MELニュース2020年 8月 第29号

2020年8月 第29号

 各地に甚大な被害をもたらした長梅雨は、インド洋の高水温が引き起している地球規模の気候変動が原因とされています。降雨量も半端でなく、治水と災害対応について考え方を根本から見直すことを関係者と国民に迫っています。
本来であれば、オリンピック、パラリンピックで盛り上がっていた筈の8月が暑気払いも出来ない誠に元気の出ない夏になってしまいました。
加えて季節が到来したサンマも、記録的不漁に終わった昨年に輪をかけたこれまた元気の出ないスタートになっています。太平洋側マイワシ等の豊漁は良いニュースとしても、季節の食卓を飾る魚がないのは寂しい限りです。
一人ひとりの我慢が最も確かなコロナ対策と達観して、自粛、自衛にじっと耐えるしかないのでしょうか?

1.GSSI関連

MOCA(GSSIによる承認継続の審査)への準備を粛々と進めています。今のところイメージしている流れで進んでいると認識しています。GSSIの年次報告2019によりますと、昨年(2019年)にMSC、アラスカRFM、BAP、アイスランドRFM、グローバルGAPの5スキームがMOCAの審査を終了しており、MELはこれ等に続くことになります。
一方、GSSIが力を入れているSOAG(Scheme Owner Advisory Group:承認された9つのスキームオーナーにより構成されるGSSI運営全般にわたる協議・協働機関)もWeb会議を通して議論が活発になっています。
6月に行なわれたGSSIのグローバル・ベンチマーク・ツ-ル改定案(Ver2.0)に対するパブコメは、世界中から計110件を超えるコメントが寄せられたと承知しております。その中で最も多かったのは養殖に関するコメントで全体の半分近くを占めた様です。FAOのガイドラインに養殖が加わったのは2011年と漁業から遅れたことも原因のひとつと思われますが、何より養殖が世界で重要産業となっていることを示していると受け止めています。これから寒流系の養殖と暖流系の養殖の様々な面でのせめぎ合いが始まることを予感します。
MEL協議会から提出しましたガバナンスに関する2点と、養殖に関する

  1. モイストペレットを生餌の範疇ではなく成型飼料(Formulated feed)として取扱うことを明示する、
  2. 養殖対象魚と同種同属の給餌禁止に関し科学的根拠を明示する、
    についてGSSIに承認されたスキームオーナーの立場(SOAGの一員として)でGSSI事務局および専門家とやりとりを続けています。専門部会の先生方の支援をいただき、MEL協議会の主張の理論固めとともに日本の養殖業の現状を強く主張をしています。

2.認証関連

今月の認証は、漁業0件、養殖2件、CoC 1件で計3件とで認証件数は振るいませんでした。

7月29-30日にMEL審査員スキルアップ研修を行いしました。この研修は専門的にはCPD(Continuing Professional Development) と位置づけられ、既に審査員資格をお持ち皆様に対する専門能力の維持・向上・開発のためのプログラムです。今回からMEL協議会が主催する本来の姿になり、専門委員の先生方、テクノファ様および日水資様のお力をお借りして一段と内容を充実させています。一部リモート講義を行ないましたが、主力はテクノファ様の講義室をお借りし、ソーシャルディスタンスを確保の上実施しました。

朝9時から午後9時までのぎっちり詰まったメニューに加え、各講座終了毎に試験が行われる厳しいスケジュールでしたが、最新の状況を国際標準化されたMELの審査員の皆様と共有することが出来、質の高い講習会であったと評価しています。今後も更なる努力を重ねます。コロナ禍にもかかわらず参加いただいた受講者はじめ関係者の皆様にお礼申し上げます。

旧MELの漁業認証取得者である由比港漁協、大井川港漁協の駿河湾さくらえび2艘船引き網漁業は新MEL認証への移行の審査中でありましたが、5月に自主規制で決めている禁漁区での操業が新聞等で報道され、審査機関が事実を調査した結果報道の通りであったことが確認されました。

漁業者が、長年にわたり地元社会や行政、研究機関の支援を得ながら資源の自主管理をして来た模範例だけに、何故この様なことが起きたか割切れない気持ちで一杯です。さくらえびの不漁は、静岡新聞の取材班により「サクラエビ異変」として2019年から継続して追いかけられており、実態と理念の両面から報道されています。静岡新聞は地元紙だけに、単なる報道ではなく地域全体の問題として取上げ掘り下げた内容となっています。その一部を許可を得て転載しましたが、持続可能性への貴重な示唆を感じます。

