MELニュース2021年 11月 第44号

北海道の赤潮、沖縄から本州南岸の軽石による水産業への被害の拡がりに心を痛めております。「自然を上回る強者はいない」と言われますが、打ち手がない漁業者にとって踏んだり蹴ったりでお見舞の言葉もありません。
月初に開催された COP26 は、議長国のイギリスの粘り強いリードにより何とか「産業革命以降の気温上昇を 1.5 度に抑える努力を追求すると決意する」が合意されましたが、焦点の石炭火力発電は段階的削減にとどまり、世界が一枚岩で温暖化防止に取組むとまでは届きませんでした。
日本から衆院選直後にもかかわらず強行スケジュールで参加された岸田首相もカーボンゼロへの決意とアジア諸国への支援を世界に示されました。しかし、会場周辺だけでなく世界でデモが渦巻く中、環境 NGO からの石炭火力発電を続ける日本に対する不信は強いと報道されています。
水産資源の保護だけでなく、人類の行動全てにわたり言葉ではなく成果につながらなければ意味がない時代になっていることを共有したいと思います。

1.国際標準化関連―MELの承認継続審査(MOCA)が完了しました

GSSIの理事会はMELの承認継続を11月22日に決定し、24日に公表しました。昨年12月から延々と続いた長丁場の審査がようやく完了しましたことを報告申し上げます。
承認継続は、MELが日々進化しながら続けているスキーム運営が国際標準に適っているとして認められたと受け止め、関係の皆様のご尽力に改めて感謝します。「日本発、世界が認めるMEL」をより確かにするため、皆様とご一緒に努力を続けたいと思います。

2.認証状況

今月の認証は漁業1件、CoC 3件となり、累計認証件数は漁業12件、養殖50件、CoC 90件で合計152件となり、150件を越えました。
今まで認証実績がゼロであった、新潟、千葉、広島、山口の各県で認証の発効がありました。これで、認証ゼロの府県は19に減少しました。
日本中に認証の輪を一歩ずつ拡げたいと念じております。

3.認証取得者からのご報告

今月は熊本県海水養殖漁業協同組合の深川 英穂組合長にお願いしました。9月に赤潮が発生し、シマアジを中心に被害があったと伺っておりますが、養殖の様々な苦労を含め組合員の努力をお話いただきました。

「MEL認証への取り組み」

熊本県海水養殖漁業協同組合
代表理事組合長 深川 英穂

初めまして、熊本県海水養殖漁業協同組合の代表理事組合長をしております深川英穂です。

熊本県海水養殖漁業協同組合の事業拠点である天草諸島は、熊本県の南西部に位置し、内湾性で国内有数の干満差がある有明海及び八代海、対馬暖流の影響を受ける外洋性の天草灘という3つの海域に周囲を囲まれており、古くから水産資源に恵まれ、漁業が地域の基幹産業となっています。かく言う私も以前は大中型まき網船団を率いる漁師でした。海面魚類養殖は、八代海を中心とした天草諸島の各浦湾で、安定した海況と比較的速い潮流という海域の特性を活かし、マダイ約1445万尾、ブリ約130万尾、トラフグ約82万尾、シマアジ約199万尾のほか、ヒラメ、マアジ、イサキ、イシダイ、カワハギ、カサゴ、メバルなどが養殖されています。
当組合は海面魚類養殖業を営む漁業者(正組合員40業者)で構成される業種別漁協です。地域漁業の振興と地域の発展を願い、購買・販売・加工・指導事業等、組合員・地域の皆さま方の生活基盤と基幹産業としての養殖漁業の発展のための事業を総合的に営んでおります。魚類養殖専門に特化したノウハウで、組合員への餌やイケスごとの飼育管理などの指導を行い、加工・出荷まで一貫した生産管理を実践。また、漁協と組合員で、漁場の水質・底質の検査、海上漂流ゴミ・海底清掃による環境保全を行ない、行政と一体になって赤潮監視体制を構築し、赤潮対策に取り組んでいます。このような取り組みはSDGsやMELの水産資源の持続的利用、環境や生態系の保全に配慮した管理を積極的に行っている漁業・養殖の生産者を認証する目的に沿っていると考えていました。
当組合のMEL認証への取り組みは、養殖認証規格が発効された後の2019年からです。熊本県の支援を受け2018年にAEL(養殖エコラベル)の認証取得に取り組んだ後、これをブラッシュアップする形で行いました。組合員の内、3経営体にお願いし、協力してブリ、マダイ、シマアジの養殖管理手順を作成し、これを順守することによってMEL認証を取得することができました。標準的な養殖管理手順が作成できたことによって、他の組合員がMEL認証に取り組みたいと思った時、すぐ水平展開が可能な体制となっております。
現在のエコラベルの使用はパンフレットのみで、これからというところです。MELの考え方は流通の各所に浸透してきていると考えており、当組合の商品にもエコラベルを添付して販売していきたいと思っております。
時間はかかると思いますが、水産資源の持続的利用、環境や生態系の保全に配慮した管理を積極的に行うことが正しく評価され、価格に反映されることを願い、我々も微力ではありますが継続して努力していきたいと思います。

