MELニュース2022年 3月 第48号

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が凄惨化する中、「歴史は人間の愚かさの記録である」という古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの言葉を改めて噛み締めています。
筆者は、今から24年前の1998年8月にウクライナの首都キエフを初めて訪れました。わずか数日の滞在でしたが、東西の冷戦が終り独立国として自立するための産みの苦しみの中でも、人々の目は輝いていました。それから様々な辛苦の末が今回のロシアによる暴挙だとすれば、ウクライナの人々だけでなく国際社会にとっても「人間の愚かさ」で済ますことは出来ません。
まだ貧しい中ソ連邦の下で遠洋漁業を担い、南氷洋捕鯨船団まで出していたウクライナでは、キエフの街の魚屋(「オケアン」と呼ばれていた)の店頭にはスケソウタラやコウリウオ(氷魚=南極海で漁獲される深海魚)、オキアミ等が自国内産のチョウザメやコイに混ざって並べられていたのを思い出します。
一日も早く平和な日が取り戻せることを願っています。

1.国際標準化関連

2月25日にGSSIのスキームオーナーアドバイザリー会議が開催され、全スキームオーナー9団体が参加しました。スキームオーナーアドバイザリー会議はGSSI事務局がスキームオーナーから様々な提言をもらうために設立された会議ですが、今回の主議題はGSSIの新基準ベンチマークツールVer.2.0への申請の現状と手続きのデジタル化に関しての説明でした。
また、GSSIの2022-2025ビジョンについて紹介がありました。その中でSSCI(Sustainable Supply Chain Initiative)との協働の推進が説明されました。社会の要求が多様化する流れに沿って、全て自前でやるから他の団体と協働する動きの一環と受け止めています。
GSSIの場合、大きな傘であるCGF(Consumer Goods Forum)下で
・社会的分野はSSCIと
・食品安全の分野はGFSI(Global Food Safety Initiative)と
協働を進めているということです。もう少しコロナが落ち着いたら、MELとしても国際的な活動に参加し世界での存在感を高めたいと考えています。
MELのGSSI新基準ベンチマークツールVer.2.0への申請は7月受付との連絡を受けており、そのスケジュールに合わせて準備を進めています。

2.認証関連

今月の認証は養殖1件、CoC5件計6件でした。
コロナ禍とピアレビュー制度のせいには出来ませんが、認証発効が遅れ気味になっていることが気に掛っております。それぞれの案件につき関係者の事情を伺って渋滞の解消を進めています。

3.規格委員会を開催しました

3月15日にMEL養殖認証規格(Ver.1.0)を改正するための規格委員会を
開催しました。規格委員会委員に加え専門部会委員の舞田先生にもご出席いただきました。現行認証基準4.2の「養殖に用いる飼餌料は天然資源に与える影響を最小限にとどめる配慮がなされていること」に関して、GSSIの新基準ベンチマークツール Ver.2.0が求めている生餌の使用禁止に対応するため一部改正を行なうことを目的しました。MEL事務局としての基本的なスタンスは「将来的には固形配合飼料への移行を目指し認証取得生産者にも実践を求めるが、生産者の事業実態に配慮し使用条件を明示した上改善を進める立場をとる」こととしています。
規格改正に当たっては、規格委員会の決定をホームページの公開し、認証取得者への説明および60日間のパブコメを経て最終調整後、再度認証取得者への説明、理事会への報告、総会の承認という大変重たい手続きが必要です。
今回は特にモイストペレットの使用に制限がかかる改正だけに、認証取得者の実態を反映出来る様議論に充分時間をかけたいと考えています。改正した規格の発効は7月中旬を予定しています。
なお、漁業認証規格、CoC認証規格は現状の規格(Ver.2.0)で対応可能と考えていますので、今回の規格委員会には諮りませんでした。

