MELニュース2021年 9月 第42号

9月の声と共に各地で休漁していた漁業が解禁され秋のシーズンに入りました。今のところ漁模様はまちまちの様ですが、季節にふさわしい漁況となることを願っています。
また秋はイベントのシーズンですが、計画されていた企画は緊急事態宣言が延長となり次々先送りされています。その分明日への布石が遅れることを心配していますが、日常を取り戻すまでまだまだ我慢が要りそうです。

1.国際標準化関連

GSSIベンチマーク委員会のMELの承認継続推薦が決定され、パブコメ募集が開始されました。MELと関係の皆様による改善への取り組みが評価されたと受け止めています。今後、いただいたコメントに対するIEのレビューを経て11月中旬に再度ベンチマーク委員会が開催され、理事会に付議されるという流れです。まだ予断は許しませんが、昨年12月の承認継続審査(MOCA)開始から1年の息の長い取り組みにようやく先が見えて来ました。
かねてご報告しております、MELとアラスカRFMのスキームオーナーでありますCSCとの間のCoC認証の国際相互承認について9月14日にWeb会議を行ない、実現に向け着実に前進を続けております。

2.認証状況

今月の認証は漁業1件、CoC4件の計5件の予定です。
今月の特記事項としては、みやぎ生協様がコープ宮城、コープ福島の本部および61店舗でMEL漁業認証のカツオ、ビンナガの加工、小売りにおいてCoC認証を取得されました。みやぎ生協様の取得により、漁業から中央市場卸を経由して店舗までのMEL認証のサプライチェーンが完成しました。
また、生活協同組合の単協としては初めてのMEL認証の取得であり、今後更なる拡がりを期待しております。

3.認証取得者からのご報告

今月は、6月に所属の遠洋かつお一本釣り漁業の22隻が認証を取得された日本かつお・まぐろ漁業協同組合の香川理事長にお願いしました。

「遠洋かつお一本釣り漁業の新MEL漁業認証取得について」

 日本かつおまぐろ漁業協同組合
代表理事組合長 香川 謙二

 漁業を取り巻く環境は、漁業者の高齢化、漁労経費の高騰や新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況にあります。
日本かつお・まぐろ漁業協同組合は、北は青森から南は鹿児島まで全国一円の遠洋かつお・まぐろ漁業者により構成され、乗組員確保対策、かつお・まぐろ資源対策、代船建造対策、かつお釣り漁業対策などの取り組みを全国規模で活動している漁業協同組合です。
MELの漁業認証につきましては、遠洋かつお一本釣り漁業者の要請を受け、旧MELの漁業認証を2015年12月に取得してこれまで継続させ、GSSIから世界基準で承認された新MELの漁業認証(遠洋かつお一本釣り船22隻)を2021年6月に取得しました。SDGsという環境下において、資源の維持が可能な漁法と認められたことは大きな価値があると考えています。これにより、対象魚の付加価値向上と消費が一層拡大されることを目指し、関係機関とも連携してカツオ、ビンナガの消費拡大に取り組んで参ります。

遠洋かつお一本釣り漁業の漁獲物は主に今回漁業認証を受けたカツオとビンナガです。釣り上げてすぐにー20℃のブライン液で急速凍結を行い、―45℃以下の魚艙で冷凍保存されるため、釣り上げた状態の鮮度を保ちます。凍結方法はブライン凍結ですが、ブライン液をー20℃に冷却し、魚を凍結倉に投入してもー15℃より温度を上げないように温度管理し、凍結度合の均一化等のために筒状の投入機を通すなど厳しい基準をクリアしたものがB-1(ブライン凍結一級品)製品と呼ばれ、解凍して刺身やタタキにすると鮮度が優れ、色や食味が生鮮品に勝るとも劣らない商品になるとして、市場からも高い評価を得ています。
B-1製品のほかに、S-1製品(脱血カツオ)も製造しています。カツオは独特のカツオ臭さがあり、大半の消費者は好むにおいですが、中にはカツオ臭さが苦手な消費者もいらっしゃいます。S-1製品は、凍結する前に血抜きをすることでカツオ独特のにおいを薄めた製品として、カツオ臭さが苦手な消費者にも食べてもらいたいとの思いで製品化しています。
世界基準で認証された資源に優しい漁法、また鮮度抜群の遠洋かつお一本釣り漁船が漁獲したB-1製品やS-1製品のカツオ、ビンナガを美味しくいただいて下さい。

香川組合長どうも有難うございました。遠洋一本釣りカツオはMEL漁業認証に於いて、北海道の秋サケと共に最大の規模の魚種です。これで漁業から加工・流通までMEL認証でつながりました。これを機に鮮度抜群のカツオとビンナガがタタキや刺身に加工され業務用は勿論、消費者の皆様の日常の生活を豊かにしていただくことを期待しております。

4.関係者のコラム

今月はMEL協議会の理事をお務めいただいております(株)極洋の井上 誠 社長にお願いし、総合水産会社から見た世界のサステナビリティ観をお話いただきました。

「日本発のエコラベルへの期待」

(株)極洋 代表取締役社長 井上 誠

 「魚を中心とした総合食品会社」であるキョクヨーグループにとって、水産物の主要な供給源である海洋環境や資源に関する取り組みは、事業基盤の維持という観点から、とても重要です。
その考えのもと、当社は、2017年4月、「海洋管理のための水産事業:SeaBOS (Seafood Business for Ocean Stewardship)」に参加し、世界の水産企業のトップや科学者と共に、科学に基づいたアプローチで「持続可能な水産業と健康な海洋の実現」に向け取り組んでいます。

