MELニュース2021年 8月 第41号

医療関係者が最も恐れていたシナリオ「爆発的感染拡大」、「医療崩壊」が現実となる中、皆様如何お過しでしょうか。
7月27-29日に開催されたWCPFCとIATTCの合同作業部会で、関係国が資源回復に力を入れてきた太平洋クロマグロの2022年の大型魚漁獲枠の15%増が暫定合意されました。勿論最終決定まで様々な議論があると思いますが、大西洋クロマグロに続いて漁獲を管理して資源回復を成功させた関係者の努力に敬意を表したいと思います。
時を同じくしてMSCは、現在認証している中西部太平洋のマグロの22漁業について、MSCが求める改善(FAOの責任ある漁業に関する行動規範において推奨されている漁獲管理ルールおよび資源評価指標を達成する)をWCPFCが実行できないなら2023年6月に認証の一時停止を行なうことがあり得ることを発表しました。一般論としては「行政の政策と第三者認証の違い」となりますが、様々な影響を考えると事業者にとって考え方の違いで片付けるには重た過ぎる問題です。何か行動出来ることがあるか広く皆様の意見を伺って見ます。

1. 国際標準化関連

MELのGSSI承認継続審査(MOCA)はベンチマーク委員会によるチェックがまだ終了せず、8月末から予定していたパブリックコンサルテーション(パブコメ募集)が開始も少々遅れそうです。パブコメ募集は30日間、その後コメントへの対応が開始されます。GSSIの審査員(Independent Expert)によるMELの承認継続の推薦は既に終わっており、ベンチマーク委員会による承認でようやくパブコメ開始までたどり着きます。2019年に行なわれたMEL承認時のパブコメに比較し、認証制度を見る目もまた社会の期待も一段厳しくなっていると認識しています。
MEL協議会は、繰り返しになりますが、関係者の皆様とともに次々起こる課題に対応し日々進化しながら「日本発、世界が認める水産エコラベルをつくる」が一歩一歩実現する手応えを感じています。審査機関、認証取得者はじめ
多くの皆様のご理解とご支援に深謝します。

2. 認証状況

今月の承認は旧盆月と言うこともあり漁業1件、養殖1件、CoC2件の計
4件でした。
累計認証件数は漁業11、養殖49、CoC78の計138件になりました。

3. 認証取得者からのご報告

今月は築地魚市場(株)の吉田 猛社長に、市場大卸から見た「水産エコラベ
ルの活用」をテーマに執筆をお願いしました。なお、築地魚市場様はグループ企業を含めMEL以前にMSC、ASC認証を取得され先進的な活動をしておられます。

「水産食品卸としてMEL認証への取組みについて」

築地魚市場株式会社
代表取締役社長 吉田 猛

はじめに企業紹介をさせていただきます。
・築地魚市場(株)は東京魚市場(株)時代より約75年間水産卸業として、「東市」の名前で多くの水産物を取り扱ってまいりました。
現在は築地市場から豊洲市場へ拠点を移し、水産物の安定供給と消費者
皆様への魅力ある商品開発に努力を重ねてまいります。
つぎに認証取得への経緯についてお話させていただきます。
・当社はMEL 流通加工段階(CoC)認証を2020年9月4日に取得いたしました。その時点での取得背景としては、
① 2020年東京オリンピック開催にあたり食材供給先としてレストラン、
飲食業の強い要請があった事。
② SDGsという環境下において「安全・安心な食材」の機運が各方面より 高まり、特に輸出事業においての必要性が出てきた事であります。そんな中、業界に先んじたMEL認証取得を果たしました。
当社の現在の取組みをご紹介させていただきたいと思います。
・現在、当社が推進中の2021年~23年度中期計画の中で「水産食品卸としてのプラットホームを充実させ持続的な成長を目指す。」を企業コンセプトに
お客様とのコラボによるMELの展開を行いました。

事例①「震災10年目にあたり風化させないよう福島県との取組み」
「2021年度、東北振興支援MEL認証サバ西京漬け提案」ということで 当社として(原料の選別/買付)→(商品企画設計)→(原料配送)→(トレサビ検査確認)の役割を担い福島県漁連とのタイアップ企画を実施し大変好評な企画として大いに実績を上げることができました。