深川組合長,有難うございました。2021年3月17日に大阪シーフードショーの会場で開催しましたMEL認証証書授与式に当たり養殖業の難しさを話されたのを昨日のように覚えています。どうか今後ともリーダーシップを発揮され日本の養殖業の発展に貢献いただくことを期待しております。

4.関係者のコラム

水産エコラベルの活動がメディアの目にどう映っているか、水産専門紙のリーダーである水産経済新聞社安成 梛子社長にご意見を頂きました。

「MELのこれまでとこれから」

水産経済新聞社 代表取締役社長 安成梛子

 2021年10月、MELのGSSI認証取得2年を前に、「今夜は海と水産エコラベルを考えて見ませんか」と題する、垣添会長の一般消費者向け勉強会があり、MEL(日本型エコラベル)の発足からこれまでの経緯・今後の課題について、丁寧な経過報告がありました。スライドを拝見しているうちに、この半世紀の水産界の怒涛の歩みがよみがえりました。
水産エコラベルのスタート地点は、日本の水産業界にとって忘れることのできない大事件「1972年のストックホルム国連人間環境会議」です。会議で唐突に出された「商業捕鯨10年停止決議」の採択。次いで、当時から水面下で進んでいた「(米・ソの)200カイリ漁業専管水域宣言」(1977)、「国連海洋法条約」の制定(1982)など、それまでの海洋に関する世界常識をひっくり返す「現象」がこのストックホルム会議を期に表面化し、「水産業」と「環境保護」の緊張関係を背景に、世界の海を管理する新しい枠組みが始動しました。

ストックホルムで急浮上した「商業捕鯨禁止決議」が、言われているように、米政府と環境保護団体との交換取引(ベトナム戦争での枯葉剤散布と捕鯨禁止)であったかどうかはいまだに不明ですが、米政府がこの時点で反捕鯨団体に大きく譲歩したことは間違いなく、
それ以後、反捕鯨NGO、環境NGOからの意見を政策に取り入れ、国益を損なわずに海洋政策を推進する国へと舵を切りました。一方、欧米の環境NGOは、クジラを始めとする野生生物の保護を旗印に、大規模な抗議活動を繰り広げ、環境に配慮しない「水産品」の大々的な不買運動を巻き起こしました。
エコラベルは、こうした環境下にあって、再生可能資源の商品化を保証する仕組みとしてはじまり、水産物では、大手生活用品メーカーのユニリーバとWWF(世界野生生物保護基金)の支援を得たMSCがデビュー(1997)。MSCは直前に制定された、FAO(国連食糧農業機関)による「責任ある漁業のための行動規範(Code of Conduct for Responsible Fisheries)1995」を踏まえた、認証制度として、消費者へのアピールを開始。 欧米を中心にエコラベルの普及が急速に進み、類似ラベルも乱立・急増しました。
発生の成り立ちから分かるように、エコラベルが、欧米の環境保護運動を基底にしたものであったため、水産業界の反応には、当初から冷めたものがあり、いまでもその感情を引きずっています。米国でもエコラベル認証費用の高額さと手続きの煩雑さを批判する声も少なくありません。欧米主導の審査基準に飽き足らなかった、日本では大日本水産会のもとに日本版エコラベルMELが2007年に発足するも普及には至らず。オリンピックを前に正式な国際認証機関のステータスを得るため、政官民があげて協力し2019年末にぎりぎりでGSSI認証を取得したことは、皆様ご承知の通りです。MELは後発ながら20魚種、138件の漁業・養殖業認証を実施。いま、欧米向け水産物の輸出に不可欠なツールとしての存在感を急速に高めています。
さて、この2年、世界はコロナ禍に翻弄されつつ「地球温暖化・脱炭素化」問題に直面しています。実際、現在の水産関係者の最大の関心は、海水温上昇によるとみられる「大不漁」の原因解明であり、資源変動の行方を探る基礎研究の充実です。分野横断的研究体制の再構築に向け、MEL協議会メンバーの持つ、多彩で豊富な技術・情報と大局的見識がものを言う、時が来たと期待しているこの頃です。

安成社長有難うございました。1972年の国連人間環境会議における「商業捕鯨10年間モラトリアム」採択は、当時捕鯨部員として当事者であった筆者にとって生涯忘れることの出来ない衝撃でした。でも、その出来事が引金となって筆者がMELの運営に関わることになると言う運命の不思議さを感じています。安成社長、今後とも「日本発、世界が認めるMEL」の大所高所からのご指導をよろしくお願いします。

5.審査員研修を行ないました

10月25-27日に新規審査養成プログラムを開催15名の受講者と3名のオブザーバーに参加いただきました。ようやく正常化した研修環境の中で開催出来ました。11月18-19日にはCPD研修を5名が参加の下、初めてリモート方式での研修会を開催しました。研修は、新規審査員養成等では対面での実施が原則とすべきですが、リモート開催も今回のようなCPDでは充分に効果的と受け止めました。


