MELニュース2021年 10月 第43号

課題山積の中、100代目の総理大臣が誕生しました。満州事変発生から90年、太平洋戦争開戦から80年という節目にあたり、新総理に託す日本の将来を考える時、自らは何をしなければならないかについて自問自答しています。
先ずは批判より提案と行動を心がけます。
正しい仕事、信頼性の高さを売りにしてきた日本のモノつくりにおいて、大手企業でにわかに信じがたい認証の不正、検査の不正が繰り返し報道されています。認証制度が社会の信頼の上に成り立つだけにことの深刻さを感じます。MELも他山の石として皆様とともに気を引き締めたいと思います。

1. 国際標準化関連

MELのGSSI承認更新審査(MOCA)に関するパブコメ募集が終了し、 海外の 2 団体から計 15 件(漁業 11 件、養殖 4 件)のコメントをいただいたことを GSSI 事務局から連絡を受けました。現在、GSSI の事務局、審査員( IE)と連携して対応を進めています。今回の承認更新審査(MOCA)を通し、MELの諸規定および活動が国際標準に一歩ずつ近づいていることを感じます。 同時に、認証規格の厳格化に対する欧米の社会からの圧力の高まりは日本にとっても今後の大きな問題と受け止めています。 認証取得者の皆様には、MEL が掲げる「日本発の世界が認める水産エコラベルをつくる」に一層のご理解とご尽力を賜りますようお願い申上げます。

2. 認証状況

今月の認証は、漁業0件、養殖1件、CoC6件計7件でした。
特記事項としては、既にホームページでご報告しておりますが、福岡県宗
像漁協様のふぐはえ縄漁業がトラフグの資源回復の目処が立たないため、認証事業者の同意の下認証を終了しました。MELとして初めてのケースです。
折角認証を取得していただいたのも関わらず、お役に立てなかったことは誠に遺憾です。
広島県地御前漁協様のカキ養殖認証と取扱い事業者様のCoC認証が、カキとして初めて発効しました。貝類ではヤマトシジミ、ホッキ貝、ホタテ貝に続き4種目です。折からカキシーズン入りしたタイミングであり、MEL認証のカキとして存在感を高めていただきたいと願っています。
首都圏量販店のベンダーとして永年の実績がある横浜食品サービス様が直営の食堂の「横濱屋本舗」を含めCoC認証を取得されました。量販店の鮮魚および惣菜売場と連携した展開とともに認証が飲食へも拡がることを期待しています。直営の食堂では、早速ポスターでの告知とメニューにMELマーク表示を準備中と伺っております。

3. 認証取得者からのご報告

今月は三重県漁連の常務理事池田 忠弘様にお願いし湯浅雅人会長のメッセージを頂きました。三重県漁連様はMELの会員として「日本発世界が認めるエコラベル」を支えていただいており、あわせてMEL認証を取得された傘下の漁協や事業者とともに、自らもCoC認証をとられ、商品のマーケティング、商流、物流に積極的に関わっておられます。

「MELに期待すること」

三重県漁業協同組合連合
代表理事会長 湯 浅 雅 人

これからの時代を浜の皆さんとどう生き抜いていけばいいのか?
県内漁業者・養殖業者の皆さんを組合員とする漁業協同組合(単協)を会員とした組織である私達にとって、このことは目前の大きなテーマです。


