MELニュース2020年 9月 第30号

2020年9月 第30号

 「温暖化で日本の海に何が起こるのか」(ブルーバックス、山本智之著)がベストセラーになっている様です。「たった1℃の水温上昇が海中を別世界に変えてしまう」と言う帯封につられて読んでみましたが、考えさせられる指摘が多くありました。筆者はかねてより「自然に勝る強者はいない」と申上げておりますが、この本の著者である山本智之氏が科学ジャーナリストとして自ら確かめられた現場の姿に憂慮を深くしました。MEL協議会のアドバイザリーボードのメンバーであります寺島紘士先生もご自身のブログで取上げられ、一読を勧めておられます。寺島先生の近著「海洋ガバナンス」(西日本出版社)とともにお読みいただければと思います。

1.GSSI関連

 承認維持審査(MOCA)の準備を粛々と進めています。GSSI事務局とはWeb会議で情報交換をしており、順調に進んでいると認識しています。
 10月8日に、GSSIからMELのMOCAの審査入りに関するプレゼンテーションを受け、いよいよ本番に向かいます。
 GSSIの基準の新バージョンに関しては、養殖の飼料の「同種同属給餌禁止」について海外のスキームオーナーからも科学的根拠への疑問が提示されており、議論の輪が拡がっています。MELとしては「同種同属給餌禁止」を新基準から外すべきではないかという主張を続けています。

2.認証関連

 今月の認証は、漁業0件、養殖0件、CoC 2件でした。
 認証の累計は漁業5件、養殖30件、CoC30件の合計65件となりました。
年次審査も順次行なわれており、コロナ下でもご関係の皆様の努力があり、認証制度はゆっくりではありますが着実に回っております。
 なお、現在審査機関が承認申請を受け付け、審査の過程にあるものが60件、コンサルティング中は70件あり、コロナによる行動の制約で審査が滞り気味であります。繰り返しになりますが、旧MELの認証は来年2021年1月31日で失効しますので、新MELへの移行を考えておられる皆様には手続きを急いでいただくようお願い申上げます。どの様に対応したら良いかのご相談はMEL事務局または審査機関である日水資にお寄せください。

 

3.規格委員会開催

 9月15日に漁業、養殖、CoC合同規格委員会を開催しました。
今回の規格委員会では、MEL運営管理規則に関する細則に従い「審査機関の審査はじめ当該規格に関係する活動や文書に実質的な影響を及ぼさない修正」に相当する流通加工認証関連文書の字句の修正およびCoCのマルチサイトCのサンプル数の考え方についてご説明をし了承をいただきました。
 なお、サンプル数の問題は今後マルチサイトCの年次審査結果等を有識者会議にご報告、議論をいただきながらより完成度を高めて行きます。
また、MELニュースでもご報告しております審査報告書のピアレビューは、現在審査機関の認証のプロセスの中で実施されていますが、今回これをスキームオーナーが「認証と審査の質を高めるための制度」として導入することを規格委員に諮りました。委員からは先ず実施することが大切あり、実施しながら公正公平を担保する等精度を高め、最終的には審査機関およびスキームオーナーから独立した組織とすることが望ましいとの意見をいただきました。
 審査機関とすり合わせ、スキーム文書を整えた上理事会の承認を経て審査機関への要求事項に反映させます。新制度による実施は準備が整い次第と言うことになります。MELが世界が認めるエコラベルとして一段進化するためには避けて通れない制度であるとご理解を賜りたいと思います。

4.イベント関連

 9月30日~10月2日に開催されます大日本水産会主催のジャパン インターナショナル シーフードショーにMEL協議会として出展、参加を準備しています。
 今年のショーはコロナ禍の下例年から大幅に縮小した開催となりますが、ショーの目玉の一つである「水産エコラベル」について、MEL協議会と認証取得者及び海外から参加のアラスカRFMとも協働してコーナーを作ります。
 また、初日の30日に「水産エコラベル ミニ ワークショップ」が開催されます。
広く各界の皆様とテーブルを囲んで、「ポストコロナの社会に水産エコラベルがどの様にお役立ちするか?」をテーマに、出席者の多様な知の交換を通して次のステップへの示唆を得たいと思っています。結果については来月号で報告させていただきます。

5.認証取得者からの報告

 今月は、原発事故からの福島の漁業の復興を推進しておられる、福島県漁連の鈴木哲二専務理事にお願いしました。原発事故のダメージから立ち上がりつつある矢先のコロナ禍が、皆様の努力の結果を摘んでいる実態に胸が痛みます。

「福島県漁業の今」

福島県漁業協同組合連合会
専務理事 鈴木哲二

 本県漁業界を取り巻く現状は、原発事故以来、沿岸域では試験操業を通じて、本格操業への模索を続けておるところでございます。そんな中、新型コロナウイルス感染症により社会経済が緊急停止の状況に陥り、本県産水産物の重要な販売先であります料理屋、居酒屋等外食関係への納入が減少し、常磐ものとして復活の途上にある高級魚ほど大きく値を下げるなど深刻な影響が出ております。また、これより近海物が美味しくなる秋、冬の盛漁期を迎えるにあたり漁業者、水産業者は今後を想定出来ず、不安な状況に置かれております。