結果、審査員の体制は指定指導員17名、審査員29名、審査員補109名計155名(資格重複所有者を含む。また、コロナ禍のため2年毎に課されるCPD研修が受講出来ず資格が一停止されている方66名も含まれている)となりました。まだまだ審査員補が多い上、資格停止中の審査員の数を考えると、現在コンサル中54件、来年3月までに年次審査期限到来60件、更新審査期限到来6件への対応の体制は決して余裕があるとは言えません。引き続き研修実施に力を入れて参りますので、特に資格停止中の皆様には受講をお願いします。

6.MEL認証証書授与式が行なわれました

今月は認証証書授与式が2回開催されました。
11月1日に日本かつお・まぐろ漁業協同組合様の遠洋かつお一本釣り漁業(6月25日発効の11社22隻が対象)の漁業認証について、11月8日にジャパン・インターナショナル・シーフードショーの会場において漁業、養殖、CoC認証10社・団体(発効した順に日本水産、辻水産、ニチモウ、海光物産、広島水産、みやぎ生協、横濱食品サービス、福一漁業、山津水産、地御前漁協)が開催されました。

11月8日開催の授与式は、シーフードシー会場で行なわれたこともあり、シーフードショー主催者である大日本水産会から内海 和彦専務理事の祝辞、また折から視察中の水産庁漁政部企画課の河村 仁課長の参加もあり充実したセレモニーになりました。認証証書を授与されました皆様からもそれぞれの仕事を背景にした感動的とも言える内容の決意表明をいただきました。
認証証書を受け取られた皆様に心からお祝いを申し上げますとともに、様々な要因で苦しんでいる日本の水産業を元気にするため、ご一緒に行動したいと願っています。

7.規格委員会を開催致しました

11月15日に漁業、養殖合同規格委員会を開催しました。
認証数が150件となり、様々な審査の場面で発効している規格だけでは複雑化する事業に対応できない案件が発生しております。今回の規格委員会では

  1. 認証水産物と非認証水産物の混合に関し、現行の95%ルールに加え、刺身等の盛り合わせや海鮮丼等複数の水産物を使用する商品の組み合わせの表示に適用する細則追加を検討いただきました。
  2. 漁業認証において、資源水準の低下により認証の一時停止を発動する場合の手続きにおいて、情報、証拠提出の期間を、現行60日から1年に延長(水研機構等の公的機関の資源評価公表を考慮)

を検討いただきました。以上2件は規格委員会のご了承を得ましたので、11月30日の理事会に諮ります。

また近年、認証を取得した漁業協同組合の組合員である生産者が消費者に直接販売する等のケースが増えていることに鑑み、認証を取得した漁業協同組合が管理責任を果たすことを前提に、漁業・養殖認証の範疇の製品に限り(例えば殻付ホタテ貝、殻付きカキ等)MELロゴマークを付けて販売することを認めるものです。本件は規格委員会で了承されましたので、理事会に報告します。

8.イベント関連

11月8-10日に東京ビッグサイトで開催されましたジャパン・インターナショナル・シフードショーに出展しました。本年は3月の大阪シーフードショーに続き、主催者の大日本水産会のご配慮で「水産エコラベル認証コーナー」が設けられ、MELの他海外から参加のASMI、国内からはヨンキュウ、海光物産、山神(以上認証取得者)、ダイニチ(認証申請中)オカムラ食品工業の各社が出展されました。
MEL認証事業者の東町漁協、鹿屋市漁協、熊本県海水養殖漁協、愛南漁協、辻水産、徳島魚市場が意欲的な出展をされ賑わっておりました。

MELのブースではMELの活動報告の他認証取得者の商品を紹介に力を入

れ17社・団体の皆様から37の商品を出品いただきました。今秋11月1日~12月末の期間、MELの認知度向上のためにファミリーからの噴水効果を狙ってサンリオ様と提携し、人気キャラクター「シナモロール」を使った展示を企画しシーフードショーはその第一弾となりました。会場にシナモロールのライブキャラクターが登場し黒山の人だかりとなり大いに盛り上がりました。
また、イトーヨーカドー様のご協力で売り場を再現した展示を行ない、来場された小売、外食の皆様から認証承認の広がりに対し高い関心を持っていただきました。イトーヨーカ堂様にお礼申し上げますとともに皆様のビジネス拡大につなげたいと願っています。

 

明るいニュースが少ない中、MLBのMVPに満票で選ばれた大谷翔平選手と将棋界において最年少四冠達成を成し遂げた藤井聡太竜王の偉業に日本中が盛り上がりました。素直で謙虚な態度に好感が寄せられる中、才能豊かで伸び盛りの若い力の可能性に目を見張るばかりです。これからの日本が世界の中で存在感を発揮する上で、若者に期待すること大であります。
暦は小雪。「朔風葉を払う」いよいよ多難であった丑年の〆に向かいます。皆様とともに緊張感を持って悪い要素を追い払いたいと願っています。

 

以上