まだ昭和の時代、三重県の沿岸は、リアス式で入り組んだ海岸線の特徴を生かした真珠養殖が隆盛を極めていました。その後県南部地域を中心にハマチ養殖が増加、平成に入る頃にはマダイ養殖へとその中心が移り、全国有数の生産量を誇るまでになりました。この間、経済・社会情勢がめまぐるしく変動する中で、本会「みえぎょれん」は、買取販売事業の強化、首都圏等大消費地への加工流通体制の整備などに注力し、浜の養殖業者の皆さんの発展と共にその仕組みづくりを行ってきました。時期を同じくし、全国的には生産量の増加等により、産地間の競合、価格競争が激化しながら盛衰を繰り返してきました。私達も流通事情VS生産現場のような、時に意見のぶつかり合いをしながら対応していく日々が続くこととなりました。
時代が進むにつれ、餌飼料は配合飼料へ、県外では大規模生産によるスケールメリットを生かした低コスト化や品質レベルアップも加速しています。そこで、漁師気質を残す組合員個々人の小規模経営体が主力である三重の養殖業は、品質の均一化や継続性を重視する需要においては、より難しい対応が求められるようになりました。浜の養殖業者は魚を育てるだけでなく魚がお金に変わらなければ、生活していくことはできません。三重県では私達の組織がその大きな役割を担うため、必然的に本会の対応そのものが浜の活性化や将来への舵取りを担うこととなり、近年では、その責務を果たすための体制強化が、増々重要となってきていると感じています。
こうした中、生産者組織と協働し、養殖業者個々と話し合いを重ね、彼らの販売希望スケジュールと流通販売状況を睨みながら、オリジナリティを追求して生産した“伊勢まだい”(2021.3 MEL認証取得)の取組みなどが生まれました。これは一般的な協業経営体とは異なり、養殖業者それぞれの経営意思を尊重しつつも、生産の基準や出口戦略を合わせた三重県型の新たな養殖業スタイルです。また、浜と協働したマーケットインスタイルの体制を生産現場の特徴に合わせ、様々な形で構築していかなければならないと考えるに至り、昨年度には、養殖業者とともにブリ養殖会社も立ち上げました。今後も実情に合わせて流通加工段階などのMEL認証取得も増やしていくつもりです。
私達が生産現場、加工、出荷そして販売に至るまでのプロセスでしっかりと責任を果たし、衛生管理、トレーサビリティの確保のみならず、資源や漁場の
持続的利用(私たちにとっては日常ですが)をきちんと一般にも理解いただくためには、客観化し発信できることが必要となります。MELはそのための重要な役割を果たしてくれるものであり、「日本発の世界が認める水産エコラベル“MEL”」の認証取得は、単にその水産品の認証というだけでなく、取組みそのものの評価に必要なものだと位置付けております。
MELには、このような浜の志の入った取組みを“認証”という形で、広く消費現場で認識いただく機会を増やし、国内はもとより世界に向かって自信をもって私達が浜を発信していける一助としてさらに大きな貢献をしていただきたいと切に願っております。そして、それこそが浜の未来への課題を克服できるものと確信しております。

湯浅会長素晴しいメッセージを有難うございました。浜とともに苦心して手作りされた「三重県モデル」と「浜の志がこもった取り組み」はとても感動的です。MELも微力ですが、ご一緒に日本の水産業のためにお役に立てることを願っています。

4. 関係者のコラム

国際的に活躍しておられる日本の水産資源経済の研究者であり、三陸地方
の漁業現場にも実学として深い関わりを持たれる岩手大学の石村学志先生に
資源経済の視点から「水産エコラベル」への助言をお願いしました。

「豊穣の海と持続的漁業認証」

岩手大学 農学部 資源経済・政策と数理資源研究室
石村 学志

日本工学アカデミーによる海洋テロワール1提言は、目指すべき海の将来像を「豊饒の海」とした。「五穀豊饒」が示すとおり、豊饒は大地が肥沃で農作物が豊かに実ることをいう。豊饒という言葉が示すのは、大地の肥沃さを使い果たし、荒れ地となる泡沫の豊かさではない。肥沃さを産み出す風土と調和した生産、そして、その調和に価値を見いだす人びとが暮らす社会があることだ。三島由紀夫の同名小説の印象が喚起されるのかもしれない。けれども、日本工学アカデミーが「豊饒の海」としたことは、大地を耕し国を豊かにしてきた、この国の歴史を海へと展開させゆく気概に溢れる。
科学は豊饒の海の可能性を指し示してきた。昨年12月、日本が積極的に参加する国際政府ハイレベル会合「持続可能な海洋経済」2は海洋資源の持続可能な開発目標(SDGs)14達成のための国際海洋合意を発表した。この合意の科学的柱が全球での生物経済分析による研究3と、その結果に基づく政策提言4である。この研究は科学に基づく水産資源量と最大持続生物生産量の推定を確立し、秩序ある持続的資源管理・利用を進めることで、2050年には海洋からの食料供給拡大とそれに伴う経済活動拡大が世界の食料・経済問題を解決してゆく可能性を提示した。2019年の同様の研究では、最大持続生物生産量推定による持続的資源利用が50年後に国内海洋食料生産量3割増加と3.5倍の利益を日本にもたらすとした5。科学は豊饒の海となる未来を指し示す。数字がそのまま未来となることはない、しかしここまで蓄積してきたデータと論
理から科学の羅針盤が指し示す未来への針路は、四方を海に囲まれた島嶼国日本にとって必然である。
豊饒の海は、風土が生み出す肥沃さと、生産活動の調和を前提とする。誰しもが、海と深く関わるのならば、その肥沃さへの可能性を感じるであろう。けれども、その肥沃さを求め一歩を踏み出すのならば、海の圧倒的な不可視性・不確実性がわれわれの行く手を阻む。
MELをはじめとする国際持続的漁業認証は、豊饒の海への海図であり、確証である。二つの研究は、豊饒の海への針路には、科学に基づく持続的資源管理と秩序ある持続的利用が必要であることを強調する。持続的漁業認証は、対象漁業の資源管理が科学的に成されているのか、さらに、これまでの資源利用が持続的であるのかを基準に認証される。科学の進歩により海洋や水産資源についての理解が進めば、持続的漁業認証はその基準をアップデートすることで、常に科学と歩を合わせる。認証取得を目指すことは豊饒の海への海図を、認証取得は漁業者のみならず豊饒の海を求めるすべての人びとにとっての確証となる。海洋の圧倒的な不可視性・不確実性のうちに、持続的認証は豊饒の海への道標となる。
これから数十年、数百年、たとえ社会が、どのように変わろうとも、この地に人びとが暮らすのなら、この国は海に囲まれ、確かに存在する。その海は、豊饒の海と呼ばれているのだろうか。 未来への針路を決めるのは、今ここに生きる私たちだ。豊饒の海への道程に、持続的漁業認証が果たす役割と責任は大きい。


