MELニュース2021年 2月 第35号

2月13日の夜半、福島県沖を震源地とする震度6強の地震が発生しました。10年前の東日本大震災を思い出させる激しい揺れであったとの現地のTV中継報道でした。震源地に近い福島県相馬地区の水産関係設備に相当な被害が出ているとのことですが、ご関係の皆様に心からお見舞いを申し上げます。
また、地震に追い打ちをかけた初春の爆弾低気圧もコロナで苦しむ人々に様々なマイナス影響をもたらし、自然の猛威を感じさせました。
2月に入ってコロナの新規陽性者の数は減少していますが、MEL事務局は、スタッフ交代でオフィスと在宅勤務を組み合わせながら出勤7割削減という緊急事態の要請に対応しています。今のところ、皆様からのお問い合わせも頻繁にあり、厳しい環境の下でも水産エコラベルは着実に前に向かっていると受け止めています。

1.国際標準化関連

欧米におけるコロナの感染拡大はGSSIによるMELの継続審査(MOCA)
にも重い陰を落しており、全ての業務が遅延しております。先月号でご報告し
ましたGSSIの審査員による審査報告と事務局によるチェック、ベンチマーク
委員会での検討は進まず、本日(2月25日)現在未だパブリックコメント募集
に入れない状態です。MEL事務局としては、審査の遅れによる実害が認証取
得者に及ぶことはないと認識しておりますので、GSSIからの要求に対応す
る待ちの姿勢で臨んでいます。

2.認証関連

今月の認証は漁業1件、養殖4件、CoC1件 の計6件でした。
漁業において日本海かにかご漁業協会様のべにずわいがに漁業が認証されました。取得しておられた旧MEL認証は一旦失効しましたが、改めて新MEL 認証を申請、認証された初めてのケースとなりました。日本海が国際政治に弄ばれる中ではありますが、日本にとって、また地域にとって漁業だけでなく
加工・流通や観光においても重要なベニズワイガニの事業が安定して持続され、地域の活性化に資すること期待しております。

3.規格委員会を開催しました

1月18日に規格委員会を対面、オンライン併用で開催しました。
今回の委員会での審議はいずれも養殖認証に関する案件で
① 中間種苗の取り扱い
② 認証単位にかかる指針の設定
③ モイストペレットの取り扱い
稚魚、仔魚ではなく中間魚を調達し飼育するケースの実態把握と規格反映への方向性について有識者の意見を伺いました。マルチサイト認証および団体認証の審査において、内部監査を行う仕組みと実施責任を持つことを求め、また審査サンプル数判断の合理的根拠にも適用したいと考えています。また、モイストペレットに関しては、日本の養殖の実情を鑑みつつ、かつ環境への配慮を意識した上で、使用の目的、基準を整理することを目的としています。
以上につき、再度詳細整理し、3月の理事会において審議、承認いただいた上で、それぞれ規格、判定基準、審査シートに反映させる準備をします。

4.認証取得のための講習会開催

コロナで実施が先送りとなっていました「MEL認証取得に関する講習会」をオンライン方式で実施しました。2月8日岩手県、2月9日香川県いずれも行政が推進役を務めていただき、初めてのオンライン開催でしたが活発に意見が出る盛会でした。行政始め関係の皆様に深謝申し上げます。
岩手県、香川県とも現時点でのMEL認証取得者は1社・団体(岩手県は田老町漁協様のワカメ養殖・CoC、香川県は服部水産様のブリ・カンパチ養殖)のみで、今後の拡がりに期待したいと思います。

5.審査員研修

2月1~2日に審査員研修(CPD:既に審査員の資格をお持ちの皆様に対す
る専門能力の維持・向上・開発いただくためのプログラム)をこの様な時期で
はありますがオンラインではなく敢て対面形式で行いました。
ISO研修の専門家として審査員研修の運営チームのコアとなっていただい
ている(株)テクノファの青木恒享社長をもって、今までのMEL審査員研修の中で最もハイレベルであったと言わしめた引き締った研修でした。感染防止に苦慮するところですが、反面、活発に行われる講師と受講者間の突っ込んだ意見交換や受講者同士の交流、情報交換等は、日頃各地で独立して活動しておられる審査員の皆様にとり対面ならでは効用ではなかったかと思います。
次回は3月15~16日の日程で開催予定です。

