンバーとして水産物の持続可能な利用を 積極的に 推 進しておられ 、 国際社会における 影響力 を大いに 発揮されることを期待しております。

2.認証発効関連

今月 の認証発効 は 漁業 2 件、養殖 0 件、 CoC 3 件 の見込みです。
漁業に於いて 富山県、 新湊漁協様 のシロエビ 小型機船底びき 漁業の認証がまもなく発効予定です。 CoC も 「しろえび未来企画有限責任事業組合」様が申請準備中であり間もなくサプライチェーンが繋がります。
行政をはじめご 関係の皆様の 熱意 と努力 に敬意を表します。 「富山湾の宝石」と 喩えられ 、地元のみならずと東京でも人気の高い 貴重な資源 の持続可能な利用に繋がることを期待しております。

3.認証取得者からのご報告

今月はハマチ養殖発祥の地である香川県の引田で、元全漁連会長の服部郁弘様以下親子三代で様々な挑戦をしておられる服部水産様の服部秀俊社長に取組みをお話しいただきました。

『ハマチ養殖発祥の地「引田」より』

服部水産(有) 社長 服部秀俊

弊社はハマチ養殖発祥の地とされる香川県の東端の引田で主にハマチ養殖を営んできました。昭和44年に活魚運搬船を新造し、まずは引田で養殖されたハマチの活魚輸送・販売をスタートしました。その為販路を沢山持っていましたので、私が経営を引き継いだ平成8年頃までは、生産した魚を販売することに苦労はあまりしませんでした。
その後、養殖業界が目まぐるしく変化していく中で同業者の廃業が相次ぎ、地元の生産者も30軒余りいたのですが、現在は6軒にまで減ってしまい、寂しい限りです。
そうした中で弊社は早くから他業者との差別化を図る目的でオリジナルブランド魚の生産を行い、県・県漁連とも「オリーブハマチ」等の開発に当初から携わってきました。

MEL認証に香川県内でいち早く取り組んだ理由も自社の生産した養殖魚の価値を高め、販路を拡大する目的で取り組みました。
取得した後、自分なりにコツコツとMEL認証取得をアピールしながら営業を続けてきましたが、なかなか思うように出荷先がみつかりません・・・ そこで以前から交流のあった水産加工会社様にMELのCoC認証を取得してもらい、弊社の養殖魚の加工販売を依頼しました。弊社のような零細養殖業者が単独で、どこのグループにも属さず、MEL認証を取得・利用し販売していく方法はこういう方法しかないと思いました。
私のお願いを快く引き受けて下さった(株)安岐水産様と、この度弊社のオリジナルブランドハマチの「百年ハマチオイル漬け」を製造して、かがわ県産品コンクールの食品部門で優秀賞をいただきました。今後、安岐水産様が高次加工の認証を取得される予定ですので、それが取得できれば、商品の箱にMELのロゴマークをプリントする予定です。
こういうMEL認証取得業者同士の商品開発に、弊社のような小規模な養殖業者のMEL認証の活用の道があるのではないでしょうか?
弊社のモットー「誰もやらないことをやる」
これからもこの精神で頑張ります!

服部社長有り難うございました。ファミリーの三世代と志を同じくする仲間の思いを結集「誰もやらないことをやる」精神で養殖業の成長産業化を実現されることを願っています。

4.関係者のコラム

餌の価格の高騰が養殖事業者を苦しめています。今月は海水養魚協会の前会長で東町漁協の組合長を務められる長元信男様に、養殖業の現状とこれからの取組みについてお話しをいただきました。

「東町漁協の養殖の歴史、これからの展望」

東町漁協組合長 長元信男

ハマチ養殖の歴史は香川県引田の安土池で始まり、鹿児島県では垂水市の牛根地区で2haの築提池を使用してハマチの試験養殖がなされ、昭和35年同池から3千尾のハマチが出荷されたのが始まりです。昭和36年頃から小割生簀に変わり、鹿児島湾から県内各地に拡大していき、私たち東町漁協管内では昭和41年に漁協が自営事業で養殖が開始されました。当時は管内に26ヵ統の2層巻き小型まき網があり、主にカツオの生き餌に使うカタクチイワシを中心に豊富に獲れて、これを利用してハマチ養殖が盛んになり、1番のピーク時には200経営体あり、現在は110経営体になっています。ほとんどが家族経営体でそれは今でも変わりません。