新MELへの移行審査は、審査機関である日水資により継続中でありますが、上述の調査結果が審査に反映されると理解しております。
MEL協議会は、漁業者の自主管理による「予防的アプローチ及び順応的管理」の有効性をもって、資源水準にもかかわらず認証(旧MEL)を継続して来た漁業と認識しており、スキームオーナーとして認証に対し今後どの様な対応をとるべきか改めて有識者に加わっていただき議論の場を持つことを準備中です。

3.意見交換会

7月20日にいわき市で、認証の活用に熱心に動いておられる福島県の県漁連及び行政の皆様と意見交換会を持ちました。
現在、福島県で認証されているのは
新MEL 漁業認証1件、流通加工認証2件
旧MEL 漁業認証13件、流通加工認証4件
ですが、まき網のカツオ及び船曳き網のシラスが新MEL認証申請を準備です。
関連したCoCはカツオは焼津の缶詰会社を、シラスは相馬および大津の事業者が認証を取得しサプライチェーンに参加する計画を進めておられます。

底引き網漁業の対象魚であり、かつ「常磐もの」としてブランド価値が高いヒラメ、ヤナギムシカレイ等については認証の取得をしたいが、資源状態よりむしろ環境保全
(着底トロールによる海底環境への影響)を考慮し、研究者の支援をいただき検討を継続することとしました。

4.水産エコラベル推進に関する行政の動き

水産庁の中で水産エコラベルを担当される漁政部企画課より、7月末に都道府県の担当部署に対し水産エコラベル推進に関する事務連絡が発信されまた。
水産エコラベルの普及推進に関する行政の事業メニューが拡がっており、
事業者の皆様への拡充内容の周知、取組の推進等を依頼する内容となっています。
「推進のためのメニュー」として取上げられているのは以下の通りです。
① 水産エコラベル認証取得に向けたコンサルティングの実施を支援。
② 儲かる漁業の実施にかかる漁業改革推進集中プロジェクト運営事業における改革計画の認定に当り、先進的な資源管理の取り組み事例として「水産エコラベルの取得」を位置づけ。
③ 都道府県が水産業普及指導員を育成する計画のメニューとして、水産エコラベルの取組の推進を追記。
④ 浜の活力再生・成長促進交付金のうち、ハード事業への交付配分にかかるポイントの加点対象として「水産エコラベルの普及推進に資するもの」を追加。
⑤ 浜の活力再生・成長促進交付金のうち、資源増殖目標について養殖生産工程の管理に関する実施要領に水産エコラベルに関する要件を追加。
水産業の現場の改革における水産エコラベルの活用が強く意識されています。MEL協議会として、行政のこの様な前向きな動きにお礼を申上げますとともに、連動して関係者と共により成果につながる様行動します。

5.認証取得者からの報告

今月は3月に小売業で初めてMELのCoC認証を取得され、4月から店頭で積極的にMELロゴ付商品を販売していただいて居りますイトーヨーカ堂のマルシェ部総括マネージャー井上浩一様に小売業としての受け止めと消費者の反応等につきご報告いただきました。

流通から見た「マリン・エコラベル」について

(株)イトーヨーカ堂
マルシェ部総括マネージャー 井上 浩一

この度、大手小売りとして初の MELのCoC 認証を取得出来た事は会社内及びグループ内の鮮魚関係各部、また水産業界内の「環境部署」に関る方々からは評価や 称賛の声も頂くのですが、弊社内の他部署や水産各社の営業窓口や市場担当者等の 実際の評価はそれ程関心がない方が多いと言うのが実態と感じます。
その方々は実際には一消費者であり、その消費者一人一人の考えが少しずつ「持続可能」の考えに進んでいける「キッカケ作り」が我々小売りの立場・役目と感じておりますが、 現状難易度が高いです。 何故か?それは、日本の魚・日本加工の魚・日本の業者が輸入した魚が肉類や野 菜類にも比較して「安心」であるという無意識的な要素があるから「今さら…」と感じるのではないでしょうか。
消費者自体も厳しい目を持っており、現に現代の小売にはこれは大丈夫かと思われる商品は売場に並ぶ事はほぼない状況です。その中で「お魚の認証」と言っても中々理解しにくいのが実態です。 但し、我々は約20年近くの間で PB である「顔が見えるお魚」を価格に関係なく育成した経緯・経験があり、そのPB 魚のステップアップと次年度に延期になった東京オリンピックに向けた更なる安心安全・持続可能な魚食活動推進として、今回 CoC 認証取得に踏み切りました。この日本発信の認証を、我々の売場(リアル &ネット)を通じて天然・養殖の生産者を巻込んで認知させることが我々の仕事と考えております。
最後に、これは関わる一人一人がこの認証を通じて今知らない人達に伝えていく・参加して頂く・伝承して頂く事を本気になって行えば明るい水産業界が見えてくるのではと感じます。今の弊社の将来への重要案件の一つであることも間違いありません。今後共、前向きに拡大した取り組みをしていきますので何卒宜しくお願い致します。