 このような厳しい環境の中にはありますが、昨年取得しましたMEL V-2により、福島県産の巻き網マサバ、ゴマサバも、環境に優しく持続可能な漁業であることが世界的に証明されました。そして今年CoC認証を取得できたことで、生産現場から食卓まで持続可能な水産業として実践できるところに来ましたが、一般的にはまだ認知不足感はあります。今後、国内外での普及拡大に向け、関係機関と連携し取り組んでいくと共に、関連製品の生産体制の整備を行い、 MEL製品の販売拡大を図って参りたいと思っております。

 福島県漁業復活にはまだまだ時間を要するかとは思いますが、新たな魚種での漁業認証、CoC認証取得を目指し、持続可能な漁業・魚食活動の推進にあたりたいと考えております。

 鈴木専務有難うございました。「常磐もの」の販促にMELが些かでもお役に立てる様がんばります。汚染水処理も頭が痛い問題と認識しておりますが、関係の皆様のご尽力で一日も早く「常磐もの」が市場において往年の輝きを取り戻されることを願っています。

6.関係者のコラム

 今月は、MELの国際標準化をご指導いただきました東京大学教授の八木信行先生にお願いしました。八木先生は東南アジアの多様な水産業の研究に深く関わっておられ、MELのアジアの国々との関係つくりにもご支援をいただいています。

「サステナビリティー認証を日本人消費者にどう理解してもらえば良いのか」

東京大学 大学院農学生命学研究科
教授 八木 信行

 MELはサステナビリティー認証の1つですが、これを日本人に広めるためには一層の工夫が必要になっているように思います。そもそも「サステナビリティー」との単語自体、日本人には分かりにくいと思われます。和訳すると「持続可能性」となり、普段の会話ではまず使わない単語になります。
 そもそも環境保全やエコとどう違うのか疑問に思う人も多いでしょう。専門家であれば、国連の会合などで頻繁に使用される「持続可能な開発(サステナブル・デベロップメント)」との言葉を思い浮かべ、これが単なる環境保全だけでなく、経済や社会活動とも鼎立して成り立たせるべきものだと思い浮かべることができます。この知識を多くの消費者に伝え、単なる環境保全以上の意味を持つ概念が「サステナビリティー」で、自分たちの社会や経済にも関係があることがらだと繰り返し訴える工夫が必要です。
 更に「認証」も日本人消費者には分かりにくいコンセプトでしょう。「認証」とは、あることの正当性が確認できたものを他の類似品と区別するために何らかの印を付ける作業を指しています。性悪説に立った考えで、性善説であれば、世の中大体が善人だから黙って他人を信じてあげれば良いことになり、わざわざ疑ってかかって「認証」する必要はない、となります。特に顔見知りが多くて規範意識が高い日本の地方のコミュニティなどではそのように考える人は多いでしょう。そのような場所で、ヨーロッパ基準の「認証」がない製品は、たとえ隣の人が丹精込めて作った食品でも信頼できないなどと言おうものなら大変なことになります。人を信じられない失敬な奴、などと石を投げられて炎上するリスクがあります。従って「認証」付きのものでも、近所の顔見知りが作ったものでも、両方を肯定するような工夫が必要です。
 そもそも世の中には多様な意見があります。東日本大震災のあと、放射性物含む可能性がある水産物を強く忌避する人と、そうでない人が分かれました。原発事故から9年以上が経過した今でもこの傾向は続いています。しかし、どちらの態度が科学的で正しいのか、などと議論しても非難の応酬になり分断を招くだけです。人間の考え方には多様性があることを認め合うことが重要で、他人の主体性を無視して一つの考えを強引に押し付けてはいけません。日本のいじめ問題も、この辺に起源があるように思います。むしろ自分とは異なる意見を理解するように努めることが重要でしょう。仏教が伝来しても日本では神仏習合が残っています。MELの場合も、日本の現地事情に合わせて柔軟に運用していくことが「日本発の」サステナブル認証としてふさわしいように思います。日本人の意識を尊重し、柔軟なやり方で持続可能な開発を達成する工夫をすることこそが、日本での理解を広めることにつながるでしょう。

 八木先生有り難うございます。先生の正鵠を得たご指摘に心が引き締まる思いです。月末にMELミニワークショップを開催の予定をしており、参加者の皆様と議論を深めます。今後ともどうかよろしくご指導をお願いします。

 

 

 「コロナによる危機はマラソンレースに変った。困難な状況はこれからも続く」という減便で苦しむドイツのルフトハンザ社長のカールステン シュポア氏の言葉が他業界ながら胸に響きます。

 月が変れば神無月、実りの秋本番です。対コロナの規制が少し緩む上、Go To イートも始まることへの期待が膨らみます。しかし不漁による季節の玉不足がこたえており、定点観測しております鮮魚店の売場も、サンマが片隅に追いやられ、秋鮭ももう一つ勢いがありません。店主の話によれば、売り上げは金額では前年比15~20%の伸びをキープしているが、取扱い魚種を増やし毎日目先を変えながら広く薄く売りを稼いでいるとのこと。店内で手を加えた惣菜が寄与している様で、新たな生活の反映でしょうか。客数は依然として多く見受けられますので、是非この流れを大切にしたいと思っています。

皆様のご活躍をお祈りします。

 

 

以上