4.認証取得者からのご報告

今月は大阪府資源管理船びき委員会の中 武司委員長にシーズン入りした大阪湾のシラス漁の取組みをお話いただきました。

「大阪湾イワシシラス漁の未来のために」

大阪府資源管理船びき委員会 会長 中 武司

大阪府資源管理船びき委員会は、大阪湾でイワシシラスを漁獲する唯一の漁法である船びき網漁業を営む大阪の漁業者全員により構成しております。
イワシシラスは外海からの来遊や大阪湾内での産卵や成育状況などの影響を受けやすく、漁獲量の変動が大きい魚種です。このような変動を最小限にするために、自主的に休漁日、操業の開始・終了日、操業時間の統一した設定等に取り組んで参りました。大阪湾では兵庫県の船びき網漁業との入会があるため、兵庫県の漁業者と協議を重ね、大阪湾で統一の取組を長年行い、安定した漁獲を維持して参りました。
近年では大阪のイワシシラスの水揚を岸和田市のセリ場1カ所にまとめ、ICT化を進めセリ時間の短縮や徹底した鮮度管理を行っており、関係者に高い評価を得ております。
このような取組のなか、国際的な水産資源の持続的利用の重要性の高まりを感じ、当委員会での取組を内外へPRする必要があると考え、東京オリンピックの開催を見込んで2017年からMELの取得を目指すこととしました。認証を受けるまで、数多くの科学的エビデンスや取組の記録などの確認、認証Ver.2.0への移行があり、戸惑いがありましたが、2020年6月にようやく生産段階認証を受けることができました。認証取得当初は流通加工段階(CoC)認証を受けた業者はありませんでしたが、普及が徐々に進み、ようやく2022年中にはMELロゴマークを付けた商品が消費者の食卓に届けられるようになり、大変嬉しく思っております。
MELの知名度はまだまだ低いと感じており、今後MEL認証の商品を普及して頂けるよう、関係各位にお願いするとともに、消費者へ水産資源の持続的利用のための取組をもっと評価して頂けるように、当委員会も努力して参りたいと思います。

中委員長有難うございました。タイミング良く大阪湾のシラスを原料とした日本生協連様の「コープサステナブル」商品が MEL ロゴをつけて発売されましたので、松本様に販促事例としてご紹介をお願いしております。漁業から加工、販売まで MEL 認証でつながった商品を全国の生協組合員の皆様にお届けできることを大変嬉しく思っております。今後一層の発展をお祈りします。

5.関係者のコラム

東京魚市場卸協同組合理事長であり全国水産物卸組合連合会会長をお務めの早山 豊様にお願いし、熱心に資源保護や輸出促進等に取組んで居られる豊洲仲卸の皆様から見たMELの活動について所感を伺いました。

「サステナブルな水産流通を目指して」

東京魚市場卸協同組合 理事長 早山 豊

東京魚市場卸協同組合は、豊洲市場の水産仲卸業者で構成され、現在、470事業所の組合員を抱える事業協同組合です。本年は創立70周年を迎える節目の年であり、豊洲移転事業を無事に終えた今は、まさに市場の将来像を真剣に考える時にきています。
この2年間は新型コロナ感染症拡大に伴う緊急事態宣言の発令等による影響で、非常に苦しみながらも市場機能を継続するために全力を尽くしてまいりました。また、昨今はウクライナ情勢の緊迫化を受け、食材輸入に影響が出るなど新たな課題に直面しております。こうした外的要因に加え、水産資源の減少や海洋環境の変化などに市場流通としてどのように対応していったらいいのかが問われています。
組合では、外部有識者を豊洲市場に招聘し、水産資源や海洋環境をテーマにしたシンポジウムやワークショップなどを開催し、組合員に問題意識を共有する場を提供しています。(東卸組合ホームページに内容を掲載しています)