このイニシアチブでは、「IUU漁業や強制労働の排除」、「各国政府との協働」、「水産養殖業における抗生物質の使用削減」、「海洋プラスチック問題」など、水産業に関連する様々な課題解決に向けた議論が行われており、毎年開催されるキーストーンダイアログでは、参加各社のトップが出席し、具体的な目標や達成に向けた行動が決定されています。
メンバー各社は、皆、同じ目的を果たすため、SeaBOSとして課題解決に取り組んでいますが、水産企業と言っても、その業容や事業を展開する国・地域は様々で、考え方も異なります。
2018年以来、3回にわたるキーストーンダイアログに参加して感じたことは、ヨーロッパの企業と日本企業は、取り組み方、つまり、①目標の設定の仕方、②アプローチ、③行動のスピードに大きな違いがあることです。これは、文化の違いが大きく関係していると感じています。
日本企業は、できることから一つ一つ、じっくりと話し合いを重ね、様々なことを考慮しつつ、大きな目標を達成する傾向がありますが、欧米企業は、野心的で壮大な目標を掲げ、アプローチについては画一的な方法を設定することが多く、行動のスピード感は、日本企業より格段に速い感があります。
また、環境問題への関心の高さにも違いを感じています。それぞれの国の政策や文化に因るのかもしれませんが、「教育」に違いがあると思います。
このような状況下で、共通の目標を達成し、合意を形成するには、それぞれが置かれた状況や文化的背景の違いを認識・理解し、様々な考え方を尊重して議論に臨む必要性を感じます。
これらの認識や理解と、多様性尊重の重要性は、海のエコラベルについても当てはまるのではないでしょうか。漁業や水産養殖は世界の様々な地域で行われるため、世界に通じるエコラベルには、水産資源の持続可能な利用や生物多様性の保全、健全な海を次世代につなぐ、といった目的だけでなく、それぞれの地域の対象魚種や漁法、事業規模など、あらゆる事情を考慮し、多様性を尊重したアプローチが求められるものと思います。
欧米に比べると、日本における“海のエコラベル”の認知度は、まだ高いとは言えません。が、Z世代をはじめ、学校で地球環境や持続可能な社会に関する教育を受けた日本の若年層は、「環境」や「エシカル消費」に関する意識が高く、「エコラベル」への関心も高いと期待が持てます。
あと5年、10年も経つと、彼らの世代が社会・経済活動に大きな役割を果たすようになり、社会全体の意識が変わり、エコラベルが広く浸透していくと思います。そして、彼らが持続可能な日本の水産モデルや、魚食文化を世界へ発信してくれると信じています。

井上社長有難うございました。理事会に於いてもいつも元気を頂いておりますが、今回お話はSeaBOSを舞台に井上社長が体感しておられる国際的な感覚であり、日頃GSSIを通し海外とやり合っているMEL事務局一同にとってとても動機づけられました。今後ともご指導、ご支援をどうかよろしくお願い申上げます。

5.イベント関連

①2021ツナグ!芝公園-SDGs村-

毎年大日本水産会の枠で出展しておりますが、今年は緊急事態宣言下でもあり8月23日に企画を縮小しての開催になりました。それでも芝公園に来園された方にMELを訴えました。

夜には背景の東京タワーがきれいにライトアップされました

②選ぶ、食べる、サステナブル展

農水省、消費者庁、環境省が連携して推進する「あふの環2030プロジェクト」の一環として東京北青山のITOCHU SDGs STUDIOで「持続性重視のお買い物」をテーマに開催されている「選ぶ、食べる、サステナブル展」に出展しております。

MELは「あふの環2030プロジェクト」のメンバーであり、今回はNTTデータ様よりカフェスペースにテーブルを一つ割り当ててだき日頃の活動の紹介をしております。この種のイベントが一般の来場者にとってサステナビリティを体感できる展示に進化していることを感じます。



③大丸有SDGs-ACT5に参加します

大手町、丸の内、有楽町の拠点を置く企業が連携してSDGSの目標実現に向け、サステナブルな行動を起こそう!をテーマに展開されるイベントの「サステナブルな食」の企画に参加します。

三菱地所様、日経新聞グループ様、農林中金様が中心となり実施される息の長いイベントですが、今回はMEL認証を取り上げていただき、ファシリテーターNINOの進行でMEL(垣添)と生産者(東町漁協の長元組合長)、シェフ(三上奈緒)がMEL認証された食材の背景や想い、美味しさを語り、未来の食卓につなげたいというトークセッションです。会場に参加される皆様には三上シェフの「鰤王」料理が試食いただけます。

10月4日(月)18:30~20:00会場となる「MY Shokudo Hall&Kichen(常盤橋タワー3F)」は既に予約で埋まっておりますが、ZOOM参加可能です。

 

申し込みは   (https://peatix.com/sales/event/2868086/tickets)からお願いします。

このところ「フードテック」という言葉が盛んにメディアに登場する様になりました。フードテックとは「最新の技術を使って新しい食品や利用法・調理法を開発すること」を指しています。起業家から大手の食品企業、外食企業、家電メーカーまでが参加し、今話題の植物肉から培養肉、あるいはスマート調理家電等々その領域を拡げています。既に、2020年10月には「フードテック官民協議会」が産官学の関係者により設立されており、今後も様々な話題を振りまくことと思います。水産の世界でも、ゲノム編集魚、陸上養殖、培養魚肉等の実用化が進められており、決して他所のことではありません。

筆者は、かねてよりこの現象を「食の創造的破壊=イノベーション」と捉え、ITやAIを駆使する時代に前向きに対応することを提言しています。変化は脅威であるとともにチャンスです。ご一緒に挑戦したいと思います。

日一日と秋が深まります。皆様のご健勝とご活躍をお祈り申上げます。

以上