井上様有難うございました。「本気になって取り組めば明るい水産業が見えてくる」はとても心に響きました。ようやく「どこで買えるんですか?」にお答え出来る様になり生産者を含め元気が出ています。MEL認証が小売業様とお客様のお役に立ち、セブン&アイ様グループ内で認証取得を拡げていた
だけることを願っています。

6.関係者のコラム

今月はMELアドバイザリーボードのメンバーであり、浜のお母さん達の活性化と子供たちへの海洋・水産教育充実をライフワークとしておられる白石ユリ子様からMELへの叱正をいただきました。

MELジャパンは発信のとき

ウーマンズフォーラム魚
代表 白石ユリ子

2019年12月、関係者一丸となってのご努力でMELジャパンはGSSI承認を受けられた。誠に画期的なこととであり、どれだけ重要な前進であることかと心からの祝福を申し上げたい。

ただそれを誰に伝えるべきであろうか?  水産エコラベルは消費者が認めてこそ価値が生まれる。MELの存在を誰も知らない状況では、資源管理に取り組む生産者の努力が報われない。いまこそMELの意義や重要性を発信するときだと思う。

流通がMELの存在を認め、MEL認証の魚がようやく消費者に届くようになった。MEL事務局は広報対策に知恵をしぼり、全力投球できる体制づくりに力を入れてもらいたい。PRの予算がなくてもできることがあるはずだ。

 

関係者の力をお借りしてそれぞれのHPやPR活動に連動させてもらうことから始めてはどうか。農水省・水産庁は若手官僚がリモート対応を強化しこども向けのHPを展開している。こどもたちが家庭で実験できる学びの動画が満載で実に楽しく見事だ。MELのPRのためにできることは何でもするという絶対の意気込みがほしい。MELの発足から13年。真に国民にとって意味ある認証になることを念じている。

 

 

 

 

 

白石様有難うございました。白石様は旧MEL発足時からご指導いただいておりますが、持論である「水産エコラベルは消費者に認めてもらってこそ価値が生れる」を、事務局一同改めてシッカリ胸に刻み頑張って参ります。

7.その他

アドバイザリーボードのメンバーであります東京大学の牧野光琢先生が加わっておられる「新型コロナウィルスの水産業・地域影響研究グループ」によるアンケート調査と分析結果がHP上に公開されました。

https://www.chikyu.ac.jp/publicity/news/2020/0722.html

MEL認証を取得された皆様(6月時点)にも調査へのご協力をお願いしましたので、既に事務局より結果をご連絡をしておりますが、興味ある内容が報告されていますので是非ご覧下さい。

アドバイザリーボードに新たに前笹川平和財団海洋政策研究所所長寺島紘士様に加わっていただくことで手続き中です。寺島様は日本海洋政策学会副会長をお務めでMELのワークショップ等でも様々な助言をいただいておりますが、海洋ガバナンスの世界的権威であり、「海洋と水産」の視点からご指導をいただけますことを期待しております。

MEL事務局は、事務局長(養殖も担当)冠野尚教、事務局次長兼管理部長

(CoCも担当)須藤佳澄、技術課長(主に漁業を担当)秋本佳佑、業務課係長(総務・広報担当、会員・認証者窓口)小林由香里の体制が固まりました。勤務はテレワークとの組み合わせですが、事務所には必ず誰かが出勤していますので遠慮なく連絡して下さい。

 

国内主要地域で感染拡大への対応として、それぞれ独自の緊急事態への対策が出されています。新型コロナ禍制圧と経済再生は表裏かと思いますが、記録的なGDPの落ち込みの数字を見るにつけ両立の難しさを痛感しております。

これでまた業務用商品の需要が縮むと思うと胸が痛みます。牧野先生の研究グループのご指摘の「新しい生活様式に対応した新しいサプライチェーン構築」を皆様とご一緒に考えて見たいと思います。

当面暑い日が続く様ですが、皆様には呉々も健康に留意されますことをお祈り申上げます。

以上