事例②「有力お得意様との取組み強化を図りました」
現在MEL認証のある養殖鯛をメインとしてそれをベースに有力量販企業
数社との取組み連携強化を図りました、またMEL魚種拡大のための提案
として魚メニューの訴求にも現在力を入れた活動を行っております。

今後への展開として
当社はMEL取得により、更なる魚種の拡大と共にお客様への更なる告知を行い持続可能な水産物への環境配慮型への挑戦を今後とも進めてゆき
たいと思っております。
結びにあたり昨今のコロナ禍という大変厳しい環境下ではありますが、
MEL認証魚種のお客様へのアピールと認証チェーンの連携により確かな
品質保持を行いながらより大きなビジネスチャンスに向けて社会への貢献を果たしてゆきたいと、考えております。

吉田社長有難うございました。MEL認証を積極的に活用いただき嬉しい限りです。全国の市場大卸でMELCoC認証を取得しておられる会社は11社ありますが、東市様の活動が皆様への良い刺激になることを願っております。
今後ともよろしくお願いします。

4. 関係者のコラム

世界的に養殖業の経営革新が進む中、日本が養殖業を成長産業として世界に伍するための課題について、その渦中で活躍しておられる三菱商事(株)の
柏木 康全執行役員(農水産本部長)に持論の披瀝をお願いしました。

「MELと供に歩む、国内水産養殖業の持続的成長の可能性」

三菱商事(株) 執行役員 農水産本部長
柏木 康全

  ノルウェーの鮭鱒養殖会社を買収して以降、水産事業で活躍されている海外の様々な方々との交流が増えました。 コロナ前の出来事ですが、丘の上からブリの養殖現場が一望できる場所に中国の水産バイヤーを案内した際、『ここで育てた魚を中国の消費者に食べさせてあげたい』と感嘆の声を上げられました。そこには、日本の豊潤な海に対するリスペクトとその環境で魚を大切に育てる日本人への信頼が溢れていました。『日本産ブランド力』の強さを再認識出来た瞬間でした。 一方で、『日本産水産物』というブランド力は、海外市場においてその力を100%発揮します。従い、海外市場での展開を事業戦略の柱に組み込んだ事業モデルは、『日本産水産物』というブランド力を最大限に活用した事業となります。既に、ホタテ養殖やブリ養殖では、海外市場の開拓が進んでいますが、これを、経済合理性を確保した上で世界の不可逆な潮流で有るESGに対応するモデルに進化させる事が、日本の水産養殖業が更なる持続的な成長を遂げる為の、有力な選択肢で有ると確信しています。


具体的には、デジタル技術を活用した養殖事業スマート化を通じた養殖コスト削減と環境への負荷軽減の両立です。例えば、養殖サーモン事業においては、海の状態と魚の状態から最適な給餌を行う匠の技をIOTとAIを活用して組織知化する実証実験が進んでいます。この取組は給餌効率の改善によるコスト削減効果と同時に、過剰な給餌を回避する事による環境への負荷軽減に直結します。海の環境を維持する事は、『国産ブランド』を維持する事を意味します。

実は、水産養殖業は、デジタルとアナログが融和する最適な現場なのです。
加えて、グリーン養殖への取組です。 元来、水産養殖業は、GHG(温室効果ガス)排出量が他の生産事業に比較して少ないのが特徴ですので、地域グリーン電力化の動きに呼応して、世界に先駆けて、カーボンニュートラルを実現出来れば、国産ブランドとの相乗効果によって、付加価値を取れる蓋然性が高まります。これを、公式風に表現すると以下の通りとなります。
『国産ブランド』×『スマート養殖』×『グリーン養殖』=『養殖事業の持続的成長』
ここで、このモデルを成立させる上で必要不可欠な要素が、世界に認知された認証機関からの認証の取付けです。水産業界のサプライチェーンで事業を行う我々は、MELの受益者の立場ですが、一方で、消費者を巻き込んだ持続的な水産資源の活用というムーブメントをMELと共同で起こしていく責任も負っています。 世界に誇れる強い事業モデルを構築し、そこで生産された生産物をMELと一体となって海外市場に展開する、そしてその活動を通じグローバル市場におけるMELのステータスが更に高まり、結果的に我々の事業モデルも強化される、その様なプラスの連鎖の実現を念頭に、今後も様々な事業に取り組む所存です。