その中で、水産資源を守るための有効な手段であるMEL認証については、仲卸も取得する事業者が出てきました。豊洲市場でMEL商材が流通できる素地は整いつつありますが、課題は仲卸の主な取引先である業務筋や中堅スーパー等へのMELCoC認証の普及促進だと思われます。今後もマリン・エコラベル・ジャパン協議会様と連携しながら、持続可能な水産資源の活用への取り組みを発信してまいります。
なお、来年度、東京都が実施する卸売市場プロモーション事業の一環で、豊洲市場の見学者通路に、水産エコラベルを含めたパネル展示を予定しているほか、(一社)豊洲市場協会のホームページ内のSDGsコーナーにMEL認証事業者の取得状況を掲載する予定となっています。

早山理事長有難うございました。全水卸の網野会長より豊洲市場に入荷する魚の外箱にMELロゴが表示された商品が少ないとの指摘を受けており、認証を取得しておられる出荷者にMELロゴ表示をお願いしております。
今後とも豊洲市場がMEL認証の活用の先頭に立っていただくことを願っております。

6.販促事例

日本生協連様では、SDGsおよびエシカル消費の取り組みの一環として2022年2月から新シリーズ「コープサステナブル」の展開を開始されました。推進責任者であり、MEL理事をお願いしております松本 哲様にMELロゴ付の商品の第1弾であるシラスについてお話をお願いしました。

「日本生協連が「CO・OPふっくらしらす干し」など18品にMELロゴマークを付けて発売」

日本生活協同組合連合会
ブランド戦略本部サステナビリティ戦略室 松本 哲

日本生活協同組合連合会(略称:日本生協連)は、各地の生協や都道府県別・事業種別の生協連合会が加入する全国連合会です。商品事業として、プライベートブランド(PB)の「コープ商品の開発」と「全国の生協への供給」を行っています。
このたび、しらす(カタクチイワシ等)をふっくら炊き上げ、使いやすく小分けパックした「CO・OP ふっくらしらす干し」など18品(SKU)にMELロゴマークを付け、環境や社会に配慮した※「コープサステナブル」”海の資源を守る”シリーズの商品として、2022年3月から順次発売します。
これらの商品は、全国の生協組合員に多く利用されている人気商品で、宅配と店舗で年間供給数量約2,200万食(小分けパック単位の数量)の実績があり、MELロゴマークを付けたコープ商品が一気に拡大することになります。
原料のしらすを漁獲する大阪府資源管理船びき委員会(大阪湾)と紀伊水道中央機船船曳組合の「シラス船曳き網漁業」は、2020年にMEL漁業認証を取得しました。認証取得に向けては、MEL協議会から漁業者への説明のため現地を訪問いただききました。

また、日本生協連は、しらす干し商品にMELロゴマークを付けて発売するため、加工・包装を行う製造委託先の㈱西村物産及び大阪の原料仲買業者とのマルチで流通加工段階認証を2020年に取得しました。
商品にMELロゴマークを付けて発売するまでには、漁業・流通・加工などの各段階をはじめ、多くの関係者の協力・協同が大切なことを強く感じました。この場をお借りして、ご協力いただいたみなさまに心より御礼を申し上げます。
日本生協連は、昨年5月にコープ商品「責任ある調達基本方針」と「コープ商品の2030年目標」を発表しました。日本生協連が供給する⽔産物を主原料とする仕様指定商品および⽣鮮⽔産物について、GSSIが認定した認証スキームによる水産認証ラベル付き商品の供給額構成⽐を2030年に50%以上とする目標を掲げています。国内で生産される水産物の持続的な利用をめざして引続き取り組んでまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

※「コープサステナブル」シリーズについては、下記URLのサイトをご覧ください。

https://goods.jccu.coop/lineup/sustainable/

松本様有難うございました。丁度しらす漁のシーズン開始という絶好のタイミング、拘りの商品とともにMEL認証が組合員の皆様に浸透して行くことを期待しております。今後ともよろしくお願いします。