6.日本養魚飼料協会との情報交換会を開催しました

2月9日に(一社)日本養魚飼料協会(八幡幸二理事長、会員企業12社、年間生産量44万t)の役員の皆様との情報交換会をオンラインで開催しました。農水省から「養殖業成長産業化総合戦略」が公表され、また2030年の水産物輸出目標が1兆2000億円に設定される等養殖業への期待が高まる中で、国の政策実現のカギを握る養魚飼料業界に対しMELがどうお役に立てるかを内々で議論をしておりました。
当日はMEL協議会事務局の素案をたたき台に、専門部会の委員であります
東京海洋大学の舞田正志先生にも参加いただき、養魚飼料をMEL認証の対象
にすることについて議論をしました。今後、行政のご指導をいただきながら、
養殖事業者や養魚飼料の原料となるフィッシュミール業界の皆様とも議論を
重ね、日本の養殖業の活性化につなげる道を模索したいと願っています。

7.認証取得者からのご報告

今月は、2020年12月15日に認証発効となり、旧MELから新MELへの移行の第1号になられた十三漁協の工藤 伍郎組合長にお願いしました。

「シジミと共に生きる」

十三漁業協同組合 組合長 工藤 伍郎

漁業を取り巻く環境は、漁業者の高齢化、環境の変化による水揚げの減少等、厳しい環境が続いております。そんな中、新型コロナウイルスの影響で様々なものが停止状態となり、飲食業界においては、深刻な影響が出でおります。

当漁協においては、主力であります、しじみの水揚げは、春先の不漁により数量は、1昨年より約260トン減少しましたが、金額については、輸入物の停滞により国内需要が高まり、高値で推移したことで、黒字決算となることができました。

新型コロナウイルスの収束に伴い、物流が正常化した際には輸入が復活し、単価の下落が懸念されることから、昨年、MEL V-2を取得して付加価値をつけるとともに、1年延期となりましたが、東京オリンピック選手村への食材提供に期待しているところであります。しかし、残念ながら一般的にはMEL認証の認知度かなり低いと感じます。

今後は、持続可能な漁業をアピールしつつ、これまで以上、しじみの資源管理に取り組んで参りたいと思っております。

工藤組合長有難うございました。今後も十三湖の生態系と資源を守りなが
ら持続可能なシジミ漁を続けて下さい。日本の水産業の多様性を守る模範的
な実践者として益々のご活躍を期待しております。また、MELもお役に立てる様、認知度向上に取組んで参ります。

8.関係者のコラム

 今月は、MEL審査員研修においてISOのルールに沿って、審査の質を高め
るための中心的役割を担っていただいております(株)テクノファの青木恒享社長に、審査の現場のお話をお願いしました。

「緊張」

(株)テクノファ 代表取締役 青木 恒享

 研修機関である株式会社テクノファで代表を務めております青木と申します。

弊社はISO 9001等の審査員、内部監査員養成研修を長らく行ってきている会社ですが、縁あって3年ほど前よりMEL協議会さんのお仕事をお手伝いさせていただいております。
日本で最も早い段階でISO 9001の審査員研修コースを立ち上げた会社として、
単に研修事業の提供だけでなく、新規スキームの立ち上げの際にお手伝いをさせて頂くこともあることもあって、新MELスキームの
GSSI承認申請の準備段階に、研修内容のリニューアルにかかる参画をさせて頂きました。

さて、今回は実施している研修の内容ということではなく、審査の現場にお
ける「緊張感」ということについてお話をさせて頂きたいと思います。
本ニュ-スをお読みの方は、MEL審査を受けられる立場の方もいらっしゃれば、審査をされる側の方もいらっしゃると思っております。釈迦に説法の部分もあろうかとは思いますが、初心に立ち返ってより良い業務運営、そして審査業務の改善につながる何らかのヒントになれば幸いです。

本題に入りますが、審査の場面における緊張、というのは審査を受ける方はもちろんですが、審査をする側の方にとってもあるものです。お互いが良い意味での緊張感を保って審査が行われれば、両者にとって準備段階から含めて貴重な時間を使ってきた価値を感じることができるでしょう。
まずは審査を受ける側にとっての緊張感からお話します。