柏木様有難うございました。高い志と熱い心に感服します。MELは国際標準化推進と共に、世界で存在感を高めることを通して皆様のお役に立てるようこれからも進化を続けます。

5. 認証商品の販促事例のご紹介

MELニュース先月号で小売業におけるMELCoC認証の拡大をお伝えしましたが、発売された「セブンプレミアムフレッシュ」についてイトーヨーカドーの湯山 一樹シニアスーパーバイザーに状況をレポ―ト頂きました。

「グループ全体でのMEL」の新たなるチャレンジ

(株)イトーヨーカ堂 マルシェ部
湯山 一樹

昨年4月以降、店頭にて「マリン・エコラベル」のついた商品を販売させて頂き有難うございます。この6月までは弊社グループ内では、IYのみがこのMELの取組みを実施しておりましたが、この7月以降グループ内のYB(ヨークベニマル)とYO(ヨーク)が認証取得に成功し、そのタイミングで期間限定での「夏ぶり」を3社合同販売でセブンプレミアムフレッシュとして導入させて頂きました。3社の仕入担当(MD)が中心となり、約1年半前から商談・打合せを開始し、産地訪問~工場確認等を経て何とかこの夏に販売する事が出来ました。

特に今期は初年度のトライアルという形で約40,000尾-45,000尾(愛媛県日振島産)を計画、ほぼ計画通りに推移しました。次年度以降、新たな魚種含めた3社合同開発を加工品含め拡大化していく予定です。

湯山様有難うございました。更なる拡大を期待しております。今後ともMEL認証取得商品をよろしくお願いします。認証事業者の皆様はぜひ積極的に提案をして下さい。

6. 「MELエコバッグ」アフリカを行く

MELのノベルティとして好評を頂いています「MELエコバッグ」が、はる
ばる西アフリカのコートジボアールに渡りました。

10年前からコートジボアールの女性漁業者の支援活動を続けておられる「ウーマンズフォーラム魚代表/NPO海のくに・日本 理事長」の白石ユリ子様(MELのアドバイザリーボードのメンバー)が7月末現地まで持参下さいました。
今年のテーマは「魚のすり身加工技術を通した自立支援」で、エコバッグはアビジャンで開催されたワークショップへの参加者に配布され、水産エコラベルへの関心が持たれるキッカケとなったとの報告を頂いております。コロナ禍にもかかわらず、秋にも実施されると伺いその情熱に頭が下がる思いです。

西アフリカはかつて日本のトロール船の主要漁場であり、漁獲物の一部が現地で販売、消費された歴史が魚食の素地となって、更に今日の日本からのサバの輸出につながっています。遠く離れたアフリカでもMELが日本産サバとともに認知されることになればと願っております。

白石様はじめチームの皆様有難うございました。

7. 新規審査員研修会

MEL認証の新たな審査員を一から養成する「審査員養成研修会」を開催いたします。詳しくは 9 月以降、MEL の WEB サイト上でご案内いたします。 開催予定日は 2021 年 10 月 25 日(月)~27 日(水)です。 大変お手数ですが、ご質問・お問い合わせは研修実施機関の株式会社テクノファへお願いいたします。

株式会社テクノファ 担当 研修事業部 伊藤 様
TEL: 044-246-0910 E-mail: sea@technofer.co.jp

 

8月は日本人にとって、特に戦前生まれの世代には特別な月です。原爆忌、終戦の日、あるいは次元は全く違いますが戦前から 100 年以上の歴史を紡ぎ毎年数々のドラマを生んで来た高校野球と日本の出来事がぎゅっと濃縮されて詰ま っています。今年はコロナ下のオリ・パラ開催、猛暑に続く各地の豪雨被害そして残暑に見舞われながら複雑な気持ちで過ごしました。 IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の最新版報告書(6次報告書)が公表されました。課題の気温上昇抑制は、産業革命以降の 1.5℃上昇が前回(2018 年)の予想より 10 年早まると指摘しています。報告書には、気温上昇を止めることが出来ても地球が元に戻るのには気が遠くなるような長い時間が必要と書いてあります。 今年の海の日はオリンピックに飲み込まれてしまいましたが、どうやって「海を守る」かを考え、行動することは待ったなしです。
暑さとコロナに負けない様頑張りましょう。

以上