当時は漁船漁業が盛んで、タコ、タチウオ、イボダイ、ハモを中心に漁獲され正に八代海は豊穣の海といわれていたが、今現在は当組合管内を含めどこの地区においてもこの先どうなるのだろうと思うくらい天然資源は減少しています。
一方養殖については、昭和49年に黒ノ瀬戸大橋が開通してから飛躍的に伸びていき、昭和57年には大ブリでの対米輸出が始まり、昭和63年に加工事業を開始、平成3年には水揚高100億円を突破。平成6年には新加工場を建設し、平成10年に「加工場HACCP認証」、更に平成15年2月に「対EU輸出水産食品取扱い施設認定」され、どちらも養殖魚では国内の第一号取得となりました。同年8月にはEUに生鮮ブリでの輸出を開始しております。平成17年には「鰤王」として商標登録され、同年2月に「対中国」、平成19年4月には「対ロシア」の輸出水産物食品取扱い施設に登録された。平成20年にブリの年間加工尾数100万尾を達成し順調に発展を続けていたが、平成21年、22年と2年続けて赤潮被害に見舞われ2年で総額53億円の被害となった。私も平成18年に代表理事組合長に就任し、3年目にして、当時はこれで漁協も終わりかなと思う程の大ダメージを受けました。しかし、前向きに行こう、『神様は乗り越えられない壁は与えられない』と強い気持ちで町、県、国、地元の国会議員の先生等々に何回となく陳情を行い、多くの人たちの力添えを頂き乗り越えることが出来た。常に前向きに『現状維持はありえない』を合言葉に、更に組合員と漁協が一つになって今でも共販出荷体制で頑張っています。
平成23年に「早生鰤王」商標登録、平成25年に総合加工場建設、平成27年に株式会社JFAを設立。平成30年にはマリンエコラベル(MEL)認証(ブリ養殖・加工流通)取得、令和元年ASC認証、更に加工場がISO22000を取得しております。輸出については、これまで32ヵ国の実績があり、順調に伸びておりましたが、コロナ禍の影響で令和2年度に極端に落ち込みましたが、4年度では約17億円まで回復しました。5年度は20億円を超える実績を期待しています。沿革を振り返ると歴代の組合長を始め、役員・職員の皆さん方の輸出を含めて、先を見る目は凄かったといつも感謝しているところでございます。
これからの展望については、国もブリ類の輸出を増やそうと増産に舵を切り、2025年までに3万2千尾トン増産して542億、更に2030年に10万トン増産して1600億円の輸出をと計画されているが、ロシアとウクライナ紛争を始め、ペルーでのアンチョビの漁獲不安定、天然資源の減少等と重なり、生餌を始め飼料価格、燃油資材の高騰している。更には中国の日本からの水産物輸入停止等もあり、ブリ相場は下がりつつある中で、小さな家族経営の養殖業者は生き残れるのか不安である。東町漁協がある長島町は1次産業の町であり、地方創生が言われる中で養殖業者が生き残っていくには協業化もあるかもしれないが、養殖業者には三代目・四代目となる後継者もいる中で難しい問題でもある。養殖業者と漁協が1つにまとまっている事は大きな強みであり、これからも漁協と組合員、皆で知恵を出し合い、厳しいこの難局を乗り越えていきたい。以前より計画していた新しい加工場が令和8年度完成に向けて、やっと環境省の認可がおりたところです。新しい加工場では最新の設備で労働力不足の解消、稼働の効率化等々期待しております。また、輸出については加工場取扱高の2割程度ですが、更に3割、4割と伸ばしていきたいと考えております。
それには安定した生産体制、周年出荷体制が必要であり、自然災害や赤潮等の対策を万全に整えながら、餌飼料の安定供給、人工種苗の安定導入、ICT養殖システムの有効活用等により生産者が安心して生産できるよう、漁協と一体となって取り組んでまいります。

長元組合長有難うございました。長元様のリーダーシップの下、餌の価格の高騰を乗り越え、漁協と組合員の知恵と行動力で日本の養殖業の成長産業化実現を牽引していただくことを願っています。

5.理事会を開催しました

11月16日に、MEL協議会第33回理事会を開催しました。定時理事会でありますので業務報告が中心でしたが、養魚用配合飼料、魚粉・魚油に関するMEL認証規格開発のための規格委員会立ち上げと、委員委嘱を承認いただきました。
また、新たにMEL協議会会員になっていただくことになりました、(株)キューピー様、松田産業(株)様の入会の承認をいただきました。正会員47、賛助会員1会社・団体となりました。日本の水産業の持続可能な発展のためご支援、ご指導をどうかよろしくお願い申上げます。

6.水産功績者表彰式が行われました

11月22日に秋篠宮皇嗣殿下ご台臨のもと、令和5年度水産功績者表彰式が行われ、35名の皆様が表彰を受けられました。表彰式は今年で107回になる由緒ある賞であり、受賞された皆様に心からお祝いを申し上げます。十三漁協の元組合長工藤伍郎様はじめMEL認証にご尽力いただいた方々が受賞しておられ、嬉しい限りです。当日は会場で、「井戸を掘っていただいた」皆様にお目にかかり現状のご報告を申上げました。
皆様の益々のご健勝とご活躍をお祈りします。

7.福島県のアオサがヨーロッパに輸出されました

MEL認証の下、相馬双葉漁協様が養殖、マルリフーズ様が加工されたロゴ付き商品がJETRO福島様の支援でオランダへの輸出が実現したとの連絡をいただきました。本年8月にEUの規制が撤廃されてから初めての輸出であり、マルリフーズ様のご努力とJETRO様のご支援に敬意を表します。

ご覧になった方が多いかと思いますが、11月14日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」で漁業現場における漁業経営と資源管理が取り上げられました。現場における漁業を持続可能にするための様々な取組みが紹介されました。日本の資源管理の特長である「公的管理と自主管理の組合わせ」がポジティブに取り上げられる一方で、定置網に入ったクロマグロがTACを遵守するため棄てられるシーンはどう見てもネガティブに写りました。
日本の水産業を復活、成長産業にするための産みの苦しみかも知れませんが、MELをお預かりする身にとって胸に堪える企画でした。
またマスク姿が目立ってきました。コロナの復活、インフルエンザ流行に加え、不順な気候が続きますが皆様には呉々もご自愛の上ご活躍下さい。

以上