1 https://www.eaj.or.jp/?p=6710
2 http://oceanpanel.org/
3 https://www.nature.com/articles/s41586-020-2616-y
4 https://www.oceanpanel.org/blue-papers/
5 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308597X18309333

石村先生有難うございました。今、「豊穣の海」が危機にさらされる中、人々
の豊穣への願いを取り戻すためにMELが些かでも貢献出来る様、認証を取得
された皆様と一緒に更なる努力を積み重ねます。

5. MELロゴ付秋サケ切り身が初めて店頭化されました

(株)マルイチ産商様のCoC認証取得によりサプライチェーンが完成し、ようやくMELロゴ付北海道漁連様の秋サケ切り身がイトーヨーカドーの関東のお店に並びました。

6. イベント関連

  1. 「大丸有SDGsACT5実行委員会」主催のイベント「SUSTABLE」―「食」
    従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす―に東町漁協長元信男
    組合長とご一緒に参加しました。
    会場に30名、ウェブ参加70名の小規模イベントでしたが、MELのプレ
    ゼンテーションに続き、長元組合長、三上奈緒シェフ、垣添の3人のトークショウ、三上シェフによる「鰤王」の料理の試食でとても良い雰囲気のイベントでした。参加者は大手町、丸の内、有楽町に事業所がある企業とご関係があると思われる皆様で、しっかりノートをとられる姿がとても印象に残りました。発言や質問も的を得たものばかりで、日本も着実に消費者参加型の社会が出来上がりつつあることを肌で感じました。オンラインでご覧になった方々からも好意的な反応が届いており、この様な機会を通しMEL認証商品に対する消費者の認知がより高まって行くとすれば嬉しい限りです。
    MEL認証を取り上げいただいたご関係の方々はじめご尽力いただいた皆様に深謝申上げます。
  2. 「東京サステナブルシーフード・サミット2021(TSSS2021)」が「ブルーエ
    コノミー2030年へのロードマップ」をテーマに、10月11~13日Web開催
    されました。本年はMELの登壇はありませんでしたが、主催者のシーフード
    レガシー様からお招きをいただきオンライン参加しました。
    プログラムが水産資源への目線からブルーエコノミー:水産経済、サステナブルファイナンス:金融等の新しい方向に拡がりつつあることが印象的でした。サステナビリティへの関心の拡がりが行動につながり、更には気候変動への取り組みや人権問題をも取り込み、社会を大きく動かしていることを実感するイベントでした。多彩な登壇者から、多様な提案や意見がありましたが、「サステナビリティはコストであるが、健康な海と産業をつくるための投資である」が共有され、水産業の枠を大きく越えて社会的責任を追及する時代到来を予感する
    3日間でした。
    関係者の皆様お疲れ様でした。益々のご発展をお祈りします。

10月2-3日に第40回全国豊かな海づくり大会―食材王国みやぎ大会―が石巻で開催されました。昨年の開催予定をコロナ禍でスライドした大会で抑え気味のイベントながら、海を守る、資源を守るコトへの関係者の熱い思いが伝わりました。
道東のサケやウニに被害を及ぼしている赤潮は、原因となるプランクトンは冷水性のカレニア・セリフォルミスと報道されていますが、かつて西日本で養殖に甚大な被害を及ぼしたカレニア・ミキモトイも確認されている様で、地球温暖化の影響と考えると恐ろしくなります。ノーベル物理学賞受賞が決まった真鍋淑郎先生が1967年にすでに炭酸ガスの温室効果の予測をしておられたにもかかわらず、人類が対応に動き出すのに更に四半世紀を要した歴史に考えさせられています。

緊急事態宣言や蔓延防止措置が解除され、街もマーケットも、何より人々の動きに勢いが感じられる様になりました。最大の商機の暮れに向けてしっかりと準備をされることをお祈りします。

以上