人間だれしも初めてのことを経験する際には大なり小なり緊張するものです。初めて審査を受ける組織の方々にとっては、審査とはどのように進んでいくのだろうか、そもそも審査員とはどのような方がお越しになるのだろうか、いろいろ厳しく指摘をされてしまうのかな、と現場の方々のみならず場合によっては経営者であっても緊張を感じるものです。
2回目以降の審査になればその緊張感はだいぶ和らぎますが、それでも今年も無事審査が終わるかな、という不安は誰もが感じていることのはずです。
その緊張を減らすには、当日では少々対応が遅すぎる、ということになってしまいますので、前日までにとにかくしっかりと、自分たちの考えられる範囲で準備をするしかありません。審査はあくまで基準に対してできているかどうかを判定する場ですから、その基準をしっかり読み込んで、自社の取り組みとしてできているのかどうかを、自信をもって答えられるようにしておけば、審査当日は何も臆することはありません。そこまで準備ができれば緊張する度合いも相当に小さくなるでしょう。もちろんすでに審査を受けたことがある他社の方に状況を聞く、などのことも行っておくに越したことはありません。ですがそれらは補足の対処であり、大事なことは日頃の取り組みです。基準、手順を理解し、その通りに日々の業務遂行ができていれば大丈夫だ、ということを経営者の方が確信し、社員の皆さんを導いてあげていただきたいと思います。
一方で、審査員の方にとっての緊張とは何でしょうか。これは組織の方とは少々視点が異なります。
ある程度の経験を積んだリーダー審査員の方であれば、初回審査であってもその後の年次審査であっても場面、相手などが違えど大きく緊張する、ということはあまりないでしょう。リーダー審査員が緊張でがちがちに固まっていたら審査業務がスムースに進まずにかえって困ってしまいますから。
従って、審査員の方にとっては、緊張は無縁、と申し上げたいところですが、そこには一つ落とし穴があることにお気を付けいただきたいのです。
緊張がなさすぎることによるリスクです。審査は堅苦しい言い方をすれば、毎回、リーダー審査員と組織の経営者の真剣勝負であってほしいのです。その真剣勝負の中に審査の価値を高める、指摘事項ではなくても経営に付加価値を与える刺激がふんだんに盛り込まれている審査が理想の審査ではないでしょうか。もちろんこれは言うは易し、行うは難し、の典型例でしょう。ですが特に年次審査で前回も自分が担当した組織への再訪問であれば、前回から今回への変化、そして進化(深化も含め)がどのようにあったかを相手の経営者から、その方の1年間の経営のかじ取りの成果としてしっかり見て、感じて、そして受け止めたうえで、フィードバックする場として審査の場を活用していただきたいのです。

筆者自身、MEL審査とはかなり異なりますが、毎年審査を受け、トップインタビューの場に臨みます。その内容についての論評はここでは控えさせていただきますが、少なくとも筆者自身は上述の気持ちで、その審査現場に着席しているつもりです。
だいぶ長くなってしまいました。ここまでお読みいただきありがとうございます。審査の現場における「緊張」。拙文でどれほど皆様にご理解をいただけたか一抹の不安もありますが、紙面が尽きてしまいました。
機会があれば補足の説明はいつでもさせて頂きます。
関係者の皆様が良い緊張感を常に保ったうえで業務に邁進される姿を拝見できることを楽しみにしております。研修の場でお目にかかった際には引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

青木社長有難うございました。ISOの研修と水産エコラベルの研修は目標とするところは一緒で、ルールに沿った正しい仕事をすることが結局自らと社会の持続可能性を担保し、産業と生活を結ぶ架け橋への信頼をより確かにする、でもそこには様々な苦労が存在することを認識しました。

 

 

コロナ禍や度重なる天災の中でも、季節は「東風解凍(春風氷を解く)」から「霞始靆(霞始めてたなびく)」へと移り春は一歩一歩近づいています。
様々な問題を抱えながら、ワクチンの接種も始まりました。マスクは外せなくとも、安心して出歩ける日が待ち遠しく感じられます。MEL事務局の店頭観察では、コロナによる内食需要の高まりに応えるため、認証取得者の皆様が小売業に積極的に仕掛け認証商品を店頭で販促する動きが広がり始めています。小売業の認証取得が更に進みこの動きが加速することを期待しております。

以上