7.イベント

今月のイベントは、3月8-11日幕張メッセで開催されまし「FOODEXJAPAN2022」に出展しました。日本を代表する国際食品展であるにもかかわずMELにとってやや遠い存在でしたが、今までと比較して圧倒的に多くの方が説明を聞きたいとブースに立ち寄って下さり、水産エコラベルへの関心が高まっていることを感じました。
出展者ならびに展示品で目立ったのは新素材=代替肉の関係者の熱気でした。また、FOODTECHへの様々な取組みの紹介に加え、ビーガン(完全菜食主義者=肉、魚、卵、乳製品等動物性食品を食べない人々)への提案も目立ち、食生活の多様化が急速に進むと受け止めました。
先月16日に開催しましたMELワークショップ2022はその後もYouTubeへのアクセスは続いて居り、580件になりました。また、関係者からブログやインスタグラムを通した発信が行なわれており、その一部をご紹介します。

①MELアドバイザリボードメンバーである寺島紘士先生のブログ(3月10日掲載)

「ワークショップは、最初に内海和彦氏(大日本水産会専務理事)のご挨拶、山口英彰氏(前水産庁長官)の基調講演、垣添MEL協議会会長の事業報告、アラスカRSM(アラスカの責任ある漁業管理認証プログラム)のビデオメッセージがあり、続いて生活者の視点から持続可能な日本の漁業、魚食文化を見つめるディスカッションが始まった。横浜国立大学教授の松田裕之氏がファシリテーターを務め、パネリストに志村なるみさん((株)ABCクッキングスタジオ代表取締役)、椎葉百合子さん(テレビマンユニオンディレクター)、阿古真理さん(作家、生活史研究科)が登壇し、さらにそれに漁業、養殖、流通、加工、MELアンバサダーなど 20 名の皆さんが会場からあるいはリモートで加わって、多彩な顔触れにより水産エコラベルの意義について興味深い議論が展開された。 私は、日本の水産エコラベルであるマリン・エコ・ラベル(MEL)が内外で普及していくためには水産物の最終消費者である一般の人々がその意義と重要性を認めMELマークの付いた水産物を積極的に購入するようになることが重要と日ごろ考えており、その旨を一言発言した。そのような視点からもこのワークショップにおける多様な皆さんの発言と議論はなかなか良かった。コロナ禍の不安を押しのけて参加した甲斐があった。」

ブログ全体はhttps://blog.canpan.info/terashima/からご覧になれます。

②MELアンバサダー(ririkankanさん)のインスタグラム投稿記事(2月21日掲載)

投稿ページ URL:https://www.instagram.com/p/CaPXEK5vfEY/?utm_medium=copy_link

 

近畿地方の春の風物詩コウナゴのシンコ漁が、今年も大阪湾、播磨灘とも不漁のまま自主終漁となりました。また、伊勢湾、三河湾でも漁業関係者により禁漁が決定され、これで 7 年連続禁漁と報じられています。原因について様々な指摘がありますが、コウナゴという地域の生活に密着した沿岸漁業の対象魚種だけに資源を持続的に使いながら食文化も守る難しさを痛感しています。 一方ニシンの資源は、北海道石狩湾で大群産卵「群来」が見られまで復活した とのレポートが繰返し報道されています。資源回復への取組みが功を奏しつつあるとのこと、同じ北方系の魚種であるコウナゴとニシンは何が違うのでしょうか? 人間の努力以外の要素が資源に大きく影響する水産業において、自主管理という事業者の行動が中々資源復活に結びつかない現実はもどかしい限りです。でも、「継続こそ力なり」関係の皆様の我慢に敬意を表します。 MEL ニュースは皆様のご支援で創刊満 4 年となり、本日第 48 号をお届けし ました。今後とも「日本発、世界が認める水産エコラベル」としてお役に立つ情報共有ツールとして機能するべく頑張りますのでどうかよろしくお願いします。 蔓延防止が終わったとは言え、春は体調を崩しやすい季節です。充分にご自愛 の上新年度に備えて下さい。

以上